第20回を迎えた東京フィルメックス映画祭で、台湾の名監督ホウ・シャオシェンの活躍をドキュメンタリー作品にしたTVシリーズ『HHH:侯孝賢』(1997)が上映されました。その作品の監督であるオリヴィエ・アサイヤスが来日。新作として公開される『冬時間のパリ』の映画にも触れながら、映画に関わるスタンスとこだわりを語っていただきました。

リアリティある演技力は、演じる者に自由を与えることから

──『冬時間のパリ』を観ていると、『アクトレス~女たちの舞台~』同様、登場するジュリエット・ビノシュ演じる女優は、彼女自身そのものであり、彼女の私生活をリアルに映し出しているのか?という錯覚にも陥ります。その他の登場人物もリアリティがあり、そういう彼らの実人生の一コマ一コマを覗き見している楽しみがあり、そこが最高なんです。

これぞ、アサイヤス監督の素晴らしさだと思っているんですが、彼女たち、彼たちへの演出はどのようになさっていますか?ホウ・シャオシェン監督は、『HHH:侯孝賢』の中では「俳優たちには無理な抑圧、圧力をかけずに自由にさせて撮る」と言っていましたが。

「僕自身も監督として、本当に俳優の気持ちであるとか、その俳優のやりたいことに耳を傾けるタイプの監督なんです。だから俳優から彼らの存在感であったり、彼らの表現の仕方であったり、彼らのその時々の顔の表情であったり、そういうものを汲み取ろうという風に思っています。だからどちらかというと、シナリオそのものよりも俳優の自由な演技の方が重要だと考えていますね。とは言え、もちろん、シーンにもよります。

アドリブでやってもいいような余裕や余白のあるシーンもあれば、ここはかなりダイアログをきちんと守っていて欲しいという、そういう尊重すべきリズムは守りたい。ちょっとアドリブというのは勘弁、というところもありなんです。でも、どちらかというと自由に彼らにやってもらっていることが多いです」

──リズムのある指導力、絶妙な演技指導があのようなリアリティあるシーンを生み出すのですね。さすがです。最後に、かつてホウ・シャオシェン監督と刺激を与えあったという時代があったように、今だったら、どなたがそういう存在になり得ますか?

「そうですね、対話をしながらシンパシーを感じ得ていけるような存在がいいですね。何か仕事を一緒にするにしても。クレール・ドゥニ監督、アルノー・デプレシャン監督、(元の妻でもあり、女優で脚本家で監督としても高く評価される)ミア・ハンセン=ラヴ、脚本家で監督アリス・ウィノクール……。また、フランスだけに留まらずトッド・へインズ監督もいいですね」

『HHH:侯孝賢』では、シャオシェン監督が本当は俳優になりたかったけれど、容貌や背の高さを考えて辞めにして監督をめざしたということ、映画づくりには常に「男らしさ」というものを描かなくてはと心に留めていたことなどなど、「私」的な作家主義を全うしている人物像を炙り出していたことも印象的でした。対して自身はといえば、アップ・トウ・デイトな時代の動きに迅速に対応する、客観的な視点を忘れない作家主義であることを明かしてもいただけた、そんなインタビューとなりました。

画像: 映画『冬時間のパリ』予告編!12月20日(金)公開 youtu.be

映画『冬時間のパリ』予告編!12月20日(金)公開

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