「人々が移民の生活が簡単ではないと分かってくれることを願います」
本作は、パリへ逃れた政治難民の少年がチェスチャンピオンを目指していく感動のヒューマンドラマ。母国バングラデシュで天才チェス少年として有名だったファヒムの実話が基になっている。
政変が続くバングラデシュ。家族が反政府組織に属していたことに加え、チェスの大会で勝利を重ね続けるファヒムに対する妬みが原因で、徐々にファヒムと家族は脅迫を受けるようになっていた。自分たちの身に危険を感じた父親はまだわずか8歳だった少年・ファヒムを連れ、二人だけでパリへ国外脱出、そこでチェスのトップコーチであるシルヴァン(ジェラール・ドパルデュー)と出会う。
独特な指導をするかつての天才チェスプレーヤーでもあるシルヴァンと、天才頭脳で口達者なファヒムはぶつかり合いながらも、チェスのトーナメントを目指して信頼関係を築いていく。そんな中、移民局から政治難民としての申請を拒否されたファヒムの父親は、身の置き所が無くなり姿を消してしまう・・・。迫りくる強制送還のタイムリミット、その脅威から逃れるには、解決策はただ一つ。ファヒムがチェスのフランス王者になることだった。。
監督は、俳優としても活躍するピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル。本作を製作することになったきっかけについて彼は「2014年2月、テレビで14歳のバングラデシュ人の少年が、彼のこれまでの人生を語った本『Un roi clandestin(密入国者の王さま)』<日本未発売>についてインタビューを受けていたのを見たのです。それまで彼のことをまったく知りませんでしたが、落ち着いた声で話すこの少年に魅了され心を揺さぶられたのです」と語る。
そして「なぜ8歳の時に急に母親から引き離され、国を出なければならなかったのか。父親と一緒に言葉も生活習慣も知らないフランスに降り立ち、その4年後に、不法滞在のホームレスであったにもかかわらず、どうやって12歳以下のチェスのフランス王者になったのか。すごい道のりです!私の映画作家としての血が体をひと巡りし、すぐにこの映画を作りたいと思ったのです」と述べている。
チェスの天才少年ファヒムを演じたのは、これが演技初挑戦であり、彼自身も撮影が始まる約3ヶ月前にバングラデシュから政治亡命者の息子として逃れてきたというアサド・アーメッド。ある日突然父親から「いとこと一緒にでかけろ」と言われた先が映画のキャスティング現場だったと言う。
本作について「脚本の内容を聞いた時、とても感動しましたし、バングラデシュの首都ダッカで起こっているいろいろな問題を思い出しました。ファヒムの物語は僕のものではありません。でも僕が経験してもおかしくなかった」「この映画を通して、人々が移民の生活が簡単ではないと分かってくれることを願います」とその想いを語る。
ファヒムの才能をいち早く見抜き、彼をフランス王者にするために厳しくも愛情溢れた熱心な指導に没頭するファヒムのチェスコーチ・シルヴァンを演じるのはフランスの誇る名優・ジェラール・ドパルデュー(『シラノ・ド・ベル・ジュラック』)。
監督が実際の“ファヒム”の指導者であるグザヴィエ・パルマンティエに出会った際に「彼の恰幅の良さ、優しさ、激しい気性を知りまっさきに思い浮かべたのがジェラール・ドパルデューだった」という。「私はおめでたい人間ですから、すぐにジェラールがぴったりだと思い、1秒たりとも断られる可能性を想像しませんでした。それでもジェラールのエージェントに脚本を送った時は多少ドキドキしましたよ。脚本は140ページあり、この長さがジェラールのやる気をそぐんじゃないかと怖くなったのです。でも違いました。48時間後に彼はOKの連絡をくれました」とその喜びを語る。
政治難民の父親に伴われ、母親からも引き離され、わずか8歳で見ず知らずの街で生きることになったファヒム。国籍・年齢を越えた師弟の絆、親子の愛、巡り合った友情とともに立ちはだかる数々の壁をその明晰な頭脳で次々と打破しながら自身の力で力強く未来を掴んでいくファヒムの姿に熱く胸を打たれること必至だ。
ファヒム パリが見た奇跡
2020年8/14(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給:東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
©POLO-EDDY BRIÉRE.