オダギリジョーがオリジナルの脚本を書き下ろし、初めて長編映画のメガホンをとった『ある船頭の話』。
第76 回ヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門(コンペティション)にも出品された今作のオダギリジョー監督インタビュー第ニ弾をお届けする。
画像: 『ある船頭の話』
オダギリジョー監督インタビュー Vol.2

今作のような作品を作っても許される土壌は
これからもずっと残っていて欲しい

ーー今作がヴェネチア国際映画祭で邦画史上初となるヴェニス・デイズ部門に選出されたことが発表された際に、“作家性の部分を認めてもらえたのが嬉しい”と監督はコメントされていました。ですがあまりにも作家性を突き詰めすぎると難解な映画になってしまう可能性もありますよね。商業映画として成立させるために、どんなことに気をつけて作っていかれましたか?
「やはり今作は商業映画と謳われているので、好き勝手にインディーズ映画を作っていた時とは全く違う考え方で作らなければいけないと思いました。最低でも観ている方の半分には伝わるようにしないといけないので、そこは気をつけていたつもりです。昔撮った短編映画と同じようなやり方で作っていたら、もっとわかりにくい映画になったと思いますし、もっと長尺になっていたかもしれません」

Photo by Tsukasa Kubota

ーー監督が2009年に発表された短編映画『さくらな人たち』も個人的に好きなので、いつかああいったテイストの長編映画も撮って頂きたい気持ちがあるのですが。
「ありがとうございます。実は今作が完成して少し経ってから、改めて『さくらな人たち』を観返したらもの凄く面白かったんです(笑)。あの時代にああいう映画が許されたのは幸せだったんだなと感じました。可能ならば今作と同時上映したいぐらいですし、今作は真面目な方向に振って撮ったので、いつかまた『さくらな人たち』の方向に思いきり振り切った作品も撮れたらいいなとは思っています」

ーー逆に思いきりエンタメに寄せた作品を撮られるという可能性はありますか?
「自分にはエンターテインメント映画を作る能力は無いので、そういったものを得意とする監督が撮られたほうが良いと思います(苦笑)。僕は自分がやりたい方向性を突き詰めた作品を作ることにしか興味がありません。そうなると、自分が描きたいものがないのに監督をすることは不可能ということになるんですよね。映画の監督を務めるというのはかなり大きな責任を背負わなければいけないですし苦しいことも沢山あるので、現時点ではこのまま監督を続けたいとは正直言えません。何か面白いことを他に見つけたらそっちに挑戦してみたいという気持ちを常に持っています」

ーー海外では『バイス』のように実在する政治家達(役者が演じている)が登場する社会派エンターテインメント映画も沢山作られていますが、日本にはまだまだそういったものは少ないように思います。監督は今の日本映画界について何か思うことはありますか?
「今の日本映画は方向性が一本化しているように感じていて、もっと色んなタイプのものがあってもいいのではないかと思っています。海外の作品だと作家性やアート性の強い作品もまだまだ生きながらえていますが、今の日本ではなかなか作れないのが現状ですよね。『バイス』のような社会的な問題を投げかけるような映画がもっとあってもいいと思うし、『さくらな人たち』のようなふざけたというか(笑)、ちょっと飛びすぎた映画があってもいいのではないかと。映画は文化ですから、色々な価値観を観客に提示することができる作品がもっと作られて欲しいとは個人的に思っています」

画像2: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

ーー監督にとって“これだけは失われて欲しくない”と思うものをひとつ教えて頂けますか。
「エンタメ映画ばかりが公開される世の中にはなって欲しくないです。少し話は逸れますが、実は今作の脚本が出来た当初はもっと作家性の強い映画になる可能性があったんです。というのも、僕が脚本を書く時は“自分がどういう人間で、どういう面を持っていて、そこから何が出てくるのか”といった個人的な問題を深めていく作業を繰り返すので、気をつけないと難解なものになりかねない。それを映画化して大勢の方に観て頂くことが最初はなんだかおこがましい気がしていたんです。音楽を作る時も自分の中から浮かんだメロディーを形にするのは勝手ですが、それを沢山の人に聴いてもらいたいとも思わないですし、押し付けるように聴かせるなんてことはもっとないというか。ですが、今作に出資してくれる会社があって、公開して頂けることは本当にありがたいことなので、質問の答えに戻りますが、こういう作品を作っても許される土壌はこれからもずっと残っていて欲しいなと強く思います。それから作家性やアート性の強いインディーズ映画も喜ばれるような土壌も失われて欲しくないと思っています」

ーー最後の質問になりますが、ScreenOnline読者にオススメの映画を一本ご紹介頂けますか。
「『ある船頭の話』のクランクイン直前に、ある方から溝口健二監督の『雨月物語』(53年)を観たほうがいいと言われたので観返してみたんです。そしたら、『ある船頭の話』と似たようなテーマを似たような形で描いていて、中には舟を漕ぐシーンもあったりして、実は凄く似ていることに気付きました。それに『雨月物語』はヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞も獲っているので、今となれば何か不思議な縁を感じて。『雨月物語』は60年以上も前の作品ですが、僕が無意識にリメイクしていたと言っても過言ではないのかなと思っています」

ーー今作が描いているテーマは普遍的なものなのかもしれませんね。
「それは凄く感じています。資本主義社会で生きる我々にとって、お金をとるか幸せをとるかみたいなテーマはやっぱり普遍的なものですし、それはこれから先も消えないのかもしれませんね」

画像3: Photo by Tsukasa Kubota

Photo by Tsukasa Kubota

(インタビュアー・文/奥村百恵)

<STORY> 
一艘の舟。全ては、そこから始まる―。
近代産業化とともに橋の建設が進む山あいの村。川岸の小屋に住み船頭を続けるトイチ(柄本明)は、村人たちが橋の完成を心待ちにする中、それでも黙々と渡し舟を漕ぐ日々を送っていた。そんな折、トイチの前に現れた一人の少女(川島鈴遥)。何も語らず身寄りもない少女と一緒に暮らし始めたことで、トイチの人生は大きく狂い始める―。

画像: 今作のような作品を作っても許される土壌は これからもずっと残っていて欲しい

『ある船頭の話』
9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
脚本・監督:オダギリジョー
出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎
   伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優/笹野高史、草笛光子
   細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
配給:キノフィルムズ
©2019「ある船頭の話」製作委員会

画像: 映画『ある船頭の話』予告篇| 9月13日(金)全国公開 youtu.be

映画『ある船頭の話』予告篇| 9月13日(金)全国公開

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