遺作とともに日本では正式劇場公開されていない 2 作も同時公開
『ラ・ポワント・クールト』で劇映画デビューを果たした1954年から、2017年にJRと共同監督した『顔たち、ところどころ』まで、 長きに わたるキャリアの中で 40 本以上の短篇、 長編劇映画、ド
キュメンタリーを監督したアニエス・ヴァルダ 。ヌ ーヴェルヴァーグの時代で唯一名を残した女性監督としてのみならず、写真家、ビジュアル・アーティストとしても 活動し、数多くの写真作品、インスタレーション作品を世に残した。
2019年2 月のベルリン国際映画祭に登壇した1ヶ月後の訃報に世界中が驚き悲しみ、マドンナや、アンジェリーナ・ジョリー、ジェーン・バーキン、ギルレモ・デル・トロなど、世界中の映画人、アーティストが追悼の意を表した。
『百一夜』など3 本のヴァルダ作品に出演した仏の大女優カトリーヌ・ドヌーヴは 「アニエスの人生で驚くべきは、若くして写真家として活動を始めてから最期の時まで 70 年近く創造の仕事を追求していたこと 。そのことが 一番感動的 でした」、マーティン・スコセッシ 監督は「アニエスは、人生でも芸術でも誰の足跡もたどらなかった。彼女に会えたことを幸運に思う。 そしてすべての若い映画人に、彼女の作品を観てほしい」 と 語っており、 世界中の映画界における ヴァルダの偉大さが感じられる 。
今回公開される遺作となった『アニエスによるヴァルダ』 は、彼女の半世紀以上に渡る創作活動を彼女自身が情熱とユーモア溢れる口調で語りつくし、貴重な映像とともに綴る集大成的セルフ・ポートレイト 。 そして、「 ヌーヴェルヴァーグはここから始まった」 と言っても過言ではない伝説的劇映画デビュー作 『ラ・ポワント・クールト』、自身が事務所兼住居を構えるパリ14 区、ダゲール通りに暮らす人々を点描したドキュメンタリー作家としての真骨頂 『ダゲール街の人々』 という、日本においては正式劇場公開されていない 2 作も同時公開される。
今回の特集上映開催にあたり、ヴァルダ監督と同時代を生き、作品 をリアルタイムで観てきた映画評論家の秦早穗子からは以下のコメントが寄せられた。
「アニエ ス・ヴァルダには、きらめきと創造、勇気と忍耐があった。現実を見つめる厳しい目と、愛に溢れたやさしさがせめぎ合い、生きる力となって、ヴァルダを前進させた。彼女の素晴らしさは、女の心、肉体、その内部を言葉ではなく、映像で表現したこと。同時に、一本のバゲットをみんなで分かちあう喜びも現す女(ひと)であった」
そして、このたび解禁したポスタービジュアル は、映画 「創造物たち」 (66)を撮影中の 30 代後半のヴァルダ監督の写真 を大きく使用し、 ヌーヴェルヴァーグの時代を牽引してきた力強さと、チャーミングな人柄が感じられるものが完成した。
写真上にある サインは、なんとヴァルダ 本人による直筆のもの。予告編では3作品を紹介しながら、終盤では、ヴァルダと『冬の旅』 (85・ ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞)に主演した仏女優サンドリーヌ・ボネールが笑い合う姿も。
『アニエスによるヴァルダ』 のオープニングでヴァルダが語る、「長年この仕事を続けてきた理由を話しておくわ。 キーワードは3つ。“ひらめき”と“創造”そして“共有” 」 という、創作の秘密を紐解いていく言葉で、予告編は締めくくられている。
【上映作品】
『アニエスによるヴァルダ』 *遺作
長編劇映画監督デビュー作『ラ・ポワント・クールト』から、世界各国の数々の映画賞に輝いた前作『顔たち、ところどころ』まで、ヴァルダが60 余年の自身のキャリアを振り返る、集大成的作品。飽くことのない好奇心と情熱をもって、死の直前まで創作活動を止めることのなかった彼女の、これは遺言状ではなく未来へのメッセージ。<第69 回ベルリン国際映画祭 正式出品作品>
監督:アニエス・ヴァルダ|製作:ロザリー・ヴァルダ|2019 年/フランス/119 分/カラー/5.1ch/1:1.85/原題:Varda par Agnès|日本語字幕:井村千瑞
『ラ・ポワント・クールト』 *劇場初公開
ゴダールの『勝手にしやがれ』よりも5 年、トリュフォーの『大人は判ってくれない』よりも4 年も早く製作された、「ヌーヴェルヴァーグはここから始まった」と言っても過言ではない伝説的作品。南仏の小さな海辺の村を舞台に、生まれ故郷に戻ってきた夫と、彼を追ってパリからやってきた妻。終止符を打とうとしている一組の夫婦の姿を描く。
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ|編集:アラン・レネ|出演:フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール|1954 年/フランス/80 分/モノクロ/モノラル/スタンダード/原題:La pointe courte|日本語字幕:井村千瑞|
『ダゲール街の人々』 *劇場初公開
自身が50 年以上居を構えていたパリ14 区、モンパルナスの一角にあるダゲール通り。“銀板写真”を発明した19 世紀の発明家の名を冠した通りには肉屋、香水屋…、様々な商店が立ち並ぶ。その下町の風景をこよなく愛したヴァルダが75 年に完成させたドキュメンタリー作家としての代表作。人間に対する温かな眼差しと冷徹な観察眼を併せ持ったヴァルダの真骨頂。
監督:アニエス・ヴァルダ|撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー、ヌーリス・アヴィヴ|1975 年/フランス/79 分/カラー/モノラル/スタンダード/原題:Daguerréotypes|日本語字幕:横井和子