第20回を迎えた東京フィルメックス映画祭で、台湾の名監督ホウ・シャオシェンの活躍をドキュメンタリー作品にしたTVシリーズ『HHH:侯孝賢』(1997)が上映されました。その作品の監督であるオリヴィエ・アサイヤスが来日。新作として公開される『冬時間のパリ』の映画にも触れながら、映画に関わるスタンスとこだわりを語っていただきました。

子供の部分があっても許されるのがアーティストという存在

──なるほど。歳相応になってはいけないとか。

「私からしたら、彼は私よりも少し年上ですけれど、そういう気持ちや考えは私自身もとてもよくわかるんです。それに対して50歳くらいを過ぎても、そういう風にならないようにと考えているので、時代と共に、歳を重ねると共に、どちらかというと自由というものを、より勝ち得よう、もっと解放させようという方向にいたいなと思うようにしています。若々しさっていうもの、新鮮さというものをキープしようという風に心がけています」

──シャオシェン監督も、確かにそう言いたかったんでしょう。

「私の個人的な信念としては、アートというものは、そして、アートを実践している人間というものは、『子供』の部分、あるいは『ティーンエイジャー』の部分というのを持ち続けることを許されている。そういう特権があると思うんですよ。

だから映画っていうものを私自身も撮っているわけで、そういうことが出来てとても良かったな、満足しているなと、今もいつも思える。やはりそういう風な、想像力であるとか夢を見るとかいう、そういうことが許されるんですよね。だからこそ、映画をどんどん作れるようにしているし、そういうことを大事にして映画作りをしているんです」

──そう伺うと、映画を作ること、作れることって素晴らしいお仕事ですね。その中で監督は、映画はもちろん、ドキュメンタリー作品、短編も撮るし、脚本や、批評や映画についての著作もあります。非常に多岐に渡って、映画というものに関わっていらっしゃいます。

作品を通じて、社会の多様性や問題点を見せていきたい。

最新作で、日本での公開は未定ですが、90年代に実際に起きたキューバ革命のために祖国を捨て、アメリカに亡命して立ち働いた人々を描いた『WASPネットワーク』のような、ペネロペ・クルス他スター的俳優陣を起用したエンタテイメント性も強い大型の監督作品もあるし、『アクトレス~女たちの舞台~』(2014)に続く、ジュリエット・ビノシュがまたまた女優として演じる『冬時間のパリ』もある。個人的には監督の真骨頂は後者作品だと思っておりますが、監督としては、作るうえでの優先順位とかエネルギーのかけ方の優先順位とかはあるのでしょうか?

「私の中ではヒエラルキーはないですね。いつも同じように、映画を作っている気分でやっています。毎回毎回同じやり方で映画に向き合っていると考えているんですね。ただ、どのような表現やジャンルのものでも、その時、その時代の社会の一部を切り取っています。作品ごとに社会の一部を見せていきたい。

なぜなら、社会とは非常に複雑で、非常に多様性があるものだから。一つの作品でその多様性を一気に見せるのでではなく、こういう風な世界がある、こういう風な社会もある。ということで映画を作る、映画に関わるわけです」

──ジャーナリズム的視点を忘れないということになりそうですね。そういった点をテヴネ監督もきっと、高く評価しているのでしょうね。

「私にとって『WASPネットワーク』も『冬時間のパリ』も、同じ時代を共有している。その社会の場所が違うっていうだけのことなんです。言うなれば、私自身のスタンスとしては画家みたいな感じですかね。ポートレート、肖像画を描くこともあれば、風景画を描くこともあれば、有名な神話のワンシーンを描くこともある、みたいな。そういう風な描き分けみたいなものをやっているのじゃないかと思います」

『WASPネットワーク』が社会派作品というのは、観る前から感じさせますが、『冬時間のパリ』も同じように、時代の中の社会を反映させていると語るオリヴィエ・アサイヤス監督。

私小説作家と女優、片や出版編集者と政治家秘書という二組の男女を登場させて、仕事と人生のせめぎ合いを定点観測的に描き出している『冬時間のパリ』。

画像: 作品を通じて、社会の多様性や問題点を見せていきたい。

『冬時間のパリ』

2019年12月20日(金) Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
©CG CINEMA / ARTE FRANCE CINEMA / VORTEX SUTRA / PLAYTIME
監督・脚本/オリヴィエ・アサイヤス
出演/ジュリエット・ビノシュ、ギヨーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ、
   クリスタ・テレ、パスカル・グレゴリー
配給/トランスフォーマー
2018年/フランス /フランス語 /カラー/107分

確かにそう言われてみたら、軽妙洒脱なフランス風味の大人の恋愛映画として魅せる作品というだけではなく、社会的現象として問題になっている文学作品の電子化出版をモチーフにして、本を読まない世代が増え、文化の誉れ高いフランスでも、そうなっていることを強く訴えています。
社会の動きや問題点にブレないまなざしを向け、さまざまな形で映画や映画に関する表現方法で世に打ち出している姿勢は若さの証しとも言えそうです。

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