最新作公開前に、前作『ブラックパンサー』、そしてチャドウィック・ボーズマンの輝きを改めて見つめ直してみましょう。(文・斉藤博昭/デジタル編集・スクリーン編集部)

北米興行収入歴代6位に輝くMCU初の黒人ヒーロー単独作

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の中で、ターニングポイントとなった作品は何か? 意見は分かれるかもしれないが『ブラックパンサー』を挙げる人は多いだろう。アフリカ系(黒人)のヒーローの単独主演作はMCUでも初めて。それだけでも歴史を作ったわけだが、完成した作品も、主人公のブラックパンサーの誕生秘話ということで「新たな物語が始まる」高揚感に包まれていた。

画像1: © 2022 MARVEL

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ブラックパンサーとなる主人公のティ・チャラは、アフリカにあるワカンダという架空の国の新国王。そのワカンダの世界観に始まり、宿敵となるキルモンガーの描き方、遠隔操作の車など最新のテクノロジーも使った戦いなど、何もかもがアクション映画としてハイレベルに興奮を誘う作りだった。

『ブラックパンサー』は、北米の興行収入では同年の、MCUヒーロー大集合の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』すら抑えて2018年公開作品のトップ。現時点で歴代6位という記録を打ち立てている(『トップガン マーヴェリック』に抜かれるまでは5位だった)。あの『タイタニック』(1997)よりも上位である。

アカデミー賞でも大きな存在感 新たなスターの未来にも熱視線

この特大ヒット以上に重要だったのは、アカデミー賞だろう。MCUはもちろん、アメコミのスーパーヒーロー映画として、『ブラックパンサー』は史上初の作品賞ノミネートを果たした。第91回アカデミー賞では7部門ノミネートで、作曲賞、美術賞、衣装デザイン賞で受賞。その後のスーパーヒーロー映画でも、ここまでアカデミー賞をにぎわせた作品は、まだ現れていない。

ここ数年、何かと「多様性」が意識されるハリウッド。監督はライアン・クーグラーで、メインキャストが黒人で占められた『ブラックパンサー』は、その象徴的な作品となった。多様性という視点で、女性キャラクターたちの活躍もヒーロー映画としては革新的だった。

そしてもうひとつ、語り継がれることになったのが、ブラックパンサー役、チャドウィック・ボーズマンである。若き国王ティ・チャラの内面などで演技力を発揮し、アクション場面では文字どおり〝パンサー〞のような、しなやかでスピーディな動きを披露。カリスマ的な存在感を見せつけ、シドニー・ポワチエ、デンゼル・ワシントンら歴代の黒人トップスター、その系譜に燦然と輝く未来を予感させた。チャドウィックはブラックパンサー役の前に、ジャッキー・ロビンソン(メジャーリーグ初の黒人選手)、ジェームス・ブラウンといったレジェンドたちも演じていたからだ。

星となった後も輝き続けるチャドウィックの功績

しかし『ブラックパンサー』公開からわずか2年半後の2020年8月、チャドウィックは43歳の若さでこの世を去ってしまう。2016年にステージ3の大腸ガンと診断されており、『ブラックパンサー』も治療を受けながら撮影に挑んだ時期もあったりと、その悲壮な闘病が世界中の映画ファンの胸を締めつけた。チャドウィックは遺作となった『マ・レイニーのブラックボトム』(2020)で第93回アカデミー賞主演男優賞にノミネート。授賞式の会場は彼への哀悼の空気に包まれた。

亡くなって2年が経った2022年も、クエイティブ・アーツ・エミー賞で、声の出演をした「ホワット・イフ…?」でボイスオーバー・パフォーマンス賞を受賞。ディズニーのレガシーに貢献した人物に授与される「ディズニー・レジェンド・アワード」を贈られるなど、チャドウィックの功績とその話題は後を絶たない。映画界の大きな損失は今も実感させられる。そのチャドウィックの代表作は間違いなく『ブラックパンサー』であり、もう二度と彼の勇姿を観られないという現実も重なり、奇跡の輝きを放つ作品となった。

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
2022年11月11日(金)公開

2022/アメリカ/ウォルト・ディズニー・ジャパン
監督:ライアン・クーグラー
出演:レティーシャ・ライト、ルピタ・ニョンゴ、ダナイ・グリラ、アンジェラ・バセット、テノッチ・ウエルタ、ウィンストン・デューク、マーティン・フリーマン、ドミニク・ソーン
©Marvel Studios 2022

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