映画史にその名を刻む鬼才スタンリー・キューブリックがこの世を去って今年で20年。しかし彼の作品は過去の遺物となるどころか、今も新たな解釈が生まれ続けている。そんな作品を生み出したキューブリックとは何者だったのか。作品同様、彼もまたとらえどころのない人物だったようだ。(文・北島明弘/デジタル編集・スクリーン編集部)

1960's〜1990's

自ら主導権を握り歴史に残る傑作が誕生

核戦争に関心を持っていたキューブリックはピーター・ジョージの『破滅への二時間』の権利を3500ドルで取得して映画化(1963、邦題は「博士の異常な愛情又は私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」)。通信機能が遮断されたために世界は崩壊してしまう。軍拡競争への痛烈な皮肉であり、笑っているうちにぞーっとするブラック・コメディSF。ピーター・セラーズが兵器開発長官ストレンジラヴ博士を含む三役を見事に演じていた。

画像: 「博士の異常な愛情又は私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」

「博士の異常な愛情又は私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」

アーサー・クラークの『前哨』をもとにした宇宙SF映画「2001年宇宙の旅」を4年かけて製作し1968年4月に公開。月で黒い長方形の板モノリスが発掘され、木星へ電波を発していることが分かり、ディスカバリー号が探査に向かう。封切り時は酷評がほとんどだったが、時を経るにつれて評価は逆転し、今日ではSF映画の金字塔とみなされている。最新のSFX技術を駆使したことでも知られる。

画像: 「2001年宇宙の旅」

「2001年宇宙の旅」

アンソニー・バージェスの同名小説を基づく「時計じかけのオレンジ」(1971)は、治安状態の悪い近未来が舞台。少年ギャングのリーダー、アレックスは刑務所で凶悪な犯罪者の人格を矯正するルドヴィコ療法の実験台にされてしまう。

画像: 「時計じかけのオレンジ」

「時計じかけのオレンジ」

続く「バリー・リンドン」(1975)はウィリアム・サッカレーの小説の映画化。成り上がり者のバリー・リンドンは金持ちの未亡人と結婚する。連れ子(演じたのはレオン・ヴィタリ)が彼を憎み、ついには彼を破滅させる。暗い室内を照らす蝋燭の光だけで撮影するためNASA用に開発されたカメラを特注したりと、凝り屋の面目躍如が話題になった。

1980年にスティーヴン・キングの同名原作に基づくホラー映画「シャイニング」が公開。冬の間は閉鎖されるホテルの管理人として雇われた売れない作家が妻と幼い息子を連れてホテルに向かう。父はしだいに正気を失っていき、斧を手に妻子へ襲いかかっていく。

画像: 「シャイニング」

「シャイニング」

画像: 「シャイニング 北米公開版」 4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ 2019年10月30日より発売中! WBHE / 6345円+税(2枚組) © 1980 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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1年以上にわたる撮影直後に突然の死

フルメタル・ジャケット」(1988)はグスタフ・ハスフォード原作のヴェトナム戦争をテーマにした作品。戦争アクションではなく、何もわからず戦場に投入された海兵隊の新兵たちを描く。

画像: 「フルメタル・ジャケット」

「フルメタル・ジャケット」

「アイズ ワイド シャット」(1999)はアルトゥル・シュニッツラーの『夢小説』を、現代ニューヨークに置き換えた嫉妬と性の強迫観念をテーマにした作品。トム・クルーズとニコール・キッドマンという当時は夫婦だった二人が夫婦を演じていた。最終カットを配給元WBに渡した4日後の1999年3月7日にキューブリックは死亡した。

画像: 「アイズ ワイド シャット」

「アイズ ワイド シャット」

準備段階で、多くの製作助手が世界中から撮影の参考になる写真、資料を何千枚と集め、撮影に入ると、完璧なヴィジュアルにするため何度もテークを重ねた。

「シャイニング」のジャック・ニコルソン扮する夫に妻が野球のバットで反撃する場面では、妻役のシェリー・デュヴァルは127回バットを振り回した。ぎりぎりになって息子役ダニー・ロイドの着るセーターがぴったり来ないと言い出し、衣装担当は友人が最近セーターを手編みしてたことを思い出して借りてきたこともあった。

製作期間も長期にわたり、「アイズ ワイド シャット」は延べ15か月に及んだ。

個人的なことになるが、「フルメタル・ジャケット」の際に電話インタビューをした。自分の信念を強調し、テクニカルな部分では細かく語ってくれたものの、個々の描写の意味については「観る者の判断に委ねる」と語り、私が意見を述べた際には「君がそう思うのなら、それでいい」と返された。その時、食えないオヤジだなと感じたことを思い出す。

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