コロナ禍にあっても、新作映画の劇場上映はコロナにめげずに目白押し。試写会もリモートやDVDでの試聴もあり、ステイホーム中の筆者の元には、毎日多くの試写状が届きました。
ファッション性の高い、初監督作品の登場
その中にあって、ひときわ目を惹いたのが、津田肇監督初作品『Daughters』でした。二人の若い女性がベッドかソファーの上で横になって向き合っているビジュアル。
彼女たちのコスチュームは、なにげなくカジュアルなのですが、ファッションブランドの春夏シーズンのカタログに登場するかのような極まった着こなし。映画のタイトルのタイポグラフィーも、モード感溢れるデザイン。作り手のこだわりが感じられて、映画を早く観てみたいとザワザワさせられました。ひょっとして、これは、女性同士の恋の話しでは?と、そのあたりにもそそられました。ポスター(写真・上)も目を惹きますし、チラシも手に取ってみたくなりますね。
そこに生まれる、濃密な「愛」が漂っているような二人の距離感。が、しかし、その愛は恋愛とは違う愛であったことを、映画は教えてくれるのですが。
新しい時代を感じさせる女性のライフスタイル、もっと言えば「生き方」を標榜する様な投げかけをくれる映画作品が『Daughters』です。それは、どの様なものなのか。作品冒頭のシーンで語られる言葉が、この映画に込められたメッセージの一つだと思われ印象に残ります。
どのような仕事をして、どの様な場所に住み、そして誰と一緒にいるのかで、その人のライフスタイルが見えてくる……。
自分らしくこだわって生きる女性たち
この言葉から受け取れることは、仕事や人生は、自らが選び、自らが作り上げていくものであるということ。
これは、筆者も常々思うところであり、映画の出だしのところから惹きこまれることになってしまいました。想い起せば、かの稀代のファッションデザイナー、ココ・シャネルがお手本でもありますが、人から与えられる生き方ではない、自らが選んだ生き方でこそ、自分らしく成功をめざして邁進できる。
この映画に登場する若き女性たちもまた、それぞれがファッション業界で自分の選んだ道を迷うことなく、まっしぐらに進む二人なのです。自分と自分の仕事を愛し、一緒にいる相手も愛したい。二人とも、良く働き、よく遊ぶ。ファッションイベントのプランナーで演出家という仕事に燃える堤小春と、ファッションブランドのプレスに生きる清川彩乃が主人公。輝いて、今を生きる二人のクリエイテイブな仕事に向けた情熱は、半端なものではありません。
そういう分かち合える価値観があってこそ、ルームシェアのパートナー、同居人としての良き関係も成り立つというもの。それを物語るように、言葉だけでなく、彼女たちのテリトリーの中心となる東京・中目黒のお気に入りの店やクラブや小路、彼女たちの住まうルームとそのインテリア、音楽と色彩が溢れかえる全編、監督のこだわりと美意識で迫って来ます。
しかし、今の時代においてでさえ、女性には仕事を続けることの最大の壁がある。女性である以上、誰にもたらされても不思議はない難関は、妊娠。その出口は出産、そして結婚か。本来女性として最大の歓びであるはずの幸せな「訪れ」が、仕事を持つ女性にはリスクともなり得る事実。
働く女性にとってのハプニングは、妊娠!?
普遍的に言うと、「仕事と家庭の両立」は働く女性にとっての乗り越えるべき、生き方のターニング・ポイント。実にドラマチックな出来事なのです。
その上で、この映画のテーマは、ルーム・シェアをしているパートナーが妊娠したら……、妊娠した女性はもちろんですが、それを受けとめる側の感情や戸惑い。この衝撃に揺さぶりをかける試みです。父親は誰なんだという戸惑いや微妙な、それまでにない違和感。不協和音がもたらされそうな日常。とるべき自分のスタンスを強いられる立場からの視点で、映画が展開されていきます。
「太陽と月」のような関係の二人の女性の変化、この二人の送るべき日々はどう変わっていくのか、という問いかけに応える定点観測でもあるのが、この映画。
日常が非日常になってしまうスリリングさ、女性同士の友情のせめぎ合い、期待と不安を感じさせながら、登場人物と時間の共有を余儀なくさせてしまう、そんな面白さを持った映画です。女性だけでなく、男性にとっても目が離せない作品となることでしょう。
というのも、注目すべきはこのテーマに取り組んだのが、女性監督ではないところ。しかも、自身の体験を生かすべく、念願の映画監督作品第一弾として、『Daughters』を立案・脚本・監督を手がけ完成させ、デビューを果たしたという津田肇監督。興味津々です。
作品の中で映画を引導する役割の小春の存在は、ファッションイベントの演出家で、映像作家としてキャリアを重ねてきた、この津田肇監督のメタファーでもあるというわけなのです。