“幻の大作”「恐怖の報酬」が現在40年ぶりに公開中、しかもオリジナル完全版とあってファンを歓喜させている。だが、これまでにも公開時とは異なるバージョンが存在する作品があった。それぞれの事情をふまえて鑑賞すれば、より楽しめること間違いなしだ!(文/井上健一・デジタル編集/スクリーン編集部)

初公開から40年ついに「オリジナル完全版」が上映⁈

ウィリアム・フリードキン監督の「恐怖の報酬」(1977)が、ついに2018年11月24日からウ本来の姿で日本のスクリーンに蘇った。アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の名作をリメイクした本作は、2年の歳月を費やし、数々の困難を乗り越えて完成した入魂の大作だ。

だが、初公開当時は北米での興行的な失敗が原因で、日本を始め世界各国では短縮版での上映となった。しかも、カットされたのは主人公たちが舞台となる南米の国に集まってくる経緯を描いた箇所。ラストも重要な場面がカットされ、残念ながらその印象は本来の意図からかけ離れたものとなった。

画像: 初公開から40年ついに「オリジナル完全版」が上映⁈

それから40年。ついに「オリジナル完全版」の日本国内での上映が実現。初公開当時を知る人も知らない人も、改めてその魅力をスクリーンで味わういい機会となる。

【あらすじ】
南米の地の果ての村ポルヴェニール。それぞれ罪を犯した4人の男たちがこの地へ流れてきて明日への希望のない日々を重ねていた。そんなある日、320キロほど離れた山岳地帯の油井で爆発事故が起こり、消火のためニトログリセリンを2台のトラックで輸送することになる。
 
その運転手として選ばれたのはドミンゲス(ロイ・シャイダー)、セラーノ(ブルーノ・クレメル)ら。だが出発直前に一人が殺されたため一行は殺人者のニーロ(ランシスコ・ラバル)を加え事故現場へ向かう。大雨や半壊の大吊り橋、巨大な倒木などのアクシデントを乗り越え、果たして彼らは無事に現場にたどり着けるのか。

画像: 公開40年を経て、監督自ら監修したオリジナル完全版が11月に公開される「恐怖の報酬」

公開40年を経て、監督自ら監修したオリジナル完全版が11月に公開される「恐怖の報酬」

CASE_1:オレの意図と違う(by 監督)

映画の歴史を振り返ると、様々な事情からひ映とつの作品で異なるバージョンが生まれることが少なくない。顕著なのは、監督の意図とは違った形で公開された作品が、後に修正されるケースだ。

その代表格が「ブレードランナー」(1982)。最初に米国で公開された「オリジナル劇場版」は、主人公のモノローグやハッピーエンドなどが特徴だ。しかしこれは、リドリー・スコット監督が当初意図したバージョンが、公開前の試写で不評だったことから急遽改変されたもの。そしてこの時、日本を含む米国以外の地域では、バイオレンス描写を追加した「インターナショナル劇場版/完全版」が公開された。

画像: 全部で 5つのバージョンが存在する「ブレードランナー」

全部で 5つのバージョンが存在する「ブレードランナー」

1992年になってようやくリドリー・スコット監督の意図に沿った「ディレクターズカット/最終版」が誕生。この時、モノローグとハッピーエンドがなくなり、主人公デッカードがユニコーンの夢を見るシーンが追加されるなど、印象が大きく変わった。さらに、2007年には「ディレクターズカット/最終版」をベースに、デジタルリマスターや未公開映像の追加などを行なった「ファイナル・カット」も公開された。

画像: 「恐怖の報酬」短縮版では冒頭のシーンなど約30分が大幅にカットされた

「恐怖の報酬」短縮版では冒頭のシーンなど約30分が大幅にカットされた

CASE_2:完全版は忘れた頃にやって来る

やや複雑な経緯を辿ったのが、デーヴィッド・リーやン監督の「アラビアのロレンス」(1962)。完成直後は3時間40分を超えていたが、映画館での上映回数の問題で20分ほどカットして公開された。さらに7年後、テレビ放送用に再び15分短縮。以後長らく、リバイバル公開などではこの短縮版が上映されることに。しかも、いつからかフィルムの一部が左右反転して上映されるという惨憺たる有様。削除場面を復活させた「完全版」として蘇ったのは、初公開から27年後の1989年だった。

フランシス・フォード・コッポラ監督の「地獄の黙示録」(1979)は、2001年に「特別完全版」が製作され、話題を集めた。このバージョンでは、船で川を遡るウィラード大尉の一行と、軍の慰問に訪れた後のプレイメイトたちやフランス人入植者との交流など、約50分の未公開映像が追加された。

画像: 約50分の未公開シーンが追加された「地獄の黙示録特別完全版」

約50分の未公開シーンが追加された「地獄の黙示録特別完全版」

CASE_3:お金が…スケジュールが…!

一方、当初は製作費やスケジュールの問題で実現できなかった部分を、後から追加する場合もある。「スター・ウォーズ」シリーズのうち、1977年から1983年に製作されたオリジナル三部作(いわゆるエピソード4〜6)は、1997年に「特別篇」と称するリニューアル版を公開。この時は、SFX部分を中心に映像の追加や差し替えが行なわれた。

追加シーンの例としては、当初第3作「ジェダイの復讐」が初登場だったジャバ・ザ・ハットが第1作「スター・ウォーズ」に登場すること、「ジェダイの復讐」ラストの戦勝パーティーの場面に他の惑星の映像が挿入されていることなどが上げられる。なお、本シリーズは、この他にもDVDやBlu-rayがリリースされる毎に細かく変更が加えられている。

画像: 「スター・ウォーズ特別篇」では1作目にジャバ・ザ・ハットが登場

「スター・ウォーズ特別篇」では1作目にジャバ・ザ・ハットが登場

スティーヴン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」(1977)もこのパターンだ。「オリジナル劇場版」と呼ばれる初公開版の出来に満足しなかったスピルバーグは、3年後に「特別編」を製作。行方不明の大型船が砂漠に現れる場面などを追加した。この時、話題となったのが、主人公が異星人の宇宙船に乗り込んだ後の場面だが、これは「特別編」製作の条件として映画会社の要望に応えたもの。元々これを不要と考えていたスピルバーグは、1998年に製作された「ファイナル・カット版」で、この場面を再び削除している。

画像: マザーシップへの乗船後が描かれる「未知との遭遇 特別編」

マザーシップへの乗船後が描かれる「未知との遭遇 特別編」

CASE_4:お国柄が出るご当地バージョン

さらに、公開する地域に合わせて異なるバーさジョンが製作されることもある。有名なのが、ホラー映画の金字塔「ゾンビ」(1978)だ。本作にはアメリカで劇場公開された「米国劇場公開版」の他、ダリオ・アルジェントが監修し、ゴブリンの音楽を多用した「ダリオ・アルジェント監修版」が存在。ヨーロッパを中心とした地域ではこちらのバージョンが公開された。

また、日本ではアルジェント版をベースに一部を変更し、冒頭にゾンビ発生の説明を加えた独自の「日本劇場公開版」で公開。この他、後にジョージ・A・ロメロ監督自身が再編集を行なった「ディレクターズカット完全版」も存在する。

画像: 「ゾンビ」のダリオ・アルジェント監修版、ディレクターズ完全版のワンシーン

「ゾンビ」のダリオ・アルジェント監修版、ディレクターズ完全版のワンシーン

CASE_5:短縮されちゃったんだけど…

ルキノ・ヴィスコンティ監督の「山猫」(1963)は、「長すルぎる」との理由で全編の1/3を占める豪華絢爛な舞踏会シーンを40分以上もカットし、せりふを英語に吹替えた「国際版」で初公開。1981年になってイタリア語の「オリジナル完全版」が公開されたものの、保存状態の悪さから、本来の映像美を堪能できたとは言い難いものがあった。2004年に「完全復元版」が上映され、ようやく満足できる形となった。

画像: 舞踏会の場面が復活した 2004 年公開の「山猫イタリア語・完全復元版」

舞踏会の場面が復活した 2004 年公開の「山猫イタリア語・完全復元版」

名作「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989)も、当初日本で公開されたのは124分の「国際版」。だが、映画のヒットに伴い、後に175分の「3時間完全オリジナル版」も公開された。大きな違いは、「3時間完全オリジナル版」には大人になった主人公トトが、かつて別れた恋人エレナと再会する場面があることだ。

同様に、短縮版での公開後、長尺版が上映された例としては、リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」(1988、日本初公開時タイトルは「グレート・ブルー」)、「レオン」(1994)、フィリップ・カウフマン監督の「ライトスタッフ」(1983)などがある。

また、「日本公開版」のみ渥美清の出演場面を追加した「トラ・トラ・トラ!」(1970)のような作品もある。

画像: 渥美清の炊事兵姿は「トラ・トラ・トラ!」日本公開版のみで見られる

渥美清の炊事兵姿は「トラ・トラ・トラ!」日本公開版のみで見られる

多様なバージョンが生まれるのは、フィルム(最近はデジタル化されたDCPだが)に記録され、複製が可能な映画の特性といえる。それぞれのバージョンが生まれた背景に想いを馳せつつ、ニュアンスの違いを味わうことで、映画をより深く楽しむことができるはずだ。

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