20世紀フォックス映画の子会社として94年に設立
2018年3月に開かれた第90回アカデミー賞授賞式は、FOXサーチライト・ピクチャーズのために開かれたかのようだった。出品した『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞の4部門に輝き、同じく『スリー・ビルボード』が主演女優賞、助演男優賞を獲得したのだ。
これまでも数々の話題作を生み出し、アカデミー賞の常連だったFOXサーチライトだが、2本の作品でアカデミー賞の主要部門のほとんどを占めたことはなかった。同時期にリリースされる『gifted/ギフテッド』もまたFOXサーチライトの作品だ。瑞々しい青春ラブストーリー『(500)日のサマー』(2009)で長編劇映画デビューを果たしたマーク・ウェブの2017年作品で、天才少女と周囲の大人たちの葛藤を描き、瑞々しい感動を与えてくれるコメディだ。
こうした秀作群を輩出するFOXサーチライトは、名前の通り、20世紀フォックス映画の子会社として1994年に設立された。当時のアメリカ映画界は個性的なインディペンデント作品が話題になりはじめた頃で、そうした流れを取り込むべく誕生した。基本的にインディペンデント色が強く、大作ではないが心に残る作品の製作、配給を行なうのが主旨だ。
記念すべき第1回作品は、1995年に公開されたエドワード・バーンズ監督・脚本・主演作『マクマレン兄弟』。この作品はサンダンス映画祭で審査員大賞、ドービル映画祭審査員特別賞に輝くなど大いに注目され、バーンズ自身もスティーヴン・スピルバーグ監督作『プライベート・ライアン』に抜擢されるなど、俳優としての道も拓けた。
第1回作品の成功から、FOXサーチライトは個性に富んだ、琴線に触れる作品を次々と送り出した。
そこにはニューヨーク・インディーズの匠スパイク・リーや、イタリアの巨匠ベルナルド・ベルトルッチの作品も含まれている。アメリカのみならず、国を超えて、幅広くアイデアと才能を求めたのだ。
そうした姿勢のもとで世界的な評価を集めたのが、1997年に製作された『フル・モンティ』だ。イギリス北部の工場を失業した労働者が男性ストリップで一旗揚げようとする切なくもおかしい人情コメディ。主演のロバート・カーライルの熱演と、ピーター・カッタネオの誠実な演出が題材にフィットし、世界の興行収入が2億8000万ドルを超えるヒットとなった。以降、FOXサーチライト作品に広く注目が集まるようになった。
若手の作家だけに限らず異才や外国監督にも門戸を開く
FOXサーチライトの注目すべきポイントは、門戸を広く開いていることだ。企画第一主義であり、監督にはできる限りの自由を与えることを信条としている。
インディーズの旗手といわれたアレクサンダー・ペインを起用した、中年男のペーソスたっぷりのワイナリー紀行『サイドウェイ』(2004)は、ペインにアカデミー脚色賞をもたらし、後にジョージ・クルーニー主演のホームドラマ『ファミリー・ツリー』(2011)でも同賞に輝いている。
ペインに限らず、FOXサーチライト作品を手がけて、脚光を浴びた監督は多い。
シニカルなコメディ『サンキュー・スモーキング』(2005)で才気溢れる演出をみせたジェーソン・ライトマンは、続く『JUNO/ジュノ』(2006)で妊娠した16歳の少女をユーモアたっぷりに映像化し、アカデミー監督賞にノミネートされている(脚本のディアブロ・コディーはオスカーを受賞した)。
また、PVで実力を培ったマーク・ロマネクはカズオ・イシグロの傑作小説の映画化『わたしを離さないで』(2010)を送り出した。アメリカ映画界の登竜門的な位置づけは、こうした若手に限らない。難解な異才という評価だったダーレン・アロノフスキーを信じて、バレエダンサーの心の闇を描いた『ブラック・スワン』(2010)を製作。主演のナタリー・ポートマンはアカデミー賞に輝いた。
アメリカ人監督以外でも、メジャーになった存在は数多い。スコットランド出身のダニー・ボイルは『スラムドッグ$ミリオネア』や『127時間』でFOXサーチライトとコラボレートし、世界的な名声を獲得。アイルランドの監督ジョン・クローリーは『ブルックリン』(2015)で故国とアメリカのつながりをくっきりと浮き彫りにした。
さらにカナダ出身のジャン・マルク・ヴァレは、ひとりの女性の精神的成長の旅を紡いだ『わたしに会うまでの1600キロ』で実力を再認識させ、メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー作品賞、監督賞を獲得している。
『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』の成功はFOXサーチライトのこうした軌跡の上に花咲いたといえる。
企画を練りこんで、監督が力をふるえる場を与え、企画にあったキャスティングで勝負。内容的に決して難解ではなく、みる者の心に触れる作品を信条とする――FOXサーチライト作品は今後もいろいろな映画祭を賑わし、多くの客を集めることだろう。