夏休みの季節。長い休みの間にはいつもと違ったことが起こります。恋もすれば冒険も。そんなひと夏の想い出を描いた映画には、忘れられない作品がいっぱいあります。喜びも悲しみも永遠の思い出としてスクリーンに刻まれてきた夏の日の出来事を思い返してみませんか? そんな大人にはまぶし過ぎる青春の日の輝きを、恋・冒険・家族の3方向からお送りします。今回は「家族の思い出」編です。(文・渡辺祥子/デジタル編集・スクリーン編集部)
家族の思い出。夏に思い出す映画はどれ?
フランスの国民的作家で劇作家でもあるマルセル・パニョルが書いた自伝的作品「少年時代」を原作に19世紀末の南仏プロヴァンスで夏のヴァカンスを過ごす家族の物語が「プロヴァンス物語/マルセルの夏」。その続きが「プロヴァンス物語/マルセルのお城」。マルセイユで生まれたマルセルは、9歳の夏の休みを身体の弱い母や弟と一緒に父が叔父と共同で借りたプロヴァンスの別荘で過ごすことになる。
爽やかに澄んだ空気と心休まる自然。プロヴァンスの丘が大好きになったマルセルにはリリという男の子の親友が出来、夏の終わりが哀しい別れになる。ここの生活に魅了されたマルセルの母が「毎週通いましょう」と言い出して、通うことになるのが「マルセルのお城」。そこは駅から歩くこと4時間。父の教え子が見かねて途中の城を通り抜けるためのカギを密かに貸してくれて2時間短縮、母は城主に見つかるのが怖くて震え上がり、マルセルは美少女に出会って恋をするが、ささやかな出来事が原因で恋の季節は終わった。
少年の日の思いは移ろいやすく、でも思い出は少年の心に深く刻まれてマルセルをフランスを代表する作家に仕立て上げた。その結果、作家として成功、思い出のプロヴァンスにお城を買ったマルセルは、このお城が、若くして亡くなった母が、怯えながら通り過ぎたお城だったことに気づいて懐かしさに胸がしめつけられたのだった。
台湾映画を代表する名匠エドワード・ヤン監督の「ヤンヤン夏の思い出」の舞台は夏の台北。ヤンヤンはごく普通の家庭の少年だが叔父さんの結婚式がきっかけでこのごく普通に見える家庭にもいろいろなことが起き始める。ヤンヤンのおばあちゃんは卒中で倒れてこん睡状態になり、様々な不安がたまる一方のヤンヤンの母は新興宗教に走り、父親は初恋の女性に再会して仲が戻った。そしてヤンヤンの姉には恋人ができ、ヤンヤン本人にも? 現代の家族が抱える問題がつぎつぎと出現、心休まる間もないが、ヤンヤンはとっても元気そうでキュートなのが嬉しい。
韓国映画「おばあちゃんの家」はソウルで母と二人暮らしの7歳になる少年サンウの物語。シングルマザーで生活が苦しいサンウの母は息子を口の不自由な田舎に住む自分の母に預けてソウルで職探し。田舎暮らしもおばあちゃんとの生活も気に入らないサンウだけれど、同じ年頃の少女ヘヨンと仲良くなり、彼女の家へおめかしをして遊びに行く歓びが生まれた。
それでも可愛い孫のためになんでも言うことを聞く祖母のことがうっとうしい。それは忙しい母に構ってもらえずゲームだけを相手に暮らしてきて愛を知らなかったサンウだからだ。彼のそんな気持ちが変わる時が来る。字が書けないおばあちゃんに字を教え、きっとまた会いに来るから、という別れ。これも夏の休みの物語。
「夏休みのレモネード」はカトリック信仰の家庭に生まれた8歳になる少年ピート・オマリーとユダヤ教の家の息子ダニーの物語。ダニーが白血病であることを知ったピートは彼をキリスト教徒に改宗させれば病気は治り、ピート自身も救われると信じた。直るのが難しい病気に苦しむ少年と夏の日の友情は物悲しく、心が痛む。
夏の思い出はどんなときでも青春の宝物だ。
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