(文・清水久美子)
Vol.2「凪待ち」——“汚れ役”で開眼した香取慎吾の新境地
【Chapter1】作品概要&ストーリー
「凶悪」で新藤兼人賞金賞をはじめ、日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞ほか各映画賞を受賞。「孤狼の血」と「彼女がその名を知らない鳥たち」ではブルーリボン賞の監督賞に輝くなど、熱い視線を集め続けている白石和彌監督が、稲垣吾郎・草彅剛と共に“新しい地図”としてのユニットでも活動の場を広げている香取慎吾に、これまでにない“汚れ役”をオファーし、主演作を撮った衝撃のヒューマンサスペンス。愚か者を描き続ける白石監督は、「喪失した人たちと再生していく人たちをテーマにした題材を構想していて、それが新しい地図を始めた香取さんとイメージが重なった」「香取さんがやったことのないテーマを演じたらいいのではないか」と考えて香取とタッグを組んだという。
ギャンブルに依存し、毎日を無為に過ごしていた郁男(香取)は、恋人の亜弓(西田尚美)とその娘・美波(恒松祐里)と一緒に、亜弓の故郷である石巻に引っ越して再出発しようと試みる。ギャンブルからも足を洗うつもりだったが、小さな綻びが積み重なる中、郁男と亜弓が口論した夜、亜弓は何者かに殺害されてしまう。よそ者の郁男は犯行を疑われた上、次々と襲い掛かる絶望的な状況から、次第に自暴自棄になっていく。
宮城県石巻市を舞台に撮影された本作は、震災をバックボーンにしつつ、どの土地でも起こり得る人間ドラマを震災の地でやることが重要だと考えた白石監督が、主人公の再生と街の再生をシンクロさせ、石巻のエネルギーに助けられながら完成させたという。人生をやり直すために石巻にやって来た主人公が、そこで恋人を殺され、堕ちるところまで堕ち、容赦ない暴力と絶望に身を任せていく。誰も見たことのない香取の新しい“顔”と魅力が、白石監督によって大いに引き出されている。