マックイーンが魅せた反逆のヒーローのカッコよさ
数多い名作の中でも、スリルとサスペンス、さらに群像劇としての魅力を湛えた脱獄映画と言えば、「大脱走」がピカイチだろう。第二次大戦下のナチス捕虜収容所から脱走を試みた連合軍捕虜たちが、どうやって計画を準備し、挫折しかけ、計画実行後、何人が捕まり、また逃げ切ったかを、不朽の映画音楽〝大脱走マーチ〞をバックに綴る全172分。だがその間、一瞬の弛みもないのだから凄い。
観客は終始、脱走までの、そして脱走後の捕虜たちの運命に、ワクワクしながら身を委ねればいい。チームリーダーがゲシュタポから解放されて捕虜たちと合流すると、即、綿密な計画は始動する。トンネルをつも掘ってモグラの如く近くの森に出ようという、余りにも大胆でうっとりするような作戦だ。
すると、情報収集担当、トンネル採掘係、物資調達屋、道具作りの専門家、仕立て屋、身分証偽造のプロ等が技能比べを始める。中には、予め脱走して外部の様子を偵察してくる命知らずな奴もいる。この連係プレイが絶妙だ。やっぱり〝ワンチーム〞は気持ちが上がる。
案の定、計画は挫折しかける。トンネルの本が見つかり、ショックを受けた捕虜の一人がフェンスをよじ登ろうとして射殺され、挙句、トンネルが森まで届かないことが発覚する。でも、これは溜めに過ぎない。
全ての危機に対処し、決行当夜、パトロールの隙をついて次々と鉄条網の外に出た総勢人の捕虜たちが、ある者は列車で、また、ボートで、自転車で、バイクで、自由に向けて疾走していく後半は、鳥籠から鳥が一気に放たれたような解放感に満ちている。
やがて、ほとんどはゲシュタポに逮捕されるか、射殺されるかして夢は儚く潰えるけれど、なぜかそこに悲壮感はない。思い半ばで散っていった仲間たちの無念が、脱走に成功する僅か人の捕虜たちの奇跡に近い幸運によって報われる時、この物語が全ての人物に優しい秀逸な群像劇として成立していたことに気づくからだ。
マックイーンほか多くのアクションスターがこの映画から羽ばたいた
閉所恐怖症のトンネル掘り、ダニーを演じたチャールズ・ブロンソン、道具作りの達人、セジウィック役のジェームズ・コバーン等、この作品をきっかけに羽ばたいたスターは多い。でも、偵察屋、ヒルツを演じるスティーブ・マックイーンこそが看板役者だ。
クライマックスでドイツ兵から奪ったバイクに跨って派手にハンドルを切ったものの、運転を誤ってあえなく有刺鉄線に絡みとられ、再び独房に舞い戻った彼が、壁に向かってキャッチボールを再開するシーンが忘れられない。これ以降、対象物を目で追う時に小刻みに動くブルーの瞳と、バイクスタントのほとんどを自らこなしたという本人のこだわりと自信が、マックイーンのイメージを決定づけるのだから。
脱獄とトンネルの組み合わせが、後に「プリズン・ブレイク」(2005〜)や「ショーシャンクの空に」(1994)等に影響を与えたと言われるこのジャンルの元祖が「大脱走」。同時に、スティーブ・マックイーンという不世出のアクションスターを輝かせた記念碑的作品として、広く長く愛される存在バイクに跨って派手にハンドルを切っなのは言うまでもない。
「大脱走」© 1963 METRO-GOLDWYN-MAYER STUDIOS INC. AND JOHN STURGES. All Rights Reserved, Silver Screen Collection/Hulton Archive/Getty Images