今のフランス映画界を代表するスター的存在の一人、圧倒的知名度で人気を博すのが、ロマン・デュリスです。最新作『パパは奮闘中!』では、妻に蒸発されて、思いもかけずにシングル・ファーザーとなってしまい、仕事と家庭の両立に大奮闘する男を演じてみごと。ギョーム・セネズ監督と共に来日の折、インタビューが叶いました。

仕事と家庭の両立に、悩む男を演じる

デュリス演じるオリヴィエは、仕事では同僚たちを励まし、愚直なまでに真摯に働く男、妻に蒸発される前までは妻に任せきりだった家庭のことを、シングル・ファーザーとなるや、片親として出来る限りのことに奔走し、二人の子供を悲しませないようにする。ある意味どん底の中で、一人の男として、子供の父親として、めざめと成長を得ていくという、その両面を演じきったと言えるロマン・デュリス。

画像: 仕事と家庭の両立に、悩む男を演じる

おまけに台詞も自分で考える!ということで、このスゴ過ぎる新鮮な体験を、旬の監督によって与えられ、受けて立つ!そんな新境地を築いたのです。静かに言葉少なく描写する映像が、心を打つ。デュリス自身の心の内をも覗き込んでいるような想いを抱かせる作品です。

監督が来日する折、急遽デュリスも同伴ということで、ラッキーなインタビューに恵まれました。俳優としての今の心境をちょっぴりうかがい知ることが出来た貴重な時間です。

――監督のご自身の体験から、本作は作られたそうで、ある意味シングル・ファーザーとなった監督には切実な想いもあるでしょうし、この役柄はそういう意味では大変だったのでは?

「監督にシングル・ファーザーの経験があったとしても、彼自身が自分のその時の心境がどうであったかとか、演技指導として話すことはまったくなかったです。だから、私はただただ、オリヴィエという妻に逃げられた男を演じてみる。監督の経験をイメージするのではなく、オリヴィエの心境を感じ取るんです。母親に見捨てられた、息子や娘に不安や悲しみを感じさせない父親を演じることに、イメージを膨らませ集中しました」

台詞も自ら生み出して、沈黙さえも演技する

画像: 台詞も自ら生み出して、沈黙さえも演技する

――シナリオにない部分があり、主人公が置かれた場面でどう話すべきかアドリブ的に台詞を言わされるという手法をとって創りあげたとうかがっています。そして、言葉がない演技も素晴らしい。むしろ、沈黙しているのだけれども、オリヴィエがいま何を苦悩しているのか、どうしたら同僚を救えるだろうかとか、子供に希望を持てるようにさせるにはどうしよう、とかの細かな表情の演技が素晴らしかったんです。監督はどういう演技指導をされたんですか?

「ありがとうございます。確かに、監督の演技指導の方法はパーソナルなものでした。エクササイズとしても非常にラジカルな部分があり、まったくもって、ダイアログ(台詞部分)は自分たちで発明していくみたいな、ね。でも、そうは言っても、好き勝手にやらせっぱなしというわけではなく、監督は完璧にコントロールする術を持っていましたね」

――即興とは違うんですね?

「そうです。状況はすでに出来上がっていて、シナリオ的なものは書かれているわけです。シチュエーションごとに何かを生み出しながらも、それをまたそのシーンに組み込みながら、自分が必要としている要素をゲットするために、俳優たちを上手く誘導しながら導いていく。そういう巧みさがありましたね」

どんな役柄でも、やってみないとわからない

――セドリック・クラピッシュ監督からスタートし、ジャック・オディアール監督、フランソワ・オゾン監督とか、名だたる曲者!?の、多くの監督と仕事をなさってきて、今回の監督も新進気鋭でありながら、大変に注目されていて今後、目が離せない存在だと思います。今回の作品で、その才能を一番知ったのが、デュリスさんご自身ではないかと思います。監督の素晴らしさを教えていただけますか?

「そうですね、まず、状況把握が出来る監督です。彼のパーソナルでオリジナルなメソッドを使って、しかも失敗出来ない第2作目を撮るというチャレンジングさ。でも、ただ大胆なだけではなく、演技から生まれるものをどれくらいの長さにするか、完璧に把握しているんですよ。シチュエーションの中での俳優同士の関係性をちゃんと考えて演出が出来る。そういう意味で、若いにもかかわらず、成熟していると感じました。映画づくりの彼の姿勢、アプローチは、非常に特別なものがあって、他の監督に必ずしも可能ではないことが出来る。だから、これからが有望だと感じさせるんでしょう。僕だけではなく、多くの人たちに」

――では、今回の仕事で、言わば旬というか、新人でもある監督から得たことは何かありますか?

「先ほど、沈黙のシーンの演技をお褒め頂き嬉しい限りですが、台詞がないその中で、自分が主人公になり切るという、その状況に自分を埋没させてくれる力、沈黙の部分にこそ表層的ではない、僕自身が持っている深いものを引き出してくれる力を監督に感じて、演じられたという体験ですね」

――素晴らしいですね。それでは、ますますキャリアを積まれる中で、今後、お仕事を一緒にしたいと思う監督、そして、今までに演じたたことがなく、演じてみたいというキャラクターを教えていただけますか?

「うーん、そういうことは考えられないこと。だから、分かりません。
どの監督と組みたいとか、こんな役をやってみたいということは、俳優の自分が言葉にすることは出来ないんです。やってみないとわからないことでしょう。それらについて、前もって頭に描くということをしないんです」

出ました、これぞ、ご名答。

監督からのオファーに合せて、好き嫌いなく演じてみようじゃないか、という精神こそが、俳優を全うするロマン・デュリス、ここにありの天晴な俳優魂を語るものです。

画像: どんな役柄でも、やってみないとわからない

恐れ入りました! これからのロマン・デュリスの進化と真価を楽しみに見届けていきたいと痛感したインタビュー。ちなみに、4月にはヴィルジニ・デスパンテ原作の『Vernon Subutex』が、フランスのキャナル・プリュスでTVドラマ化され主演。シリーズ9回が4月に放映。レコード販売をしていた男が時代の流れの中で、浮浪者になるという物語なのだとか。日本でも放映されることを願うものです。

作品の中で、無心であっても実は父親を勇気づけ、支えたのは子供たちではなかったか、と心打たれる、小さな男優、女優の演技力にも魅了され、これからの時代の受難の父性、暴走する!?母性のあり方に、考えさせられる珠玉のフランス映画。すべてはロマン・デュリスの存在ありき、です。必見。

画像: 『パパは奮闘中!』予告編 youtu.be

『パパは奮闘中!』予告編

youtu.be

『パパは奮闘中!』
(原題/NosBatailles)
2019年4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督・脚本:ギョーム・セネズ 共同脚本:ラファエル・デプレシャン
出演:ロマン・デュリス『タイピスト!』『モリエール 恋こそ喜劇』レティシア・ドッシュ『若い女』、ロール・カラミー『バツイチは恋のはじまり』、バジル・グランバーガー、レナ・ジェラルド・ボス、ルーシー・ドゥベイ
ベルギー・フランス/2018年/99分/フランス語/字幕:丸山垂穂
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル 宣伝協力:テレザ 、ポイントセット
協賛:ベルギー王国フランス語共同体政府国際交流振興庁(WBI)
©2018 Iota Production / LFP-Les Films Pelléas/ RTBF / Auvergne Rhöne-Alpes Cinéma

前回の連載はこちら:
SFファンタジー映画『クロノス・ジョウンターの伝説』で、現実世界に愛と希望を。蜂須賀健太郎+髙間賢治/髙野てるみの『シネマという生き方』VOL25

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