“The Crossing”REVIEW
瑞々しくも危うい青春ストーリーの枠組みで世界の現実をビビッドに伝える
越境通学で中国大陸と香港を行き来している少女が主人公
1997年に中国に返還された香港。ここ数年のニュースからは、中国による香港支配の締めつけに対し多くの反発が起こるなど、何かと混乱が伝わってくるものの、とりあえず「一国二制度」は維持されている。香港と、隣接した大陸側を行き来するには今もイミグレーション(出入国審査)と税関を通過しなければならない。そのイミグレを毎日通っているのが、今作の主人公で16歳の高校生ペイ。彼女の自宅は深圳なのだが、学校は香港という、いわゆる「越境通学」だ。何事にも積極的なペイは、親友のジョーと一緒に北海道へ旅行することが夢。深圳で安く手に入れたスマホのケースを自分で加工して同級生に売るなど、学校でもお金を稼いでいたペイだが、あるとき、香港と深圳の間で最新型のiPhoneを密輸するグループと出会い、高い報酬を目当てに危険な裏の仕事に協力し始める……。
ちょっと社会派の香りも漂う、この「THE CROSSING」だが、冒頭からのノリは軽やかな青春映画。ペイとジョーが学校をサボって香港の街をうろついたり、学校の屋上で楽しそうに語り合ったりする姿を、カメラも自由な動きで追いかけていく。ジョーのボーイフレンドであるハオとともに、ボートの上でパーティーを楽しむ様子なんて、まぶしいくらいの「ザ・青春」! そのムードが、ペイが密輸に関わり始めてから、ゆっくりとシビアな方向へシフトしていく。
そもそもペイの生い立ちは複雑だ。父親は香港に家庭があり、ペイの母親は愛人。しかも父は裏稼業に手を染めているらしく、ペイもお小遣いをもらっている。母は麻雀で生計を立てており、恋愛関係も奔放。それでもペイの自宅は意外に広かったりして、香港映画でよく目にする息苦しさはゼロ。親友ジョーも香港暮らしながら、富裕層らしく豪華な邸宅に暮らしており、彼女たちの北海道旅行の夢は、16歳ながらリアルだったりもする。そんな、ある程度、恵まれた環境にいる少女が、軽い気持ちで密輸という犯罪に加担してしまう展開にハラハラしてしまうのだ。もちろん密輸の過程でトラブルも発生。そのたびに必死にピンチを乗り越えようと、香港の街を走るペイの姿は観ていて心を締めつけてくる。