過去に遡り、失われる命をとり戻す、タイムトラベルもの
今回ご紹介する日本映画『クロノス・ジョウンターの伝説』に描かれる恋愛は、時空を越えて愛を貫くという究極のロマンス。
「きみを救うためだったら、ぼくは何度でも過去に戻る」というキャッチ・フレーズそのままに、不慮の事故で命を失う愛しき女性の運命を変えようと、過去に遡って、彼女を救うことに果敢に挑む男の物語です。
それを聞いたら、あのマイケル・J・フォックス主演、ロバート・ゼメキス監督作品『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)や、思ったようにはならない人生を、過去に戻して変えようとするリチャード・カーティス監督作品『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(2013)などを映画ファンとしてはまず、想い起すことでしょう。
後者は主人公が不思議なパワーを手にして過去に遡れる能力を持つことから始まるのですが、今回ご紹介する作品は、前者のように、デロリアンならぬ、クロノス・ジョウンターなるタイムマシンで過去の世界に行って、大切な愛する人を無傷のままに、今の世界に連れ戻したいというタイムトラベルもの。SFです。ファンタジーなのであります。
タイムマシンを制作する会社に勤める主人公が、通勤途中の花屋で働く美しく心優しい女性に恋をして、二人の気持ちが一つになろうとする寸前に彼女は、この世を去ってしまう……。
筆者としては、これはジャン・マレー主演の『オルフェ』(1949)だ、ギリシャ神話に登場する、黄泉の国へ先だった妻を連れ戻しに行くオルフェウスの物語を、ジャン・コクトー監督が映画化した作品だと、思い起こしたりもして……。
映画作りには、こだわりというハードルを作る
限りある生命や、取り消すことの出来ない過去の出来事を変えることが出来ないものかという、人類普遍の夢のテーマに、またもや映画という手法でチャレンジする作品の登場で、興味は高まるばかり。
この『クロノス・ジョウンターの伝説』は、大ヒットSF映画『黄泉がえり』(2002)の原作者として知られる、梶尾真冶原作のタイムトラベルロマンスと銘打った小説を実写映画化した作品です。
折しも、小説『黄泉がえり』(2000)の続編、『黄泉がえり again』(2019/新潮文庫)が、18年を経て2019年2月に刊行されたばかりの梶尾真治。奇しくも、江戸時代に建てられた自宅家屋が倒壊となった在住の地、熊本が震災に見舞われ、多くの犠牲が失われたことへの忸怩たる想いで、この続編に取り組んだそうです。
この作家と本作の原作に魅了されたのが、日本・フィンランド合作のファンタジー作品『サンタクロースがやってきた』(2013)や、アニメーション作品『Alice in Dreamland アリス・イン・ドリームランド』(2015)を手がけてきた蜂須賀健太郎監督。
こだわりたかったのが、アニメーション作品としてではなく、ファンタジックな実写作品としての映画化。さらなるこだわりは、TVと劇場版アニメ作品として大ヒットした『進撃の巨人』(2013~)で知られる人気の声優、下野紘を映画初出演させてみたいということ、加えて、リスペクトし続ける撮影監督の高間賢治氏との作品にしたいという願い。言うなら、いくつものハードルを自らに課す。これこそ、映画作りと言えのかもしれません
そういうわけで、蜂須賀監督の『クロノス・ジョウンターの伝説』への取り組みには、並々ならぬものがあると感じられ、その渾身の想いをうかがうことになりました。
高い評価を得て青春映画の殿堂入りを果たしたといわれる、『止められるか、俺たちを』(2018)のDVDが4月4日にリリースもされ、作品の中で実名の登場人物の一人として注目を集めた、前出の髙間賢治撮影監督にも加わっていただき、本作に留まらない、映画の撮影監督という仕事についても語っていただきました。
SF小説は、漫画より映画化しにくい
――蜂須賀監督はスティーヴン・スピルバーグを敬愛されているとのこと、このたびの新作はタイムトラベルものです。彼が製作した『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)を意識されて制作に取り組むということはありましたか?
蜂須賀:
「あの作品は大好きですが、今回は全く意識していないですね。梶尾真冶さんの原作ありきでして、読んだ後に絶対映画化したいという想いに駆られました。周囲はこの作品はアニメ化されるべきだという意見がほとんどで、でも、僕はあえて実写化を考えていました」
――そう思い立っても、すぐには実現しなかったとか。
蜂須賀:
「そうですね。絶対に無理と言われ続けて……」
――あ、予算的なことですかね。
蜂須賀:
「タイムトラベルものというと、実写では、お金が集まりにくいみたいで」
高間:
「逆に、お金が集まりやすい映画企画といえば、大スターが主演するとか、原作自体が大ベストセラーであるとか。小説よりは、漫画の原作のほうが決め手になりやすいんです」
――映画化が実現するにあたって、人気の声優、下野紘が初の映画俳優として主演するというのは、強みになりましたか?
蜂須賀:
「それは大きいでしょう。資金集めから完成まで約3年を要したんですが、映画化が決まり出して2年くらいして、彼の出演が決まってから動きも良くなりましたね」
声優、下野紘の俳優としての素質に目をつける
――下野さんはかなり人気がある声優さんだと思いますが、一般的に声優さんは、チャンスがあれば俳優になりたいと思っている方々なんでしょうか?
高間:
「最近では養成段階でも、俳優より声優になりたいという希望者は増えていますね。声優から俳優になって、声優もしている存在としては、『ラヂオの時間』で女優デビューした戸田恵子さんがいます」
ちなみに、本作に出演した下野さんには、早くも実写映画への出演依頼は来ているそうですが、下野さんは、もちろん声優も引き続きしていくのだそう。
蜂須賀:
「下野さんには、僕のアニメーション作品『Alice in Dreamland アリス・イン・ドリームランド』で、白うさぎの声をお願いしています。ルイス・キャロル原作の『不思議の国のアリス』のオマージュ的な要素が強い作品ですが、清水真理さんという人形作家さんのパペットを使ったアニメーションです。
『プレスコ』という手法で、まだ映像がないうちに、台詞を入れる。それに合わせて、後からアニメーションを作っていくんです。その時の彼の台詞の入れ方が、声だけでなくもう、お芝居をしているというか動きがあって、台詞にない部分のイメージも描けるというか、演技力あるなと感じました。舞台経験もあるからなんでしょうか、ベテランの声優でも、そういう経験は少ないはずですが」
音声ありきで、後からアニメーションを制作すると言えば、あのウォルト・ディズニーの『ファンタジア』(1940)のようではありませんか。蜂須賀監督はディズニーと、その作品が大好きで敬愛しているとうかがっていますが、そんな試みもしていたんですね。