まだまだ続きます! 大人の恋愛特集
寡黙さだって愛情表現包み込む恋
大人だってストイックに見守る恋とも無縁ではない。懐かしの西部劇「シェーン」をふまえた「ドライヴ」が描くLA夜の必殺仕事人の、子連れの人妻への寡黙な恋。しみる!
恋につきものの嫉妬も大人は黙ってやりすごす。年ぶりに忘れられない人と再会した「男と女、モントーク岬で」の作家はいっぽうで妻と新米ライターの関係をさりげなく見て見ぬふり。
余計なことをいわないからこそ逆に心の痛みが伝わるのは「灯台守の恋」の人妻と夫ともうひとりの男のラブ・トライアングルにも通じる大人の恋の映画のお約束だ。雨の朝、船出を見送る対岸の妻と船上の友が見交わす視線に夫が気づく。総てを呑み込んだ男の沈黙の雄弁さ。包容力。
相手を包み込む大きな愛は「ある海辺の詩人小さなヴェニスで」の詩人と呼ばれる東欧出身の男をみごとに忘れ難くする。イタリアの小さな町。祖国に残した息子を呼びよせようと懸命に働く中国女と移民同士の郷愁を分かつ男。土地っ子たちのからかいに囲まれた女をやさしく見守る彼は小さな洪水が海辺の町を浸した日、赤い蝋燭をヒロインのため水に浮かべる。やがて先立つ彼の命の思い出の灯を胸にともして女は生き続ける。永遠と一日が出会う大人の恋の映画だ。
死ねない命を持て余す「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」の吸血鬼カップルは束縛しない愛で互いを包む。誇り高いふたりの姿はNYインディとして孤高の道を行く監督ジム・ジャームッシュと彼を支える相棒サラ・ドライバーの関係を思わせもする。作品が相棒へのラブレターというのも“大人は黙って”な心憎い愛の示し方だろう。
大人だからこそ…突っ走る恋、踏みとどまる恋
「オンリー〜」の女吸血鬼ぶりもぞくりと美しいティルダ・スウィントン。「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督作「ミラノ、愛に生きる」では名門の嫁としてゾンビ(生きる屍)状態を耐えてきたヒロインの恋の暴走を優雅に演じている。めぐり遭った青年のエビ料理を口に含んだ瞬間、官能が鮮やかに全身を貫いて恋の暴走がもう止まらない。
恋にのめりこむ人妻を演じてカトリーヌ・ドヌーヴの迫力がはじける「夜風の匂い」。年下の愛人を介して知ったもう若くはない男と、もう若くはないからこその刹那の恋に身を任せる。生き急ぎ死に遅れ老いの前でまた疾走する男女の心のざわめきがセーヌ河岸の木々を揺らす夜風と共振して妖しい切迫感が銀幕を染める。
クリント・イーストウッドとメリル・ストリープ、二大スターが封印された恋の日間を生きる写真家と人妻を熱演する「マディソン郡の橋」。ここでは別れの日、信号で待つ愛する人の車の後ろで飛び出したい、飛び出せないと思い乱れて号泣する助手席のヒロインを黙って受け容れる夫も見逃せない。そこに浮かぶもうひとつの大人の愛。監督イーストウッドの演出の渋さに見惚れたい。
「花様年華」の大人の恋も忘れ難い監督ウォン・カーワイ。「グランド・マスター」では“その時0.5ミリの距離”で戦った父の仇への想いを胸に秘め武道の修行に励むヒロインの未然形の恋に胸が騒ぐ。再会の時、封印したはずの思いをふっと口にして片目で泣く女がただ一度だけ唇にさした紅の色。色褪せた絵葉書にも似た記憶の時空に総てを融かして踏みとどまる大人の恋の行路は、悲しいけれどうっとりと甘やかだ。
あの頃の気持ちが蘇る恋愛未満、でも……
「心のともしび」「乱れ雲」と古今東西、被害者と加害者が恋に落ちるメロドラマ、少なくない。ヴィム・ヴェンダース「誰のせいでもない」の場合はしかし、そんなふたりが恋にならないやさしさを分ち合い迎える朝の爽やかさでキュンとさせる。
恋愛未満の淡い思いは日常を離れた旅の途上にぽっと浮かんでいるようで「ボンジュール、アン」「ロスト・イン・トランスレーション」と、現実と非現実の淡い時空を漂う旅人たちはロマンスの気配にふんわり包まれ“解脱”している。
大人が大人を忘れる時間とも呼べそうな旅の一夜で始まる「恋人たちのディスタンス距離」のふたりの関係は「ビフォア・サンセット」「ビフォア・ミッドナイト」と次第に腐れ縁めいてもくるけれど、恋に代わって同志愛が芽生えるのならそれはそれで大人の素敵を全うしているかも。何はともあれクリスマスからお正月、映画に習って大人の恋の花、ぜひ咲かせてみて欲しい。