毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が〝最高品質〞の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画はアフリカの小さな村で起きた感動の実話を映画化した「風をつかまえた少年」です。

それでは編集部レビューをどうぞ!

アフリカの大地の美しさと人々の営みが胸を打つ

21世紀の世の中で餓死である。干乾びた地面に、無駄と知りつつそれでも黙々と鍬を入れ続けるお父さん。その原因が、政府の腐敗、企業の森林伐採、はるか遠いアメリカで起きた9.11事件とは……なぜ見も知らぬ大国同士の諍いで、彼らが苦しまなければならないのか?その強烈なメッセージと、そこで立ち上がった少年の勇気。

そういった物語に胸を締めつけられながらも、一方でとても心躍らされたのは、この映画が描いているアフリカの大地の美しさだ。サバンナの彼方から独特の踊りをしながら現われるグレワンクールと呼ばれる人々、真白な陽光、砂を巻き上げ舞う風の渦。そして色彩の天国ともいうべき鮮やかな衣装。そこで営まれる人々の暮らし。チュイテル・イジョフォー監督は多くの困難を覚悟で、舞台であるマラウイでの撮影にこだわったそうだが、その英断に感謝したい。

レビュワー:近藤邦彦
編集長。米崎さんと同じだが、映画の主言語が現地のチェワ語であることは特筆したい。監督が何をしたいか何を伝えたいかが明確にわかる。

学べる環境にあることがいかに恵まれているか

アフリカに風力発電機を作った少年がいるという話は耳にしたことがあったのだけれど、今回改めて詳しい経緯を知って、衝撃と興奮と感動を覚えた。驚くことに彼は当時まだ14歳だった。そして「独学」でそれを作ったのだ。

映画を見て衝撃を受けたのは、彼が暮らすマラウイの過酷な経済状況。彼は学費を払えず中学中退に追い込まれるが、この国では経済的事情などで中学を卒業できない人が8割に上るそうだ。そんな状況の中、彼は図書館にこもり、干ばつの打開策を探る。学びには世界を変える力があると信じて。

この映画が教えてくれるのは学びの真の意味だ。そして学べる環境にあることがいかに恵まれているか。たとえわずかな期間でも学校に行かせてくれた父に感謝する少年の言葉に胸をつかれた。何が人生を豊かにするのか、改めて考えさせられる作品だ。

レビュワー:疋田周平
副編集長。監督は最初は出演する気はなかったそう。でも映画化に10年かかったため、気づけば父親役にぴったりの年齢になっていたとか。

息子を誇らしい目で見つめる父親の表情が心に残る

アフリカ最貧国の少年が、たった一人で風車を作り村を救ったという世界的ベストセラーを映画化した本作。原作は未読だったので、マラウイがどんな国なのか、どうやって少年が風力発電を学んだのか、途中スリリングなシーンもあり、とても面白かったです。

チュイテル・イジョフォーが監督し、自ら少年の父親を演じたのもあって、家族の絆、特に父と息子の関係が印象的でした。数々の作品で迫真の演技を見せてきたチュイテルはさすがの一言。飢えに苦しみ、極限状態で息子と対峙する場面は見ていて本当に辛かった。

ゼロから始めた風車作りの過程をもう少しじっくり見たかったのもありますが、ラスト、父親を超えていく息子の姿をまぶしそうに見つめるチュイテルの表情が優しさと誇らしさに満ちていて、彼がこの映画で何を描きたかったのかがわかったような気がしました。

レビュワー:阿部知佐子
少年の母親の存在もとてもよかった。市場で1番の美人だったというだけあって、本当にきれいで強くて夫を支える姿が頼もしかったです。

どんな状況でも自力で解決策を見つける大切さ

舞台はアフリカの南東部、マラウイ。雨期で洪水が起きたかと思えば、乾期では大干ばつに。しかし相手はお天道様、人間ではどうすることもできません。そんな厳しい自然条件の中で生きるウィリアム。学費が払えず学校を退学になっても、愚痴ひとつ言わず、誰のせいにするでもなく、まっすぐな瞳で懸命に生きています。

たいていの人はどうにもならない、と諦めてしまうもの。しかし彼は自分たちの力で解決する方法を、独学で見い出して行きます。そのひたむきな姿は尊敬もの。

そんな彼の行動力の原点は、おばあさんだったよう。一般的な男性の仕事、女性の仕事、という枠にとらわれない考え方の持ち主だったとのこと(劇中でも、自分で家を建てたというエピソードが)。この作品を通して、どんな状況でも自力で解決策を見つける大切さを改めて考えさせられました。

レビュワー:中久喜涼子
マラウイってアフリカのどこか分からず、観賞後早速調べてしまいました。新しい知識が増えるのも、映画を見る楽しさの一つですよね。

画像: どんな状況でも自力で解決策を見つける大切さ

マラウイに風が吹いていて本当によかった…!

俳優チュイテル・イジョフォーが長編初監督作に選んだのは教科書にも載るベストセラー。舞台となった2001年のマラウイはアフリカ最貧国の一つで電気の普及率も2%。水も食糧もないが風だけは十分にある。その唯一ともいえる資源を有効活用し、村人を救った少年ウィリアムの話だ。イジョフォーはウィリアムの父として出演し、秀才息子の将来を願いながらも日々直面する危機に対応せざるを得ない父の歯がゆさを役柄よろしくの“実直さ”で表現した。

結末が山頂だとしたら、そこへたどり着くまでの谷の深いこと深いこと。非情なまでの政治的背景にも驚かされるが、これは我々が新世紀の到来に沸いていた、ついこの間の話だ。画面全体に広がる砂塵が喉に詰まるような息苦しさを打破するのは、ウィリアムの前進力。彼の才能が世界に羽ばたいたことは素直にうれしい。

レビュワー:鈴木涼子
女性陣が頭や腰に巻いていたカラフルな布は“チテンジ”というマラウイの伝統布だそう。日本からでも買えるらしく、早速気になっています。

国を豊かにするのは教育だと訴える“希望”の映画

本作を見ている間、子供たちの置かれている環境としては少し違うのだが、「コンラック先生」という昔の映画(「風をつかまえた少年」を絶賛しているアンジェリーナ・ジョリーの父上ジョン・ヴォイトの主演映画だったりする)が何度か頭をよぎった。それはアメリカ在住なのに自分たちがどこに住んでいるかも知らない(!)黒人の子供たちに一人の赴任教師が世の中の様々な事を教えていく物語だった。

要するにどんな人種の子供にも教育がどれだけ重要か、ということを考えさせる映画ということだ。本作の主人公ウィリアムは自発的に物事を学ぼうとする奇跡的な少年だったが、彼のような才能を持つ子は、マラウイにも探せば他に大勢いるかもしれない。何人かのウィリアムが一つの国を豊かにするかもしれない。その根本に必要とされるのが教育だと訴える“希望”の映画でもある。

レビュワー:米崎明宏
登場人物が英語以外の言葉も話していると思ったら現地のチェワ語だそうで、そういう点にもイジョフォー監督の本気度が伺える。

「風をつかまえた少年」
2019年8月2日(金)公開

原題:風を生かした少年/イギリス=マラウイ/2018年/1時間53分/ロングライド配給
監督:チュイテル・イジョフォー/出演:マックスウェル・シンバ、チュイテル・イジョフォー、リリー・バンダ、アイサ・マイガ
© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

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