1960~1970年代に一世を風靡したイタリアン・ホラーの礎を築いた名匠マリオ・バーヴァがこの世を去って40年。この節目に日本初公開作含む13作品が初めてブルーレイでリリースされます。スコセッシやタランティーノら名だたる映画人たちに影響を与えたバーヴァの世界をご案内しましょう。(文・久保田明/デジタル編集・スクリーン編集部)
(カバー画像:「血ぬられた墓標」(1960)© Naor World Media Films, Inc All Rights Reserved.Photos by GettyImages)

マリオ・バーヴァとは?

画像: 遺作となった「ザ・ショック」(1977)

遺作となった「ザ・ショック」(1977)

マリオ・バーヴァは、1914年イタリアのサンレモ市生まれ。1930年代の終わりにカメラマンとして映画界入り。多くのドキュメンタリー、歴史アクション、冒険映画を手掛け、1960年に「血ぬられた墓標」で監督デビューを遂げた。美しくムーディな怪奇映画を数多く発表し、イタリアのホラー映画の礎を築いた。

呪われた屋敷モノ「ザ・ショック」(1977)を遺作に1980年に他界。今年は没後40年となる。息子のランベルト・バーヴァも「デモンズ」シリーズなどで知られる映画監督だ。

イタリアン・ホラーにおける草分け的存在バーヴァ

ホラー映画は、作り手と観客の双方がそれを熱狂的に愛してきた稀有な映画ジャンルだ。暗闇のなかに座って、しばし別世界をさまよう。(たとえば先日の「ミッドサマー」のように)美しいとも感じられる恐怖の事象を覗き見る。映画の黎明期からホラー・ムービーは永く作りつづけられてきた人気商品。深夜見る夢にいちばん近い表現物なのかもしれない。

そんなホラー映画界で独特の地位を築いた名匠のひとりが、イタリアで活躍したマリオ・バーヴァ監督だ。ダリオ・アルジェント監督の大ヒット作「サスペリア」(1977)と、それをリメイクしたルカ・グァダニーノ監督の「サスペリア」(2018)の鮮やかな色彩効果とグラマラスな音楽!

ほかには「サンゲリア」(1979)「地獄の門」(1980)などのルチオ・フルチ監督、スティーヴン・キングの小説「ペット・セメタリー」(2019)に影響を与えたゾンビ映画「ゼダー/死霊の復活祭」(1982)のプピ・アヴァティ監督などのイタリアン・ホラーのルーツにはバーヴァ監督がいる。

そんなバーヴァの代表作、計13作品が今年2020年6月・8月に、ブルーレイ・ディスク化される。低予算ながら工夫に富んだ撮影テクニックとムード満点の美術で恐怖を盛り上げる。薄絹をまとった女優がエロスを添える。美しさに定評のあるバーヴァ作品だから、高画質ソフトのリリースを待ち望んでいたファンも多いだろう。

父親のエウゲニオは、イタリア無声映画時代に活躍した撮影監督、特殊効果アーティストで、当初の夢は画家だったマリオも父につづいてカメラマンとして映画界入りをした。およそ20年間、撮影監督として活動。ノン・クレジットで共同演出を務めたあと、1960年に脚本、撮影を兼任した「血ぬられた墓標」(1960)で監督デビューをした。

画像1: 「血ぬられた墓標」(1960)

「血ぬられた墓標」(1960)

ゴシック・ホラー(ヨーロッパの風土を背景に超自然的な恐怖を描く怪異譚)の名手として注目されたバーヴァ監督は、その後もサイコサスペンスの先駆け「モデル連続殺人!」(1963)や「白い肌に狂う鞭」(1964)、ユーモア・ホラーである「ブラック・サバス/恐怖!三つの顔」(1963)、「エイリアン」(1979)の元ネタにもなったSFホラー「バンパイアの惑星」(1965)、最高傑作と定評のあるオカルト・スリラー「呪いの館」(1966)などの人気作を発表した。

第一線で活躍する映画人に敬愛される理由とは?

父親のエウゲニオ同様に撮影や特殊効果(SFX)に精通した職人で、フランシス・フォード・コッポラ、マーティン・スコセッシ、ジョー・ダンテ、ティム・バートンやクェンティン・タランティーノなど、バーヴァ監督を敬愛する映画人も多い。なぜだろう。──バーヴァ監督の作品はトリッキーな作りモノ感覚に満ちており、それが観る者を夢想の世界にいざなうのだ。

「フランケンシュタイン」(1931)の人気怪奇俳優ボリス・カーロフが案内人を務める「ブラック・サバス/恐怖!三つの顔」(1963)では、幕切れに馬に跨がりながら「いかがでしたか?帰りの夜道に気をつけましょう」と語る彼からカメラが後退すると、そこは映画スタジオで、馬も人形だったことが明かされる。この世はすべて作りもの。でもそこに夢や真実が宿っている。これが多くのファンや監督たちを魅了してきたのだろう。

画像1: 「ブラック・サバス/恐怖!三つの顔」(1963)

「ブラック・サバス/恐怖!三つの顔」(1963)

先日他界された大林宣彦監督も、初期の「HOUSE ハウス」(1977)のころからバーヴァ監督のトリック感覚に魅せられてきたひとり。近日公開の遺作「海辺の映画館キネマの玉手箱」の主人公の役名は馬場毬男(ばば・まりお)だ。

日本初紹介の3本(「ナイヴズ・オブ・ジ・アベンジャーズ」(1966)「フォー・タイムズ・ザット・ナイト」(1971)「ラビッド・ドッグズ」(1974))を含む今回のラインアップは豪華版。若いファンもバーヴァ監督の沼にはまるかも。

次は、アメリカでこの春ついにブルーレイが発売された快盗映画「黄金の眼」(1968)をお願いしますよ。ポップでキュート。これ、「ルパン三世」に多大な影響を与えたアクション・エンタメです!

This article is a sponsored article by
''.