『淵に立つ』が第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞し、世界中の映画人が注目する深田晃司監督の最新作『海を駆ける』が完成。2011年の東日本大震災の後に震災復興のリサーチに参加し、2004年にスマトラ島沖大震災で津波で壊滅的な被害を受けつつも今では完全に復興を遂げた街バンダ・アチェを訪れた際に本作のアイデアを想起したという深田監督。突然現れた正体不明の主人公・ラウを演じるのは、俳優、ミュージシャン、報道番組のインフルエンサーなど幅広く活躍するディーン・フジオカ。国籍や言葉も不明だが常に穏やかに微笑む不思議な存在ラウ(インドネシア語で“海”)を、ミステリアスに演じている。バンダ・アチェでオールロケを敢行した今作について、深田監督とディーン・フジオカに語ってもらった。
画像: インドネシアのバンダ・アチェを舞台にした
美しきファンタジー『海を駆ける』
深田晃司監督 × ディーン・フジオカ インタビュー

【ストーリー】
インドネシアのバンダ・アチェの海岸で身元不明の男(ディーン・フジオカ)が倒れている。日本からアチェに移住し、NGOで地震災害復興支援仕事をしながら息子タカシ(太賀)と暮らす貴子(鶴田真由)。タカシの同級生のクリス(アディパティ・ドルケン)、その幼馴染でジャーナリスト志望のイルマ(セカール・サリ)が、貴子の家で取材をしている最中、その身元不明の日本人らしき男が発見されたとの連絡が入る。まもなく日本からやって来る親戚のサチコ(阿部純子)の出迎えをタカシに託し、貴子は男の身元確認に向かう。記憶喪失ではないかと診断された男は、しばらく貴子の家で預かることになり、海で発見されたことから“ラウ”=インドネシア語で「海」と名付けられる。ほかに確かな手掛かりはなく、貴子と共にイルマ、タカシやクリス、サチコも、ラウの身元捜しを手伝うことになる。片言の日本語やインドネシア語は話せるようだが、いつもただ静かに微笑んでいるだけのラウ。しかしその周りでは少しずつ不可思議な奇跡と現象が起こり始めていた。果たして“ラウ”は何者なのか…。

深田「インドネシアのスタッフはみんな人生を楽しんでいる」
ディーン「異文化が混じり合っていくことは面白い」

ーー深田監督はディーンさんの写真をご覧になって“中性的で子供のような無邪気さを持った雰囲気”に惹かれ、ラウ役をオファーされたそうですね。
深田「僕は作家マークトゥエインの小説が好きなのですが、ラウのキャラクター像を作るにあたり、彼の晩年のペシミスティックな世界観が叩き込まれた『不思議な少年美しき44号』を思い出したんです。この小説には悪魔的な少年が色んなことをひっかきまわしていく様が描かれているのですが、ラウは悪魔的というよりはもう少しフラットな、死生そのもののような存在にしたいと思いました。そんなイメージの雰囲気や佇まいを持つ俳優さんを探していくなかで、“ディーンさんがいいんじゃないか”という声があがったので経歴などを見たら、香港や台湾、ジャカルタ、日本など世界で活躍されていて面白い方だなと。それで実際にお会いしてみたら、世俗から離れたラウという役をそのまま演じて頂けそうだなと感じたんです。それでお願いしたんですけど、蝶を追いかけているラウの表情が最高で、僕とほぼ同い年なのにこんなに無邪気な表情ができる人がいるのかと驚きました(笑)。その時にディーンさんにお願いして本当に良かったなと実感しました」
ディーン「ありがとうございます(笑)」
深田「しかもあの蝶は実際には飛んでないですからね(笑)」
ディーン「エア蝶でしたね(笑)。アザーン(イスラムの礼拝の呼びかけ)が鳴り響くなかエア蝶を追いかけていました(笑)」

Photo by Tsukasa Kubota

ーーディーンさんは今作に参加されてみていかがでしたか?
ディーン「役者としてはもちろん、人生においてこの作品の一部になれたこと、そしてこうやって作品の話ができることが凄く特別なことだと感じています。日本で仕事を始める前からインドネシアでは仕事をしていて、音楽を制作したりCMなどの出演経験はあっても、インドネシアで映画の撮影に携わることはなかったのでいつかやってみたいと思っていたんです。バンダ・アチェでインドネシアのチームと日本のチームが一丸となって過ごした日々というのは夢のようなかけがえのない時間でした。僕が他国に移住したあと、祖国に対して“もっとこうなったらいいのに”とか、日本を含めた世界に対して“もっとこういう風になったら”という思いを抱えていたんですけど、それを映画という形で世の中に提示できたことは本当にありがたいことだなと。家族も喜んでくれると思います」

画像1: 深田「インドネシアのスタッフはみんな人生を楽しんでいる」 ディーン「異文化が混じり合っていくことは面白い」
画像2: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

ーーアチェでの撮影で印象に残ったことがあれば教えて頂けますか。
深田「日本人がインドネシアに行って日本映画を撮ってきたというよりは、今回はインドネシアの流儀に合わせて映画を撮ったと言えると思います。こういうことは初めてで、インドネシア人のスタッフとキャスト、日本人スタッフとキャストがみんな混じり合った現場は非常に面白くて貴重な体験になりました。インドネシアのスタッフに関してはみんな楽しみながら仕事をしていましたし、もっと言うと人生を楽しんでいる印象を受けました。サバンという島で撮影をしていた時に、昼休憩で食事をしていたらインドネシア人のスタッフの一人が歌い始めたんです。そしたら他の人も歌い始めて、踊り始める人までいて(笑)、それってかなり幸せな風景ですよね。日本の撮影時の昼休憩なんてみんな黙々と食べていますから(笑)。それで、日本人スタッフが対抗してみんなが歌えそうな『乾杯』とか歌い始めたんですけど、インドネシア人ほどは歌えないんです。結局インドネシア人スタッフが気を遣って日本語の歌を歌ってました(笑)」
ディーン「インドネシアで最も有名な五輪真弓さんの『心の友』ですか?」
深田「『心の友』も日本語で歌っていましたし、あちらはJKT48が有名なのでAKB48の曲をインドネシア語で歌ってくれました(笑)」

ーーその時はディーンさんはいらっしゃったのですか?
深田「ディーンさんはアチェにいたのかな? 残念ながらいなかったです」

ーーもしディーンさんがその場にいたら日本語の歌で盛り上げてくださったかもしれないですよね。
深田「そうですよね(笑)」
ディーン「その場にはいなかったんですけど、何度かそういう場面には遭遇しました。インドネシア人のスタッフさんやキャストは良い作品を作るということと、良い思い出を作るということを両方意識されていて、どちらに対しても凄くモチベーションが高いんです。もちろん今まで違うカテゴリーの仕事でインドネシアの方とはご一緒していましたけど、今回のような長い期間一緒に作品を作っていくのは初めてで、改めてインドネシアの国民性というか、良い部分が見えました…というか元々そういう素敵な部分を知っていましたけど“やっぱりいいな!!”と(笑)。だからクランクアップしてしまった時はとても名残り惜しかったです」

画像2: 深田「インドネシアのスタッフはみんな人生を楽しんでいる」 ディーン「異文化が混じり合っていくことは面白い」

Photo by Tsukasa Kubota

ーーロケが多い撮影のためレインストッパー(雨を止ませる祈祷師)がスタッフとして参加していたそうですが、見事にその祈りは天に届いたとか。
深田「決して予算が余っているわけではなかったので、撮影に入る前にスタッフに関してできるだけ少数制でやろうということになっていたんです。日本のプロデューサーにとったらレインストッパーは当然必要のないスタッフということになるんですけど、インドネシアのプロデューサーからは“本当にレインストッパーは必要ないですか?”という意見が出て(笑)。最終的にはレインストッパーの方にお願いして大正解でした。というのも、レインストッパーが来る前に現地でロケハンしようと思ったら土砂降りが続いて…」
ディーン「クランクインの2〜3日前に僕も現地入りしたんですけど雨がもの凄く降ってました」
深田「バケツをひっくり返したような雨でロケハンすらままならない状況が続いたんです。予備日もそんなになかったので最後まで撮りきれるか心配だったんですけど、クランクインの前日にレインストッパーが合流されて、クランクインの日から3週間、雨でNGになる日が一日も無かったんです!」

ーー効果覿面ですね!
深田「僕は直接は見てないんですけど、目撃した照明さんの話によると、パラパラと雨が降りそうになってくるとレインストッパーが“そろそろ自分の仕事だな”と外に出てきて、雨雲を払いのけるような仕草をしたら雨雲が流れていったとか(笑)」
ディーン「いつもはコーヒーを飲んでタバコを吸っているだけなんですけど、雨雲が近づいてきたら“どれどれ”といった感じで自分の仕事を始めるんです(笑)」
深田「ディーンさんも目撃されましたか?」
ディーン「何度も見ました! 凄かったです(笑)」
深田「僕も一度見てみたかったです(笑)」

ーーそういうことも含めて神秘的なことって実際に起こるんだなと思いました。神秘的と言えば劇中でラウが水の玉を出すシーンがありますが、とてもリアルに感じました。
深田「ああいった不思議なことが起きるシーンは、できるだけ現実と地続きになるように見せたいと思っているんです。例えばハリウッド映画のように“何かが起きるぞ!”とそこにズームしていくのではなく(笑)、しれっと起きてしまうような。水の玉のシーンに関してはイルマのビデオカメラに写っているとか、テレビモニター越しに見るとか、不思議な現象をフィルターひとつ挟んでお客さんが目撃するような見せ方にしてみました」

画像3: 深田「インドネシアのスタッフはみんな人生を楽しんでいる」 ディーン「異文化が混じり合っていくことは面白い」

ーーお二人がこの作品に込めたメッセージを教えて頂けますか。
深田「メッセージというのはあまり意識してないんですけど、例えば阿部純子さん演じるサチコや太賀くん演じるタカシといった若者達の他愛ない恋愛騒動を描くことで、彼らが立つ地面と地続きにある社会問題や津波、そして戦争なども同時に描くことができるのではないかと。映画を撮る時は常にそういったことを意識しているのですが、今回はそういった問題とは関係なくサチコ達と同じ地面に立ち、存在してしまうラウを描くことで、今までとは違ったものも描けたのではないかなと思っています」
ディーン「個人的なメッセージを込めていたとしても、それは僕の立場で言うことではないのかなと思っていて。僕の願いとしては、この作品を一人でも多くの人に観て頂いて、自分の視線の先に何があって、そこに対してどんな希望を持てるのかといったことを感じて頂けたらいいなと思います。色んなこととどう向き合うかで自分の人生が喜劇にも悲劇にもなりますから。単純にこの作品がきっかけでアチェに行ってみようと思うことが人生を変えるかもしれないですし。あと、どんどん異文化が混じり合っていくことは面白いと思っているので、同業者の方にもこの作品を観て頂いて、いまこの時代にこの映画を作ったという意味をそれぞれの立場で感じて頂けたらいいなと。それが何か違う形でそれぞれ消化されていって、アウトプットに繋がっていったらひとつのムーブメントになるのではないかなと思っています」

画像4: 深田「インドネシアのスタッフはみんな人生を楽しんでいる」 ディーン「異文化が混じり合っていくことは面白い」
画像5: 深田「インドネシアのスタッフはみんな人生を楽しんでいる」 ディーン「異文化が混じり合っていくことは面白い」

ーーでは最後に、SCREEN ONLINE読者のためにお二人のオススメの洋画を教えて頂けますか。
深田「『海を駆ける』を意識して1本選ぶとするならば、インドネシアのエドウィン監督の『空を飛びたい盲目のブタ』が非常に面白いので是非観て頂きたいです」
ディーン「僕はアクションが最高にカッコいい『ザ・レイド』もオススメなんですけど、『海を駆ける』を意識して選ぶとしたら『アクト・オブ・キリング』でしょうか。1965年の9.30事件以降に起きた、インドネシア共産党支持者への虐殺を描いた作品ですが、それまで自分が見ていたのはインドネシアの表面的な部分だったんだと感じました。それとは全く違うインドネシアの側面が見えましたし、インドネシアという国により興味が持てた映画です。『海を駆ける』をご覧になったあとに、是非『アクト・オブ・キリング』もご覧になってみてください」

Photo by Tsukasa Kubota

画像5: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

ディーン・フジオカ
ヘアメイク:新宮利彦
スタイリスト:カワダイソン(インパナトーレ)

(文/奥村百恵)

監督・脚本・編集:深田晃司
キャスト:ディーン・フジオカ
     太賀、阿部純子
     アディパティ・ドルケン、セカール・サリ
     鶴田真由
配給:日活 東京テアトル
製作:日活 東京テアトル アミューズ 太陽企画 朝日新聞社 TBSサービス/Comme des Cinémas Kaninga Pictures
5月26日(土)全国ロードショー

画像: 映画『海を駆ける』予告編 youtu.be

映画『海を駆ける』予告編

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