毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が〝最高品質〞の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は伝説のお笑いコンビの晩年の実話を英米の実力派俳優共演で描く「僕たちのラストステージ」です。

編集部レビュー

“ローレル&ハーディ”ではない“スタン&オリー”

原題がいい。僕らが知っている“ローレル&ハーディ”。でも二人は(或いは親しい人は)互いをこう呼んでいた、“スタン&オリー”と。そんな二人の知られざるインティメットなお話ですよ、と。

といっても“あの名コンビの意外な裏事情”とかではない。人生の黄昏が見えてきた二人が、もうひと踏ん張りしてみよか、という話。ところがここに至ってあれやこれやとトラブルが降りかかる。それらを乗り越え、おそらくこれが二人で立てる最後の舞台へ──“僕たちのラストステージ”。日本題もいい。そのラストステージのシーンには思わずグッと来る。

最後までコンビを貫いた二人も立派だが、そんな彼らを支え続けた二人の妻も印象に残った。というか、夫たちよりよっぽど強烈すぎるキャラクター。“ルシール&イーダ”のしゃべくりは、この映画のもう一つの見どころかも。

レビュワー:近藤邦彦

編集長。風景描写も含めてのんびりしたタッチが好印象。ところが調べたら、何とあの激ヤバ映画「フィルス」の監督。どういう人!?

『君じゃなきゃダメ』と思い合えることの幸福

ローレル&ハーディが活躍したのは今から70年以上前だというから、正直なところ二人についてほとんど知らなかった。でも彼らがお笑いコンビの元祖のような存在だと聞いて一気に興味が湧いた。“ボケとツッコミ”の役割分担も彼らが始めたことだという。

本作が面白いのはそんな彼らの栄光時代ではなく、晩年を描くところ。“過去の人”と化していた彼らのツアーは、あまりうまくはいかない。でも解散の危機にあって初めて彼らは気づくのだ。お互いの大きさに。代わりの存在などどこにもいないことに。

『君じゃなきゃダメ』と誰かと思い合えること。それ以上の幸福はないことを二人が教えてくれる。周りからは不遇に見えた晩年は、実は二人にとって最良の時代だった。ラストステージに立つ彼らが愛おしく思えて、最後に明かされる真実に思わずホロリとした。

レビュワー:疋田周平

副編集長。特殊メークで本人に成り切ったライリーが、あえて完全再現しなかったのが体型。本人は180キロで更にふくよかだったそうです。

究極の笑いは人を泣かせるのかもしれない

「その人の裏にある悲しさやつらさを表現してこそコメディは観客を魅了することができる」スタンを演じたS・クーガンのこの言葉が胸にささる。人を笑わせるのってものすごく奥が深いのかも。

ローレル&ハーディは本人たちも仲の良いコンビだったそう。長年二人で続けてこられたのはやっぱり相性がよかったから。映画はそんな二人の冒険に終わりが見えた時に、初めて見せ合う胸の内に戸惑う姿を描くところが面白い。

コーヒーの砂糖の数もなんでも知っていた相手が突然他人に思えてしまう。お笑いコンビって不思議な存在。お金を稼ぐ仕事仲間だけどそれ以上の感情もある。人生酸いも甘いも経験してもなお、初めて生まれる感情にドギマギするおじさん二人にキュンとしちゃいます。人を笑わせることが大好きな二人が最後に見せるステージは彼らの人生そのもの。泣きます…

レビュワー:阿部知佐子

お笑い戦国時代ともいえる日本。「笑いが古いよね」とか知ったような口をきいていた自分が恥ずかしい…ベテランにこそ味があるんです。

画像: 究極の笑いは人を泣かせるのかもしれない

いつかは終わりが来るものだけれど…

長年コンビを組んできたローレル&ハーディ。見ていて志村けんと加藤茶を連想しました(ドリフ世代…)。そういえば二人も似たような格好でヒゲダンスやっていたしなぁ…。でもあの二人はとっくに一緒にはやっていないなぁ…。

そんなことを思いながら鑑賞していると、長い時間かけて二人が培ってきた“重み”のようなものが見えてきます。コンビ(あるいはグループ)で長く続ける大変さ。良い時ばかりではなく、落ち目の時代も一緒。長い年月の間には様々な軋轢があり、それを乗り越えてきた二人の足跡がある。興行主は相方を代えればいいなんてサクッと言うけれど、そんな簡単なもんじゃないですよね。

そんな二人も、ずっと一緒に続けるわけには行きません。その事実を突きつけられた時にまた少し変化する二人の距離感と、渋い系俳優二人の名演に注目です。

レビュワー;中久喜涼子

二人のラストステージを見守るそれぞれの奥さんにも注目。シャーリー・ヘンダーソンが相変わらずの童顔っぷりでした。

苦楽を共にした二人だけがたどり着ける場所

喜怒哀楽のうち、人を喜ばせることは(難しいが)できる。怒らせることと哀しませることも(避けたいけれど)できるだろう。でも楽しませることは……難しい。

本作はローレル&ハーディの黄金期ではなく晩年に焦点を当てた物語。映画製作の資金を集めるため、還暦過ぎの二人が新人さながらの過酷なツアーへ。日常もコメディーのような彼らは居合わせた人々に笑いをおすそわけする。コンビ=私生活も仲良しと思いがちだが、元来性格も容姿も選ぶ伴侶も真逆の二人。関係は複雑で意外とドライだ。長年、仕事仲間以上に発展しなかった彼らの関係がステップアップする瞬間は実に尊い。

後半は自分が笑いながら泣いているのか、泣きながら笑っているのかわからず、二人だけがたどり着いた境地をただ見守った。ひとまず大切な人に大事な話をするときは横並びに座ることにしよう。

レビュワー:鈴木涼子

「グリーンブック」しかり、オジさん二人組映画がプチブーム? ローレル役S・クーガンの「イタリアは呼んでいる」も渋オジ二人の珍道中でステキ。

コンビ愛が感動的で予想以上に心に残る作品

“極楽コンビ”として有名だったローレル&ハーディの物語。チャップリンなどと同時代の人気者だが、彼らの晩年というのは恥ずかしながら知らなかったので、とても興味深かった。

『サンシャイン・ボーイズ』のようにかつての名コンビが舞台裏では露骨に仲が悪かった、という話ではなく、確執はありながらも、互いが互いを唯一無二の相棒と知っているコンビ愛が感動的。これを演じたスティーヴ・クーガンとジョン・C・ライリーの名演もあるだろうが、予想以上に心に残る作品だった。

1950年代という舞台設定もなかなかに巧妙で、彼らのパターンを継いで当時大人気だったアボット&コステロの映画の看板がかかっているシーンが挿入されたり、そういえばこの頃チャップリンは赤狩りでアメリカを追われていたなあとか、そんなことまで気になる背景描写が心憎い。

レビュワー:米崎明宏

『俺たちホームズ&ワトソン』でラジー賞取っちゃったけれど、ジョン・C・ライリーは注目。夏の『ゴールデン・リバー』も期待したい。

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