「レディ・プレイヤー1」にも「IT/イット」にも80年代の香りが
ここ数年、日本で公開されるハリウッド映画で、やや減少傾向のジャンルがある。それは「青春映画」。今や、口に出すのもちょっぴり照れくさい「青春」という単語の響き。しかし青春映画の名作が減りつつある現実のなか、逆にそのジャンルが最も輝いていた時代に思いを馳せるクリエイターたちが増えているのも事実だ。その時代とは、1980年代。
当時の映画に触発されて映画監督となり、現在のハリウッドの一線で活躍している世代や、あるいは当時はまだ若手だったが、現在は巨匠の座についた監督が、ノスタルジーを込めて1980年代の青春映画を回顧し、その熱い愛を表現する。そんなケースが、ここ数年、とみに目立ってきた。「80年代ブーム」と言っても大げさではないほどに!
スティーヴン・スピルバーグ監督は最新作「レディ・プレイヤー1」に溢れるほどの80年代カルチャー愛を注ぎ込んだ。そこには「セイ・エニシング」、「フェリスはある朝突然に」といった青春映画の傑作も数多く含まれている。
昨年、日本でも予想外のヒットを記録した「IT/イット 〝それ〞が見えたら、終わり。」も、同じスティーヴン・キングが原作で、80年代の人気作「スタンド・バイ・ミー」と重なり合う作品だった。「IT〜」のジャンルはホラーかもしれないが、舞台が1989年ということで80年代青春映画の香りが濃厚に立ちこめていたのである。主人公たちの少年時代は、原作では1950年代だった。それをわざわざ80年代に変更したわけで、80年代ブームを意識したとも考えられる。
この「IT〜」でメインキャラクターの一人、リッチーを演じたフィン・ウォルフハードは、ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」にも出演しているが、同作こそ、現在の80年代ブームのきっかけを作ったと言えそう。少年たちの関係性や、団結して冒険に挑むドラマには「グーニーズ」や「スタンド・バイ・ミー」、「E・T」、「炎の少女チャーリー」といった80年代を象徴する少年/少女映画へのオマージュがぎっしり詰まっていた。この特徴は「IT〜」と共通している。
改めて脚光を浴びているジョン・ヒューズの監督作群
80年代テイストを「青春映画」に絞ったのが、「スパイダーマン:ホームカミング」だった。監督のジョン・ワッツ(81年生まれ)が演出上で意識したのは、ジョン・ヒューズ監督の作品。80年代青春映画の名手である。「すてきな片想い」や「ブレックファスト・クラブ」、「ときめきサイエンス」、「フェリスはある朝突然に」など、80年代当時、日本でもジョン・ヒューズ作品に心をつかまれた観客が続出。ティーンエイジャーのリアルな日常と関係性を見つめ、いまだに「大切な宝物」として、これらの作品を愛している人は多い。
「スパイダーマン〜」では「フェリスはある朝突然に」のシークエンスがそのまま引用されるだけでなく、主人公たちの関係性がジョン・ヒューズ作品全体を意識している。このアプローチは「レディ・プレイヤー1」も同じ。問題を起こした高校生たちが休日登校させられる「ブレックファスト・クラブ」の設定は、「パワーレンジャー」や「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」など最近の話題作にも受け継がれていたりして、ジョン・ヒューズ作品が改めて脚光を浴びているのだ。
その「ブレックファスト・クラブ」では、エミリオ・エステヴェス、モリー・リングウォルドらハリウッドの若手スターが共演。「フェリスはある朝突然に」もマシュー・ブロドリックを一気にブレイクさせた。
ジョン・ヒューズ作品に限らず、青春映画が多く作られた80年代は、多くの新たなスターが誕生し、彼らは「ブラット・パック」という総称で呼ばれた。これは1950〜60年代に、フランク・シナトラらの仲間の通称「ラット・パック」をもじったもので、Brat=悪ガキの集団という意味。日本ではYA(ヤングアダルト)スターとも呼ばれ、ひとつのムーヴメントが作られた。
男優も女優も、さまざまなタイプのスターが続出したので、青春映画を観れば「必ず誰かにときめく」という法則ができ上がったのである。
ブラット・パックをはじめ80年代は若き才能の宝庫だった
ブラット・パックやYAスターを象徴した名作といえば、フランシス・フォード・コッポラ監督の「アウトサイダー」だ。ティーン男子の熱く悲痛な群像劇ということで、キャストにも注目男優がズラリ。マット・ディロン、ロブ・ロー、パトリック・スウェーズ、エミリオ・エステヴェスの中心メンバーのほか、出番は少なめながら、あのトム・クルーズが注目された一作にもなった。女優ではダイアン・レーンが参加。
もう一作は「セント・エルモス・ファイアー」で、将来の夢と現実で葛藤する若者たちの切実な姿が、エミリオやロブの他に、デミ・ムーアら魅力的スターの顔合わせで共感を集めた。
その他、大まかにブラット・パック出身といえば、「フットルース」のケヴィン・ベーコン、「レス・ザン・ザロ」のロバート・ダウニー・ジュニア、「セイ・エニシング」のジョン・キューザック、「スタンド・バイ・ミー」や「ヤングガン」のキーファー・サザーランド、「プラトーン」、「ヤングガン」のチャーリー・シーンなど、現在も活躍している大スターたちが並ぶ。
80年代の最後に登場して人気を博したウィノーナ・ライダーは、「ストレンジャー・シングス」に出演して80年代への回帰を体現した。そして「スタンド・バイ・ミー」のリヴァー・フェニックスのように、若くして亡くなり伝説となったスターもいて、まさに80年代は若き才能の宝庫だった。
リヴァーといえば「旅立ちの時」こそ、時を超えた青春映画の金字塔だろう。「フェーム」や「フラッシュダンス」、「フットルース」、「ダーティ・ダンシング」など、革命的なダンス青春映画が誕生したのも80年代。
いま改めてこれらの作品を観直すことで、スターたちのピュアな原点を再発見できるのはもちろん、80年代に量産された青春映画が輝きを失っていないことがわかるはず。時代に関係なく、変わらない十代の複雑な心模様。そして80年代ならではの、いい意味での豪快で自由な作風。ノスタルジーを誘いつつ、新たな感動を呼ぶのが、80年代の青春映画なのである。