連載インタビュー『シネマという生き方』でおなじみの髙野てるみさん。映画プロデューサーとして巴里映画の代表を務めるかたわら、映画ライター、著作家としても活躍中の髙野さんが、このたび新刊『仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉』を上梓されました。伝説的デザイナー、ココ・シャネルが生前残したさまざまな言葉から、仕事や人生をもっと楽しむ術を髙野さんが解説してくれるステキな一冊。今回、髙野さんご本人がこの本に関わるさまざまな話を語ってくれました。

女性が仕事を持つことに対して男性がどう理解しているかが大事

──そもそもシャネルが仕事を始めた時代は、女性が、まるで働いてはいけないかのような時代で、ここまで活躍するような世の中ではなかったですよね。

「そうですね。昔は女性が働かなくてもよい時代でした。子どもの頃から修道院で厳しく育てられ、その時に洋服の仕立て方を学んで、ファッションデザイナーになり、『シャネル』というファッションブランドを確立するまでになったシャネル。女性が仕事を持つということが、男性からの保護や、依存に頼らず自立することだと気づいた彼女の言葉にはとても説得力があります」

──デザイナーとして、それまでになかったような、服や帽子、アクセサリー、ハンドバッグ、香水といったものを生み出したのも素晴らしいですし、中でもコルセットをしないドレスを発表したことも当時の女性にとって大きな出来事だったのではないでしょうか。

「当時コルセットは、いわば女性が男性社会の言いなりになることを象徴していたと思うんです。あんなものをつけていたら動き回れない。仕事をするためにも、コルセットをしないドレスを生み出します。それが、服で女性を解放したということになるのです。“装うことは素敵。けれど、装わされることは哀しい”という言葉で、よくわかります」

──近年でも働く女性が、家事や子育てで泣く泣く仕事を辞めなければいけない状況に陥ることもあります。そういった人たちにシャネルの言葉を贈るとしたら?

「“家で待つだけの女になってはいけない”でしょうか。子どもや夫がいることを理由にして自分を犠牲にしてしまうことはよくないということです。

日本の社会制度のせいもあるでしょうが、例えばフランスでは母親が仕事で忙しくて朝ごはんが作れないとか、食べていない子どもたちのために、学校が朝食を用意することがある。国全体で困っている家庭に手を差し伸べて守ってくれる。それに仕事と恋愛は50/50で、仕事が忙しくて恋愛できないようなら即仕事を減らすぐらいのお国柄ですからね(笑)。

子育てが大変でやりたい仕事ができないなら子どもを預ければいいという考え方もフランスでは当たり前。シャネルは、夫の世話は後回しでよいと言っています(笑)」

──男性にも『仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉』を読んで頂いて、女性への理解を深めて輝かせて頂きたいです(笑)。

「本当にそう思います。女性たちが仕事を持つことに対して男性がどう理解しているのかがすごく大事で、理解を深めたなら『君が働くなら僕が家事をやるよ』と言ってくれるようになることを願いたいものです。それにシャネルのような成功者の言葉はビジネスにも役立ちますから、そういった意味でもぜひ男性にも読んで頂きたいです」

ヴィスコンティ、A・レネ、L・マル、有能な監督を見抜くセンスのすごさ!

──ここからはシャネルが関わった映画についてお伺いしていきたいのですが、本書の中に様々な映画のカットが差し込まれていますよね。

「メセナ(芸術や文化の支援活動)をやっていますとわざわざアピールする人もいますけど(笑)、彼女はそういう活動は人知れずすることを美意識として持っていたので、数多くのフランス映画に貢献していることを知っている人は多くないかもしれません。

まずなんと言っても、巨匠ジャン・ルノワール監督に無名のルキノ・ヴィスコンティを紹介して、監督になるきっかけを作ったのが、ココ・シャネルなんです。ご存知でしたか?」

──知らなかったです。ヴィスコンティとシャネルとはどこで知り合ったのでしょうか?

「ヴィスコンティは貴族の出身で、美男子でしたから、シャネル好みだったんでしょう(笑)。ヴィスコンティはルノアールと出会ったあと彼のアシスタントをして、後に名作を撮って世界的巨匠にまでなった。

シャネルはそのきっかけを作った恩人です。とはいえ、彼に才能がなければあそこまでにならなかったとは思いますけれど。いずれにしても、シャネルの先見の明というか見極める能力はすごいです」

──シャネルは様々な映画の衣装協力もしていますよね。

画像: 『ボッカチオ’70』でロミー・シュナイダーの着付けをするシャネル(『仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉』69ページから引用)


『ボッカチオ’70』でロミー・シュナイダーの着付けをするシャネル(『仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉』69ページから引用)

「それこそ、ヴィスコンティの映画にも協力しています。オムニバス映画『ボッカチオ’70』(62)でヴィスコンティ監督が撮った第三話『仕事中』の衣装を担当していて、全編に渡ってシャネルスタイルを楽しむことができます。

『仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉』では、シャネルが、主演のロミー・シュナイダーにシャネル・スーツの着付けしている写真も見ることができます。

ロミー演じる女性の夫は浮気ばかりしているような人なので、ある日、夫に『自分も明日から仕事をいたします』(笑)と言って、コールガールの仕事をすることを宣言するんです。彼女が着替えるシャネルの服や、シャネルの5番の香水が部屋に無雑作に置かれていたりというシーンがある演出で、とっても素敵な映画なのでオススメですよ」

──長編映画でシャネルが衣装協力したものもご紹介頂けますか。

「アラン・レネ監督の『去年マリエンバートで』(61)という、“映画通”だと思われたい人がこぞってこのタイトルを挙げるような金字塔の映画があるんですけれど(笑)、シャネルのファッションショーのごとく素晴らしい衣装の数々が見られます。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲ったのも、シャネルの貢献したことが大きいと思います。

“わたしは、これから起こることの側にいる人間でいたい”というシャネルの言葉にもあるように、きっと、彼女は映画監督や作曲家といった芸術家たちの側にいて面白がっていたという、偉大な好奇心の持ち主であって、これこそが、彼女の仕事に対する精神なのではないかと思われます」

──ルイ・マル監督の『恋人たち』(1959)という映画では、シャネルの衝撃のスタイリングが話題を集めました。

「ジャンヌ・モローが夫との愛が薄れた人妻を演じているんですけど、若い学生と恋に落ちて、最後は家を出てその彼と一緒に自由を求めて車で行ってしまうという映画です。劇中、ジャンヌ・モローが全裸に幾重にも絡めたシャネルのパールのネックレスだけをつけて愛を交わすシーンがあるんですけれど、あれは衝撃的で、エロティックでした。さすがシャネル!と思いましたよ。

他にもジャン・ルノワール監督の『ゲームの規則』(1962)とか、本当にいろいろな映画で衣装協力しているんですけれど、全てが素敵なので、ぜひチェックして頂きたいです。それにしても有能な監督を見抜く彼女のセンスってすごいですよね。彼女が全ての作品に魔法でもかけたのかしらと思ってしまいます」

──シャネル自身もデザイナーとして偉大なのに、自分は芸術家とは違うと言っていたとか?

「彼女は、自分は芸術家ではないと、言い続けるような人でした。洋服というものはあくまでも消費されるもの。美術館などに飾られて、観る人に影響を与えるものではないからなんでしょうか。また、そこは、謙遜することがエレガント、という彼女の美意識が現れているのでは、とも思います」

──最後に、シャネルの言葉に多く触れてこられた髙野さんから読者に向けて何かメッセージのようなものを頂きたいのですが。

「好きなことを続けられることが人間として一番ありがたいことで、幸せなことであることを、シャネルの言葉に触れると改めて気付かされます。

それは私自身が幼少の頃から思っていたことでもあり、何か夢中になれるものがあれば人生が輝いて、結果的に幸せに結びつくでしょうと、いうこと。夢中になれることがあれば、歳をとることすら忘れてしまいそう(笑)。

いま、各界で活躍されている人は、何かに夢中だから輝いているのではないでしょうか。やりたい仕事に夢中になってみるのもいいですし、夢中になれるものを見つけるために、好奇心そのものを絶やさないようにしてみるのもいいかもしれません。一人でも多くの方に輝いて欲しいです」

「仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉」
髙野てるみ 著

仕事でうまくいかない時、自分に自信が持てない時、あなたを前向きにしてくれるココ・シャネルの言葉──“働く女”の先駆者が贈る、女性を元気にする「読むサプリ」!

四六判/192ページ/定価・本体1300円+税/イースト・プレス

スペシャルトークイベント開催!

『仕事と人生がもっと輝くココ・シャネルの言葉』の出版を記念して、2019年6月6日(木)19:30~代官山蔦屋書店にて、髙野てるみさんと同店のシネマ・コンシェルジェ、吉川明利さんのトークイベント「ココ・シャネルが愛した映画の世界」が開催されます。

イベントへのご参加は事前予約が必要です。くわしい参加方法は代官山蔦屋書店(03-3770-2525)またはhttps://store.tsite.jp/daikanyama/event/まで。

髙野てるみ連載『シネマという生き方』最新回(VOL26)はこちらから

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