アメリカではいまだ新型コロナウイルス禍が収まりを見せず、映画界も大きなダメージを受け続けています。大型作品の公開延期や公開形態の変更、再オープンできない劇場側や、止まっている新作の製作にも新たな動きが見え始めました。そんな映画界の近況を再びハリウッド現地からレポートします。(文・LA在住 荻原 順子/デジタル編集・スクリーン編集部)
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大手劇場チェーンAMCとユニバーサルが交わした合意が映画界に衝撃を

映画館経営者たちの悩みは同様かそれ以上に深刻だ。7月24日の時点で、ドライブインを除く映画館に休業命令が出されているのは全米50州のうちニューヨークやカリフォルニアをはじめとする9州。観客の定員数を20%から49%までに抑えての営業が許可されているのはコロラド州など5州。定員数を50%から70%に抑えての営業が許可されている州が一番多く24州。オレゴンなど12州では映画館主が定員数の上限を定めてよいことになっている。

しかし、州政府が営業を許可しているからといって映画館の経営が順調に復活できるわけではない。例えば、定員数を50%に抑えての営業許可が出ているインディアナ州の映画館の1つは6月14日、2ヶ月ぶりに営業を再開させたが、収益を上げるに充分な客足が戻って来なかったため、2週間後に再び休業に追い込まれたそうである。

映画館経営者たちにとって最大の問題は、大手配給会社が、コロナウイルス感染への懸念を打ち消すに足る集客力を持つ大作、期待作の新作の公開を見合わせていることだろう。

多額の興行収入を出さずとも採算が取れるような小〜中規模作品の公開から開始する方策を提案する声もあるようだが、ラスベガスの一映画館主は、従業員を再雇用し、売店の商品の在庫を揃え、さらにコロナウイルス感染防止策を整備する費用をかけるに見合うだけの収益を上げられるかどうか疑問視。州から営業再開許可が出ている今でも休業を続け、12月まで営業を再開しない心づもりだと語る。

画像: 最大手劇場チェーンAMCが映画館にとって重大な決断を…

最大手劇場チェーンAMCが映画館にとって重大な決断を…

映画館経営をさらに複雑にしそうなのは、7月末に取り交わされた米国最大の映画館チェーンAMCとユニバーサル・ピクチャーズによるオンデマンド配信解禁期間の大幅短縮に対する合意である。これまで劇場用映画の新作は、映画館で上映されてから90日間を経てからホームエンターテイメント媒体でのリリースが許可されていたが、上記2社の合意によって、それが17日間へと大幅に短縮されることになる。

映画会社としては、新作の映画館への集客力が落ちてくる頃にオンデマンド配信を通じての興収が入り始め、収益の最大化が期待できる。この合意ではオンデマンド配信の興収の一部はAMCにも入ることになっているとのことで、AMC側としてもコロナウイルス禍をきっかけに起きかねない映画ファンの劇場離れに対する補償に成り得るという計算もあったのだろう。

小・中規模の企画であれば映画やTV製作にも新たな成功例が出始めている

映画製作の方も復活への道を歩み始めてはいるが、ハードルは少なくない。例えば、ジェームズ・キャメロンの「アバター」続編はニュージーランドで撮影を再開したものの、ロサンゼルスでのヴィジュアルエフェクツ撮影ができずに製作に遅延が生じている。

一方、そのような大がかりな撮影やポストプロダクション作業が必要ではない低予算映画やテレビ番組の製作は、多大な努力を要しながらも少しずつ進められている。

サム・レヴィンソン監督とゼンデイヤ

その一例に、バリー・レヴィンソン監督の息子で2011年に「アナザー・ハッピー・デイふぞろいな家族たち」で映画監督デビューしたサム・レヴィンソンが監督した「Malcolm&Marie」がある。「マリッジ・ストーリー」のような男女の物語で社会問題のテーマも加えられたというこの作品の撮影にあたっては、主演のジョン・デヴィッド・ワシントンとゼンデイヤらキャストやスタッフ全員が、撮影の2週間前にコロナウイルス検査を受け、その後2週間は外部との接触を避けて待機。

6月17日から7月2日にかけての撮影期間中もロケ場所のカリフォルニア州モントレーの一軒家とその周囲に設営された宿泊場所から一歩も外へ出ないという徹底した安全対策を取ったうえで撮影されたとのこと。

画像: タイラー・ペリーはTVドラマを製作へ

タイラー・ペリーはTVドラマを製作へ

テレビ番組の方では、コメディ映画「マデア」シリーズで知られる監督・プロデューサーのタイラー・ペリーが製作するコメディドラマ「Sistas」が、ジョージア州アトランタで撮影を再開させている。

同番組の撮影では、ハリウッドの主要映画組合と製作会社の規定に則り、30ページに渡る撮影条件をリストアップ。撮影前に2週間の謹慎期間を設け、撮影開始後は頻繁にコロナウイルス検査を行うなど徹底した安全対策を厳守して、撮影を終了したそうである。

「Malcolm&Marie」や「Sistas」の撮影の成功は、〝コロナの時代の映画・TV製作〞は、小・中規模なプロダクションであれば、手間暇はかかるが(ペリーに依るとコロナウイルス検査とその結果待ちが特に大変だったとのこと)実施可能であることを示したものだと言えよう。

コロナウイルス禍の状況推移は今後も予測が難しいかもしれないが、治療薬やワクチンが開発されるまでは、ハリウッドも地道な努力を続けていくしかないのだろう。

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