山水画の傑作「富春山居図」に着想を得たという驚かされるショットの連続
近年、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のビー・ガン監督や、わずか 29 歳で夭逝した『象は静かに座っている』のフー・ボー監督など、中国の新世代の監督が大きな注目を集めている。それらの監督と同世代で、長編第一作でありながら、昨年のカンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品に選ばれ、世界の映画界を驚かせたのが、グー・シャオガン監督の『春江水暖~しゅんこうすいだん』だ。
杭州市、富陽。大河、富春江が流れる。しかし今、富陽地区は再開発の只中にある。顧(ぐー)家の家長である母の誕生日の祝宴の夜。老いた母のもとに4 人の兄弟や親戚たちが集う。その祝宴の最中に、母が脳卒中で倒れてしまう。
認知症が進み、介護が必要なった母。「黄金大飯店」という店を経営する長男、漁師を生業としている次男、男手ひとつでダウン症の息子を育てながら、闇社会に足を踏み入れる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。息子たちは思いもがけず、それぞれの人生に直面する…。
カンヌ当時、監督はまだ 30 歳。それまでは、たった一人でカメラを回し、ドキュメンタリーや短編を撮っていた青年が、初めてクルーを組んだ初の長編が、カンヌに選ばれただけでも驚異的だ。
しかも、その映像は、監督の故郷であり、映画の舞台である杭州の、大河・富春江が流れる富陽を描いた 14 世紀の山水画の傑作「富春山居図」にインスピレーションを得たという、これも驚かされるショットの連続。
絵巻を広げていくような横移動スクロールのロングテイクや山水画の宇宙を感じさせる超ロングショットなどを使い、大きな変化を迎える中国社会の中で精いっぱいに生きている、ある市井の大家族の四季を描くという、クラシックでありながら、きわめて革新的で野心的な作品だ。
カンヌでの上映後、ハリウッド・レポーター紙は「グー・シャオガンは中国人監督だが、台湾の監督エドワード・ヤンやホウ・シャオシェンの作品に近い。『春江水暖~しゅんこうすいだん』はヤンの『ヤンヤン 夏の想い出』やホウの『童年往事 時の流れ』の子供と言っても過言ではない」と大絶賛。
さらに、今年 1 月のフランス公開では、中国アート系映画としては異例のヒットを記録し、映画サイト allocine でもジャ・ジャンクー監督の名作『長江哀歌』に迫る高評価を獲得した。
春江水暖~しゅんこうすいだん
2020年2月11日(木・祝)Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ