毎月公開される新作映画は、洋画に限っても平均40本以上!限られた時間の中でどれを見ようか迷ってしまうことが多いかも。そんなときはぜひこのコーナーを参考に。スクリーン編集部が〝最高品質〞の映画を厳選し、今見るべき一本をオススメします。今月の映画は「潜水服は蝶の夢を見る」の鬼才監督が天才画家ゴッホを題材に圧巻の映像美で描く「永遠の門ゴッホの見た未来」です。

\今月の一本/
「永遠の門 ゴッホの見た未来」

37年という短い生涯で多くの名画を残した孤高の天才画家フィンセント・ファン・ゴッホ。生前には才能を認められず、孤独と共に生きたそのドラマチックな半生を、「潜水服は蝶の夢を見る」のジュリアン・シュナーベル監督が映画化。ゴッホ役を演じた主演ウィレム・デフォーが第75回ベネチア国際映画祭で男優賞を受賞。ゴーギャンをオスカー・アイザックが演じ、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリックら豪華キャストが脇を固める。
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監督/ジュリアン・シュナーベル
出演/ウィレム・デフォー、オスカー・アイザック、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリック

2019年11月8日(金)公開

編集部レビュー

ゴッホの色彩が風景がそこにある至高の映画

画像: ゴッホの色彩が風景がそこにある至高の映画

ゴッホの伝記映画というよりも、その心象風景、もっと言うならばゴッホの目に世界はどう映っていたのか?天才画家が感じていたであろう色や光や風や音を描き出すという、もともと画家から映画監督になったジュリアン・シュナーベルにしか作れない至高の映画。

光り輝くようなアルルの田園風景、真っ青な空に向かって伸びる糸杉、ギラリと照りつける太陽。ゴッホの絵に描かれる強烈な色彩そのもののような映像の美しさに、心奪われない人はいないだろう。

映画の主眼がそこにあるので、一般的な伝記映画としての内容は期待しない方が無難。弟テオとの関係やゴーギャンとの友情もかなり駆け足。そんな中、ゴッホの心情を見事に表わしたシーンとして白眉なのが、精神病院での牧師との対話。この牧師を演じているマッツ・ミケルセンとウィレム・デフォーの演技の応酬は鳥肌モノ。

レビュワー:近藤邦彦
編集長。原田マハの小説「たゆたえども沈まず」もおススメ。ゴッホとテオと日本人画商のお話で、難しくないし心に残る美しい小説です。

芸術が“贈り物”であることを再認識させられる

天才画家ゴッホは様々な伝説とともに語られる人だ。衝撃的な耳切り事件や謎の死、生前に一枚も絵が売れなかったという逸話。その謎の解釈の数だけ存在するゴッホ映画に、新たに挑んだのが鬼才シュナーベル。その手法は独特で、普通の伝記映画では全くない。にもかかわらず、ゴッホ映画の決定版と呼びたい出来栄えだ。

時に役者自身がカメラを持ったという主観映像の多用。それにより私たちはゴッホの目で世界を見ることになる。その試みが面白いのは“なぜ彼は孤独や無理解の中でも描き続けたのか?”の答えがその視線を通して導き出されていくからだ。

彼だけに見えた世界の美しさ、彼だけに見えた未来。それは芸術が“贈り物”であることを再認識させてくれる。ゴッホの絵が時代を超えて世界を魅了する理由を、これほど鮮やかに表現した作品は他に存在しないだろう。

レビュワー:疋田周平
副編集長。ゴッホさんは37歳で亡くなったようで、いつの間にか追い越していた自分に衝撃。それを64歳で演じたデフォーさんにも衝撃!

ゴッホの多面的な姿を見事に表現したデフォー

ゴッホといえば、生前に絵が全く売れなかった不遇の芸術家という印象でしたが、実際に画家として活動していたのは10年ほどだったそう。その間に彼の才能を高く評価する人もいたらしく、画家としては早熟だったという考えも。早すぎる死が惜しまれますが、本作では、まるで死を望むかのようなゴッホの姿が神々しく、その最期すら彼の芸術なのではと感じたほど。(一般的に知られている死因とは少し異なっていたことに衝撃!)

ジュリアン・シュナーベル監督が作り上げた圧倒的な映像美とともに、自然の中に溶け込んでいこうとするゴッホの姿は、まるで生死を超えた存在のようでした。しかしその一方で、友人ゴーギャンとの交流や、弟テオとの絆から、愛らしさや人間くささを感じることも。そんな両面の姿を見事に表現したウィレム・デフォーがとにかく素晴らしかったです。

レビュワー:阿部知佐子
「ゴッホ」といっても海外では通じないそう。ミドルネームを入れて「ヴァンゴー」というのが一般的。映画の中でもそう呼んでいました。

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