多くの映画関係者が“神様”のように思っている名匠マーティン・スコセッシが、マーベル映画について、『あれは映画ではない』と発言したことが口火となって、ハリウッドを越えた“映画論争”が勃発中。様々な立場の人たちが様々な意見を繰り出して、なかなか収まるところがありません。一体この事態はどうなってしまうのでしょう?(文:LA 在住・荻原順子/デジタル編集:スクリーン編集部)

フランチャイズ映画に欠けるアーティストのビジョンは同時にリスクでもあるという事実

スコセッシに賛同する監督たちも反発するマーベル映画の関係者たちも、彼の『マーベル作品は映画ではない』という意見に焦点を当てて論じているようだが、スコセッシは社説の後半で、マーベル作品のようなフランチャイズ映画に対する問題意識を以下のように説明していく。この国や世界の多くの場所の映画館で映画を観ようとした場合、フランチャイズ映画が最も観やすくなっている。それは需要と供給のゆえである、観客の要求に応えているだけであると言われるかもしれないが、そうとは思わない。その因果関係については白黒つけがたいからだ。

もし、或る種の映画だけしか上映しないようになれば、観客はそのような映画だけを観たがるようになるのは当然である。だが、最も暗い兆候はリスクを排除しようとする傾向である。今どきの映画はすぐに消費されるような完璧な商品として製造されている。才能ある人たちから成るチームによって巧く作られているが、どれも同じに見え、映画に必要不可欠な個人のアーティストのヴィジョンというものが無い。それもそのはず、アーティスト個人というのは最大のリスク要因だからだ。

ハリウッドで中規模映画を製作するのが難しくなっているのは本当という証言も

超大作以外の映画を撮ることの難しさを語るジョー&アンソニー・ルッソ監督

実際、アメリカ映画界では中規模程度の製作費の非フランチャイズ映画を製作することは年々難しくなってきている。

例えば「アベンジャーズ」シリーズの監督デュオ、アンソニー&ジョー・ルッソですら、そのような作品を製作するのに苦労したとのことで、ジョー・ルッソ曰く『「アベンジャーズ/エンドゲーム」を監督した僕たちみたいな人間にとってさえ、ダークな性格劇のような映画を製作するのは大変だった』とか。

作家性のある監督への支援を訴えるカンバーバッチ

マーベル作品に出演してきたスターたちも、この問題には関心を寄せており、例えばドクター・ストレンジを演じたベネディクト・カンバーバッチは『優れた監督たちがフランチャイズ映画は映画界を乗っ取りつつあると言っているようだけど、同感だね。王様みたいな存在が君臨して独占市場状態になるのは良くないよ。作家性を持つ監督たちへの支援を続けていくべきだと思う』とコメントしているし、「アベンジャーズ」シリーズのハルクことマーク・ルファロは『スコセッシは「映画製作に奨励金を出すべきだなどとは言っていない」と書いていたけど、僕はむしろ奨励金を出すべきだと思うな。そして、若い世代の映画作家たちが商業性重視ではない、芸術としての映画を製作できるように支援すべきだと思う』と、さらに一歩進んだ方策を提案している。

ルファロも芸術としての映画への支援を呼びかける

スコセッシを支持する映画人たちもマーベル作品を擁護する映画人たちも、ありとあらゆる類の映画が等しく映画館で上映されるのが理想だと考えているのは同じであるようだから、集客力が強みの作品も芸術としての映画を目指す作品も共存できるような製作・配給・興行のシステムが整うことを願うばかりである。

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