最新インタビューを通して編集部が特に注目する一人に光をあてる“今月の顔”。今回取り上げるのは、恋と友情の間で揺れる青年二人の葛藤を描いた「マティアス&マキシム」が間もなく公開されるグザヴィエ・ドラン。「トム・アット・ザ・ファーム」以来、6年ぶりに監督と主演を務めた本作への思いや30代を迎えた心境などを語ってくれました。

この映画のテーマは決して同性愛ではない。愛なんだよ。

Photos by Emily Berl/Getty Images Portrait

グザヴィエ・ドラン

子役からキャリアをスタート、19歳で手掛けた「マイ・マザー」が国際的に評価され、「マティアス&マキシム」含め8本の監督作を発表。「神のゆらぎ」や「ある少年の告白」など俳優としても活躍している。10月7日には、ナタリー・ポートマンやキット・ハリントンら豪華俳優陣が共演した「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」ブルーレイ&DVDが発売される。1989年3月20日、カナダ生まれの31歳。

19歳の時に監督・脚本・主演・製作を務めた半自伝的な「マイ・マザー」で鮮烈なデビューを飾ったグザヴィエ・ドラン。以降、一貫して“母と子”というテーマを描き、ほぼすべての監督作がカンヌやベネチアといった国際的な映画祭で高評価を受けてきた。

溢れるカリスマ性と才能と共に20代を駆け抜けてきた彼が30歳で発表した最新作「マティアス&マキシム」は、“ずっと挑戦したかった”という純粋なラブストーリー。偶然の出来事をきっかけに友情の中に芽生えた恋心に戸惑う二人の青年を描き、自身もマキシム役を演じている。

映画に登場するのは実生活の仲間たち

──まず、本作を作ろうと思った理由を教えてください。

『友人たちを撮りたかった……いや違う。友人と仕事したかったんだ。「マティアス&マキシム」は若いときに作れた映画ではないんだ。なぜなら、仲間がいるという感覚を以前は知らなかったからね。

今回、映画に登場するのは20代半ばから後半に親しくなった実生活の仲間たち。僕の場合、学校に通っていた頃はみんなと同じように仲間がいたけれど17、18歳の頃から仲間がいるという感覚はなくなった。最近また仲間ができたから映画の題材になったんだ』

──親しい友人たちとの撮影現場はいかがでしたか。

『そういう話は苦手だな。撮影現場はとても活気があって面白かったけどね。友人との撮影の良さは幸せで楽しい中で仕事できることだね。もちろんプロだから厳しく仕事に臨んだけれど、親しい友人を相手に演技したり創造するのは確かに喜びだ。特別なエピソードはなくても、とても豊かで騒がしくていいことばかりだったよ』

──驚いたのは作中の会話がどれも即興ではなく、脚本の段階で細かく描写されていた点です。あのやりとりを脚本で書くのは難しかったのでは?

『即興は好きじゃない。人工的な印象を受けるんだ。上手な人もいるけど僕は役者として即興にすごく不安を感じる。即興だとバレたらいい結果は生まれないからね。皆リアルさを求めて即興を取り入れたがるけれど、理想どおり仕上がってる成功例は少ないと思う。

即興の方が躍動感があると言う人もいるけれど、僕は磨きのかかった脚本に沿って撮ることを好む役者と念入りにリハーサルをして完成度を高めていくんだ。話し方やイントネーションはもちろん、英語やフランス語のレベルも差をつける。今回もそのように準備して撮影に臨んだことで、彼らの親密な関係を表現できたと思う』

──男性の友情について描きたいと思ったきっかけを教えてください。

画像: 映画に登場するのは実生活の仲間たち

『子供の頃に見た映画が影響してると思う。男性グループが登場するような作品に敬意を払いたかったんだ。「アウトサイダー」とか男の友情がテーマの映画さ。でも直接ヒントを得たのは僕の友人たちからだ。彼らとの友情について語りたかった。

彼らといると安心できるし、どんどん絆が強くなっていく。特に、この4年ほどで仲良くなったグループは特に影響力が大きくて僕の人生を変えてくれた』

──マティアス役にガブリエル・ダルメイダ・フレイタスを選んだ理由は?

『6年くらい友達付き合いをしていて彼に当てて役を書いた。彼の容姿が好きだし、カリスマ性があるのがいいんだ。落ち着いているし背が高くて鼻も高い。エネルギーが感じられるんだ。演技のスタイルはテンポがよく、かつ繊細だ。だからあの役にぴったりだと思ったよ』

──マティアスとマキシムは互いを大切に思っているものの、二人の間に新たな感情が生まれ、葛藤に苦しみますね。

『男性特有の曖昧さや優柔不断さには僕もずっと悩まされてきた。新しい自分を発見したいと言って僕に近寄って来る彼らを信じて世界を広げてあげようとするけれど、恥じらっているのか迷いがあるのか、周囲に秘密にする人が多い。

一方、好奇心を満たすために気軽に誘ってくる人もいる。とにかく僕の人生はそのような恋愛の連続なんだ。恋愛というより出会いの方が正しいね。マティアスとマキシムは幼なじみで、二人ともストレートという点に最初からこだわっていた。彼らは予期せぬ感情に襲われ、完全に不意をつかれるんだ。長年くすぶっていた想いというわけではない。これを機に彼らは気付くのさ。人は感情を揺さぶられてから魅力を感じるとね。

“魅力”じゃないな……“欲望”の方が正しいね。二人は1回のキスに完全に翻弄されてしまうんだ。そのことが頭から離れなくなり、友情関係にも次第に影響が出てくる。

つまり、この映画のテーマは決して同性愛ではなくて愛なんだ。その瞬間が突然やって来た時、どう反応すべきかってね。僕らは周囲から枠にはめられがちだ。ストレートかゲイかバイセクシュアルか。彼らもその枠にとらわれてしまい、変わりたいと思ってもそこにはリスクが伴う。本当に自分のことを理解しているのかどうか、アイデンティティーを追求する。自分はリベラルな人間だと思っていても、実は固定概念に縛られている場合がある。セクシュアリティーは一度選んだら変えられないってね。それが隠されたテーマでもあるんだ』

──最後に、「マイ・マザー」から10年を経て30代を迎え、いま映画監督として何を感じますか。

『変な感じだね。あっという間だったと言いたいところだけど、僕にはとても長く感じられるんだ。デビュー作でカンヌに来たのを“昨日のことのようだ”なんて考えられない。この10年を振り返ると一生懸命仕事して、旅をして、人に出会い創作した年月だった。

好評な映画ばかりじゃなかったし、いろいろな感情を味わったよ。動揺することも変化もあった。混乱したり考えこんだりする魔法の10年だった。おかげでこの先も生きていこうと思えるよ。30代はきっと違う方法で、違うリズムでね』

「マティアス&マキシム」
2020年9月25日(金)公開

画像: グザヴィエ・ドラン 監督と主演を務めた「マティアス&マキシム」へ想いを語る【今月の顔】

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:ガブリエル・ダルメいダ・フレイタス、グザヴィエ・ドラン、ハリス・ディキンソン

ドランの地元カナダ・ケベックを舞台に、自身が監督・主演・脚本・製作・衣装・編集と6役を手がけた意欲作。友人の妹に頼まれ、映画の中でキスシーンを演じることになった幼なじみの青年マティアスとマキシム。それをきっかけに互いの気持ちに気づき始めるが、マティアスには婚約者がいた。

© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

This article is a sponsored article by
''.