「ブラックパンサー」(2018)などで知られる名優チャドウィック・ボーズマン。そのあまりにも突然の訃報に世界中が衝撃を受けた。43歳の若さでこの世を去った彼のこれまでのキャリアを振り返りながら、共演者たちの温かい言葉やエピソードをご紹介する。(文・斉藤博昭/デジタル編集・スクリーン編集部)

突然の出来事ではなかった 彼の決意に胸が締め付けられる

そのニュースがとびこんできたとき、誰もが耳を、あるいは目を疑ったはずだ。2020年8月28日(現地時間)、チャドウィック・ボーズマンが突然、この世を去った。しかし、その死は突然の出来事ではなかった。チャドウィックは4年前にステージ3の大腸ガンを宣告されていたのだ。

この事実にも、世界のファンが衝撃を受けた。「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」の公開が2016年。すでにその時点で発症しており、単独主演作の「ブラックパンサー」(2018)には病を抱えて撮影に臨んだのである。しなやかでパワフル。誰もが見惚れるアクションに、どんな思いで挑んだのか。病気の事実を知らせた相手はごくわずかで、「ブラックパンサー」の共演者やスタッフに伏せての決意には、胸が締めつけられる。

黒人の歴史を変えた人物たちを〝誠実さ〞がにじむ演技で魅せた

このブラックパンサー役がチャドウィックの代表作ではあるが、彼のキャリアを振り返ると、信じられないような『役の巡り合わせ』を実感できる。

画像: 黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを演じた「42 世界を変えた男」

黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを演じた「42 世界を変えた男」

出世作となった「42 世界を変えた男」(2013)では、黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを、「ジェームス・ブラウン 最高の魂ソウルを持つ男」(2014)では、あのカリスマシンガーを、そして「マーシャル 法廷を変えた男」(2017)では黒人初のアメリカ合衆国最高裁判所の判事……と、まさにアフリカ系アメリカ人=黒人の歴史を変えたヒーローたちを次々と演じてきたのだ。これは偶然とは言えない。チャドウィックのどこか崇高なイメージによるものだろう。

画像: 「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」ではカリスマシンガーのパフォーマンスを再現

「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」ではカリスマシンガーのパフォーマンスを再現

「ブラックパンサー」でワカンダの若き国王ティ・チャラを任されたのも、その流れだ。究極のヒーロー役に対して、それぞれへの肉体的アプローチ(野球の名手、伝説のステージパフォーマンス、豹のようなアクション)を完璧にこなしながら、ジャッキー・ロビンソンや、ジェームス・ブラウンの若き時代、ブラックパンサーとそのどれもに「誠実さ」が滲み出るのも、チャドウィックの魅力だ。

肉体と精神の両方でマックスにチャレンジすることが、俳優としての使命と考えたチャドウィック。「ブラックパンサー」では「カリ、ムエタイ、合気道、空手、テコンドー、カポエイラ、セネガルのレスリングと、世界中の武術を特訓した」と、半端じゃない役者根性をインタビューで語っていた。

さらに「あなたのパワーの源は?」と聞くと、「毎朝、目が覚めると祈りの言葉を口にして、しばらく瞑想する。僕のエネルギーは神様が授けてくれるんだ」と、敬虔なクリスチャンらしい言葉が返ってきた。

共演者や仲間たちから温かい言葉やエピソードが続々と

ブラックパンサーの盟友である、マーベル・シネマティック・ユニバースの面々は、チャドウィックの訃報に衝撃を受けつつ、温かい言葉を送り続けている。

MCU作品で共演したロバート・ダウニー・ジュニア、クリス・エヴァンズと

「本当に打ちのめされている。心が痛むなんてレベルじゃない」(クリス・エヴァンス)、「ミスター・ボーズマンは人生と闘っていた間も冷静だった。これがヒロイズムだ」(ロバート・ダウニー・Jr)、「あなたを友人と呼べることを誇りに思う」(トム・ホランド)、「君が世界に与えてくれたこと。君が見せてくれた伝説とヒーローは永遠に生き続ける」(マイケル・B・ジョーダン)……など、どのコメントも涙なくしては読めない。

画像: 「ブラックパンサー」のキャスト、ライアン・クーグラー監督とともに

「ブラックパンサー」のキャスト、ライアン・クーグラー監督とともに

悲痛なのは、「ブラックパンサー」のライアン・クーグラー監督で、「誰かを失ってここまで深い悲しみを感じたことがない。僕は去年、彼のセリフを想像しながら、書いていた」と、チャドウィックの闘病を知らずに「ブラックパンサー」の続編の脚本を執筆していたことを明かした。しかもチャドウィックは、死の一週間前まで続編をやりとげる意思にあふれていたという。

その他にも、チャドウィックとホワイトハウスで会った思い出をツイートしたバラク・オバマ元アメリカ大統領や、チャドウィックに英国オックスフォード大学の夏季演劇コースの費用を払っていたデンゼル・ワシントンなど、チャドウィックが「愛された」エピソードが続々。末期ガンの少年と交わした絆も、チャドウィックの訃報とともに明らかになった。

治療しながら撮影に臨んだ最後の作品は人種差別がテーマ

ガンの過酷な化学療法と同時進行で撮影したのは、スパイク・リー監督のNetflix作品「ザ・ファイブ・ブラッズ」(2020)と、遺作となる「Ma Rainey’s Black Bottom(原題)」。後者は黒人アーティストが被る人種差別がテーマとなり、まさに今のアメリカを代弁する作品。チャドウィックが病を押して出演したのもわかる気がする。

そして「ザ・ファイブ・ブラッズ」は、ベトナム戦争の黒人部隊の隊長役で、彼だけが戦地で命を落とした設定。半世紀を経て仲間の帰還兵がその亡骸を探しにいくという、チャドウィックの死を重ねて観れば、涙が頬を伝うのは確実だ。最後の最後まで、彼はみんなが憧れるヒーローを演じ続けたのである。

スパイク・リー監督は「チャドウィックは、重要な役を演じきってくれた。ブラッズ(ベトナム帰還兵が「仲間」の意味で使う言葉)はミスター・ボーズマンに敬意を表する」と、沈痛なコメントをインスタグラムに投稿。この「ザ・ファイブ・ブラッズ」は作品の評価も非常に高く、2020年の賞レースに絡む可能性もある。ひょっとしたらチャドウィックの助演男優賞なども期待してしまうのだ。早すぎた死を迎えた名優への賛辞は止まることがない。

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Photo by Emma McIntyre/Getty Images for MTV, Alberto E. Rodriguez/Getty Images for Disney, Liliane Lathan/Getty Images for NAACP

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