クリストファー・ノーラン監督
「007」ファンでエンターテインメントとしても観客を満足させることを心得ている
ノーラン作品はもちろん、難解なだけではなくエンタテインメント性も備えている。なにしろ彼は長年にわたる推理小説の愛好家で、また『007』シリーズの大ファンだ。サスペンス性を重視する点には、それらからの影響が反映されている。
『フォロウィング』以降のほぼすべての作品にダークなノワール調は取り入れられているし、そこに『ダークナイト』3部作に代表される縦横無尽なアクションが組み合わさることによってスリルはグングン加速する。
また、アクションを描くうえで特色といえるのは、撮影後にデジタル補正することこそあれ、100%のCG描写を避け、生身のスペクタクルを撮影してしまうこと。
『ダークナイト』でのビル爆破や大型トレーラー横転シーンは実物やセットを使って撮影し、『ダンケルク』での空中戦描写ではグリーンバックを一切用いずにドッグファイトをビジュアル化してみせた。『TENET テネット』には飛行機が建物に突進して爆破する場面があるが、これも実寸のものを使って撮影したとのことだ。
IMAXカメラを劇場用として初めて取り入れるなど撮影手法にもこだわりが
撮影術にもはっきりとしたカラーがある。特徴的なのはデジタルカメラ撮影が当たり前の現在も、フィルムの質感の美しさにこだわって撮影を行なっていること。肉眼で見えるものを最高の品質で再現できるから……と、彼はその理由を説明する。
とりわけ、ノーランが気に入っているのは、“これまで発明されたなかでも最高のフィルム形式”と称賛するIMAXカメラ。『ダークナイト』で劇場用映画として初めて取り入れて以来、『インセプション』を除くすべての作品で、ノーランはこの革新的なカメラを起用している。
IMAXはカメラ自体が大きく、小回りが利かないため、現場で扱うには苦労が伴うという難点があるが、ネガの領域はそれまでのフィルムの3倍で、よりクリアな映像を作り出すことができる。たとえば、『ダークナイト ライジング』での証券取引所前でのモブシーンでは1000人ものエキストラが投入されたが、そのひとりひとりの顔をはっきり確認できるのはIMAX撮影の賜物なのだ。
ざっとノーランの作家性やこだわりを挙げたが、他にも同じスタッフや俳優を好んで起用するなどの特色がある。現時点では『TENET テネット』の詳細な内容はわかっていないが、伝え聞く情報や予告編などから察するに、これらの要素がすべて詰め込まれているのは間違いないだろう。
パンデミックによる全米公開延期や劇場の制限により、これまでの作品のようなメガヒットを飛ばすのが難しいと見られているのは、仕方のないところ。それでもノーランの集大成というべき『TENET テネット』は、観客に大きな驚きをあたえるに違いない。
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