『飛べないアヒル』(92)のリブートもコロナ禍で中断している状態
記録的な大寒波の到来により、緊急シェルターがいっぱいで行き場がないホームレスの集団が図書館のワンフロアを占拠。突如勃発した大騒動に巻き込まれたひとりの図書館員の奮闘を軸に、予測不可能にして笑いと涙たっぷりのストーリーが展開していく。
本作のきっかけは、2007年にソルトレイクシティー公共図書館の元副理事チップ・ウォードがロサンゼルス・タイムズに寄せたエッセイ。図書館がホームレスのシェルターとなっている現状や、彼らの多くは精神疾患を抱えていることが描かれている。そのエッセイを読んでインスピレーションを得たという監督は「これは映画になると感じたというよりも、図書館で何かできるのではないかと感じ、映画のリサーチのためにロサンゼルスにあるダウンタウンの公共図書館で、静かにそこで起きることを観察していたんだ」と振り返る。
「だいぶ足を運んだ時に、常連のホームレスが自分に対して、『いつもいるな』と信頼し始めてくれて。どうやって自分が路上生活者になったということから話をしてくれたりするようになった。オープンな人もいれば、声をあげられたりして、怖くなってしまったこともあったんだけどね。そうやって色々な人の話を聞いて、この作品をつくっていったんだ。彼らとの会話や図書館で過ごした時間は得難い価値があったと思う」と語る。
また、路上生活者にとっての図書館について「ホームレスになった人はサバイバルモードになってしまっているんだ。でも、図書館に行くと1日8〜10時間くらいは室内に入れて、本が読めたり情報にアクセスができたりすることができるから、彼らにとっては安寧を感じられる場所なんだ」と分析する。
また、図書館などの公共施設がホームレスや社会的に立場の弱い方を救うために、どのような役割を負うべきか尋ねられると「この国にはホームレスを“不憫だけど、仕方がない”と思う人がたくさんいる。ホームレスになってしまうのは、自力で苦境を打破するための一歩を踏み出さない自己責任としてしまうわけだ。図書館や公共施設がそうした人たちを助けるのは、道徳上の任務だと思う。人の心を持っていれば、当然のことだけど、この分断の世の中に人の心を持たない人がたくさんいることは残念だ」と思いを語る。
現在の新型コロナウイルスの蔓延で心配していることについては「劇場で映画が観られなくなること。この状況から、すでに立ち行かなくなってしまっている映画館もあると思うし、これからの配給はストリーミングが増えるかもしれないと心配している。『飛べないアヒル』(92)のリブートをバンクーバーで撮影していたけど、コロナ禍で中断している状態で、いつ再開するのかまだ目処がたっていない」と今後の状況を危惧する。
続けて「特に、アメリカは日本よりもコロナの感染拡大が抑えられていないので、果たして本当にどうなるかという感じだよ。ただ、『ヤングガン』(88)のリブートも参加が決まって、良かったなと思っているのは、現代物をつくるとコロナのことに触れざるを得なくなる。でも、時代物だったらコロナなんかない世界でストーリーが展開する。もしかしたら、時代物が増えるかもなぁ…」とコメント。
最後に日本の観客へ向けて「私たちは社会的に弱い立場にいる人だったり、ホームレスだったり、肌の色が違う方だったり、声なきものに対して、こういうストーリーがあるんじゃないか、と勝手に思い込んでしまうんだ。僕の場合も、エミリオ・エステベスはこういう育ち方をしたんじゃないか、とそういうイメージを押し付けられるようにね。それって、皆やっていることだと思う。でも、それは間違っていることが多いので、その人のストーリーを勝手につくらないでほしい。それと、スマホとかパソコンを持っている人は、公共図書館が情報をアクセスできる役割を果たしているんだ、ということを改めて実感してほしい。そのくらい、必要不可欠な機関ということを改めて感じてほしい。理由はこの映画の中でいっぱい描いているから、伝わるといいなと思っている」と思いを語りインタビューを締めくくる。
コロナ禍、BLM運動、香港の民主化デモ…。着想から11年の時をへて奇しくも、まさに“声を上げる”べき今だからこそ、監督が映画に込めた思いを感じてほしい。
パブリック 図書館の奇跡
2020年7/17(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:ロングライド
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