前回、シリーズ第21回『シネマという生き方』でご紹介した、アンヌ・フォンテーヌ監督最新作『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』の主演男優フィネガン・オールドフィールドが、惜しくも逃した今年のセザール賞主演男優賞。この賞をみごと勝ち得た男優はスワン・アルロー。ユベール・シャルエル監督作品『ブラッディ・ミルク』で輝きました。彼自身の映画への情熱はもちろん、この作品の監督のことなどなど、彼のインタビューを通して知り得たことは、まさしくシネマと共に生きるフランス的人生観。美貌なのに謙虚な彼の、フランス映画との等身大の取り組み方を教えていただきました。
画像: 髙野てるみ(たかのてるみ) 映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。 著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。 Facebookページ: http://www.facebook.com/terumi.takano.7

髙野てるみ(たかのてるみ)
映画プロデューサー、エディトリアル・プロデューサー、シネマ・エッセイスト、株式会社ティー・ピー・オー、株式会社巴里映画代表取締役。
著書に『ココ・シャネル女を磨く言葉』『マリリン・モンロー魅せる女の言葉』(共にPHP文庫)ほか多数。
Facebookページ:http://www.facebook.com/terumi.takano.7

出演作品に恵まれてきたスワン・アルロー

『ブラッディ・ミルク』は6月のフランス映画祭横浜で上映され、セザール賞三冠を獲得した新作フランス映画として、ご覧になった方も少なくないと思います。新人監督賞、主演男優賞、助演女優賞、作品賞、監督賞、音楽賞の6賞でノミネートされて、新人監督賞、主演男優賞、助演女優賞に輝いた注目の作品。日本での劇場公開が待たれるばかりです。

この連載では世界中の映画に関わる方々から、映画と共に生きることとはどのようなことなのか、映画を仕事にすること、すなわち、映画製作や出演などなどへのこだわりをうかがって来ましたが、フランス映画界の期待の若きスターとなったアルローから、映画祭来日時にそのあたりをうかがえたことはとてもラッキーでした。彼はもっぱら、2017年に引退を表明した大スター、アラン・ドロンに風貌も似ていることから、今一番の旬の存在として出演作品も目白押し、多数の監督からの依頼が続いています。

最優秀主演男優賞を獲得することは予測されていたアルロー。筆者も過去にインタビューしたことがある気鋭の女性監督レベッカ・ズロトブスキの長編処女作『美しき棘』(10)に、アルローがブレイク前のレア・セドゥと共に起用されていたことを思い起こせば、監督の審美眼に叶う存在だったことは明白。

その後も、カンヌ国際映画祭の批評家週間でプレミア上映され2016年のセザール賞有望若手新人賞にノミネートを果たした『アナーキスト 愛と革命の時代』(15)に出演、評価は高まるばかりでした。

撮影/安井進

シリアスでも、ファンタジーだから主演したかった、『ブラッディ・ミルク』

『ブラッディ・ミルク』は、牛の伝染病汚染と向き合う、一人の酪農家の男の悲劇を描いた作品。フランスが抱える危機の側面を見せつけます。

大袈裟な表現を除いた平易な目線で描かれ、観る者への衝撃が迫ります。その静かな非日常が、悲しさや恐れを倍加させ目が離せません。

大切に飼育していた乳牛たちが伝染業に見舞われ、被害を最小限に抑えるため躊躇なく殺傷することが義務づけられる中、アルロー演じる主人公の酪農家は、「ウチに限って感染するはずがない」と感染を認めようとはせず、検査を拒否。そのことを近隣にも隠し続けます。しかし、本人の信念は崩され伝染病は村全体に例外なく広がり、さらなる悲劇を生んでいきます。

酪農国フランスならではのリアリティも感じさせ、スリリングな作品となっています。

画像1: © 2017M.E.S.PRODUCTIONS-MONKEY PACK FILMS-CHARADES-LOGICAL PICTURES-NEXUS FACTORY-UMEDI

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――『美しき棘』『アナーキスト 愛と革命の時代』『ブラッディ・ミルク』など、受賞対象となる高い評価を得た作品に出演され。良い作品に恵まれていらっしゃいます。出演する作品を厳選されているというようなことはありますか?

「(賞を獲りそうな作品を狙うということを考えるのではなく)自分がシナリオを読んで面白いと思えば、その作品に出たいと思います。役柄や内容が私に関係が深いと思える作品にも。
実際にセザール賞を獲ると、多くのオファーが来ます。でも、そこで弾みをつけてスターダムに登りつめるという進み方ではなく、今までやって来たことを活かしながら今後の道筋を見つけていきたいです。

チャレンジしたい分野は、少し不思議な映画であったり、形而上学的な映画であったりとか、政治的なもの、ある考えを守るために戦うような映画というのがベターです。そういう意味では、『ブラッディ・ミルク』は酪農家の生活の厳しさや現実を描いている告発ものというだけではない、ファンタジーな部分も織り交ざっているので、とても気に入っている出演作になりました」

映画ファミリーに生まれ育って、俳優となることとは

――ある考えを守るために戦うという意味では、『ブラッディ・ミルク』は、まさにそういう映画ですね。ところで、ユベール・シャルエル監督は酪農家の家庭に育った方だとか?

「彼の生家は酪農家ですが、1年ほど前から廃業していたんです。でもこの映画を撮るために再度オープンして、ご両親やご家族総出で完成させたんです。牛も集めてきたり。実は彼は酪農業を継ぐはずでしたが、パリの映画専門学校に進み、そのため実家は酪農業を辞めたわけです。だから監督も初めての作品を撮るなら閉鎖された酪農場を再現して、そこを舞台にした作品を撮ろうと考えたようです。ご両親へのリスペクトと自分のけじめとして制作したという想いがあったのです」

――そういう監督からのオファーを受けたんですね?

「いいえ、実は私がシナリオを気に入ってオファーしたんです。監督は(以前の役柄が不良だったり、アナーキストだったりしたためか)、この役は私には向いていないんじゃないかと思ったそうです(笑)。それを、ものすごくやりたいとお願いしました」

――映画制作をすることとご家族への想いを同じくらい大切にして出来上がった映画だったなんて、素敵です。ところでアルローさんは映画ファミリーに生まれ育ったんでしたよね?

「祖父が俳優でした。父親は装飾監督で、母親は映画のキャスティングや舞台の監督を手がけています。そして、母の再婚相手もまた、映像編集の責任者なんです」

画像2: © 2017M.E.S.PRODUCTIONS-MONKEY PACK FILMS-CHARADES-LOGICAL PICTURES-NEXUS FACTORY-UMEDI

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もう、後戻りできないから、映画を一生の仕事にすることに

――お母様は、アルローさんが映画を仕事にすることには賛成だったんでしょうか?

「私は家族と同じ仕事は避けたいと思っていたんですが、9歳にして映画の方から追いかけて来ました(笑)。母が子役を探さないといけないということになり、手近な私もその一人に選び、演じさせてしまい(笑)。もう、それからは子供ながらにお小遣いももらえて、自由もあって、祖母にもプレゼントを買ってあげることが出来る喜びに浸り、普通の子には戻れない経験をしてしまったわけです(笑)」

――本気で俳優をめざそうと思ったのはいくつぐらいの時ですか?

「TVのシリーズ物の刑事ドラマにチンピラ役で出演して、それが自分の十八番になり、そういう役が実によく回って来ました(笑)。母親には、俳優で食べていくことは過酷なことだと諭されました。誰かの意向に沿ってそれに応えなくてはならないこと、オファーが来なくなるという不安定な仕事であることなど。でも、20歳になったあたりで本気になっていましたね。というより、映画の仕事が大好きになっていました。

不安定であることは、言い換えると、自由度の高い仕事であるということ。そして、演じることでいろいろな人に「なれる」仕事ですよね。映画のストーリーを知ってワクワクしますし、世界中の映画祭に行って、いろいろな経験も出来るし出会いもあります。ちょっともう、後戻りは出来ないな、と。いま本当に映画の仕事を一生の仕事にしたいと心から思っています」

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「役を生きる」俳優、アラン・ドロンの再来との期待も

――そういうアルローさんが目標にする男優さんとは?

「次世代のアラン・ドロンをめざせ、と言われたりしますが、大スターすぎてとんでもないです。ミシェル・セロー、マチュー・アマルレック、クリストファー・ウォーケンというような、渋い演技で魅了するような男優をめざしたい」
と語るアルローは、最近、自身も監督として短編作品に挑戦したとも言います。
「母親との共同脚本で、弟を出演させました」と。
すでに弟を俳優デビューさせてしまったスワン・アルロー。
別れた妻の間に設けた息子もいるそうで、映画ファミリーの系譜はどこまで続くのか楽しみですが、とまれ、映画作りに欠かせないのがファミリーの存在。これぞ、フランス流映画の作り方と受け止めました。

そういえばアラン・ドロンで思い出したのが、2017年に引退宣言をして、残す映画作品は来年公開予定のパトリス・ルコント監督作品のみとされている彼の言葉です。

「演じるということは、演劇を専門的に学んだ者がやることで、役柄を『生きる』のが『俳優』という職業です。私のように偶然に演じるようになった者を『俳優』というんです。だから、私は演じるより、役柄を『生きた』のです。作品ごとに違う人間を『生きて』来ました」(NHKBSプレミアム『アラン・ドロン ラストメッセージ 映画、人生…そして孤独』より一部抜粋・省略)

これこそ、まさしくスワン・アルローがいまたどり着き、さらに進んでいこうという道であり、それを示唆している言葉ではないでしょうか。
アルローもまた、「役を生きる」俳優。ゆえにアラン・ドロンに繋がることは間違いないのでは……と思います。

フランス映画について、学び多きインタビューとなりました。

『ブラッディ・ミルク』(フランス映画祭横浜上映時邦題)
原題/PETIT PAYSAN
監督/ユベール・シャルエル
出演/スワン・アルロー、サラ・ジロドー、ブーリ・ランネール、イザベル・カンディエ
2017年/フランス/カラー/90分

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