ダンスシーン以外も超一流!
映画大国インドのトレンドは見せ場満載のアクション映画
華やかなダンスとロマンス、大冒険! 1995年に公開された「ムトゥ 踊るマハラジャ」で、我が国でも火がついたインド映画のエンターテインメント世界。
その後も「きっと、うまくいく」(2009)などの人気作を生み、最近は弁当の誤配送が結んだ主婦と中年男性の親愛を描く「めぐり逢わせのお弁当」(2013)や、ラップ・ミュージックに夢をかけるスラム街暮らしの青年を主人公にした「ガリーボーイ」(2019)など裾野も大きく広がった。
人気男優サルマン・カーン主演の「プレーム兄貴、王になる」(2015)のような王道のエンタメ作品も健在だ。
インド映画がボリウッド映画と呼ばれるのは、映画製作の中心地ムンバイの旧称ボンベイの頭文字をハリウッドに引っ掛けたもの。公用語のヒンディー語が使用され、インドは多言語国家なのでほかにタミル語圏、テルグ語圏などでそれぞれ映画製作が行われシノギを削っている。
テルグ語で製作された「バーフバリ 伝説誕生」(2015)と「バーフバリ 王の凱旋」(2017)、N・T・R・ジュニア主演の「バードシャー テルグの皇帝」(2013)。「きっと、うまくいく」(2009)のアミール・カーンが神出鬼没の快盗を演じるヒンディー語の「チェイス!」など、近年人気を集めているのが怒涛の見せ場を売り物にしたアクション映画だ。
その決定版といえるのが「バーフバリ」のブラバース主演のクライム・アクション「サーホー」(2019)を抑えて2019年のボリウッド映画興収第一位を記録した大快作「WAR ウォー!!」(2019) 。全篇が山場といってもいいスパイ・アクションで、敵と味方がめまぐるしく変わるミステリー要素もある。一度乗ったら止まらない、ゴールがどこかも分からないジェットコースター・ムービーなのだ。
リティク・ローシャン(カビール役)※画像右
俳優兼監督を務める父の作品で2000年に正式デビュー。エキゾチックかつ端正な顔立ちで2018年には海外のオンラインサイトが選ぶ“世界で最もハンサムな男性”の6位にランクインした。1974年1月10日生まれ。
タイガー・シュロフ(ハーリド役)※画像左
名優ジャッキー・シュロフを父に持つ新世代アクション俳優。「フライング・ジャット」(2016 日本はDVD公開)などで見せたキレキレのアクションとダンスを武器に躍進中。次作はアーナンド監督と組んだ「Rambo」(原題)。1990年3月2日生まれ。
主演は「家族の四季 愛すれど遠く離れて」(2001年製作)「クリッシュ」(2013)のリティク・ローシャンと、「タイガー・バレット」(2018)「フライング・ジャット」(2016)のタイガー・シュロフ。
ニューデリーでイスラム系テロリストを狙撃しようとしていた諜報組織RAWの腕利き工作員カビール(ローシャン)が、突然上司を射殺して行方をくらませてしまう。彼を追い、事件の背後にあるものを調べるよう命じられた新人諜報員のハーリド(シュロフ)。
カビールはハーリドの教官であり、かつてイラクのIS支配地区に潜入して掃討作戦を行ったこともあった。元上官の考えることはすべて予想できると語るハーリドに、周囲はいざとなると情に流されるのではないかと懸念する。舞台は全世界! 追いつ追われつの師弟に対決のときが迫るのだ。
いくつ見つけられるかな?名作オマージュが満載の怒涛のアクション・シーン
山盛りのアクションシーンはどれも見ものだが、まずは地中海に浮かぶマルタ島のホテルでくり広げられるタイガー・シュロフの格闘場面に注目!
窓から麻薬密売の現場に飛び込んだシュロフは、7人の相手をなぎ倒す。テーブルや椅子、シャンデリアを利用した戦いは、往年のジャッキー・チェン映画をよりリアルにしたよう。
しかもこの3分ほどの乱打戦がごまかしようのないワンカット撮影なのだ。これはけっこうとんでもない演出。シュロフの見せ場をもうひとつあげるなら、モロッコのマラケシュを舞台に、裏切った仲間を追跡する場面もスゴい。家々の屋根を跳びながら走るアクロバチックなアクション。
リュック・ベッソンが「YAMAKASHIヤマカシ」(2001)で導入し、その後「アルティメット」(2004)やマット・デイモンの「ボーン・アルティメイタム」(2007)にも登場したフランス生まれの曲芸アクション、パルクールを活用した場面だ。
一方の教官カビール=リティク・ローシャンにも多くの見せ場が用意されている。雪山上空を飛行する軍用輸送機に近づく小型のセスナ機。そこから飛び降りたローシャンは輸送機にへばりつき侵入を試みる。
これ、「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011)で超高層ビルに張り付き、「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(2015)で飛行機の横っ腹にしがみついたトムクル・アクションの合わせ技だよ!
VFXも利用されているが、ボリウッド映画にはハリウッドで経験を積んだスタッフが多いので迫力満点(「WAR ウォー!!」のエフェクツ監修ヴィシャール・アナンドは「シン・シティ 復讐の女神」(2014)などに参加している)。加えてローシャンには、美女ダンサーのナイナ(新人のヴァーニー・カプール)とのロマンス場面も用意されているのだ。その緑色の瞳にやられてしまう女子も多いんじゃないかな。
クライマックスには「ワイルド・スピード ICE BREAK」(2017)風の氷上アクションが用意されているし、ポルトガルはリスボンの狭い路地を縫いながらのバイク・チェイスも登場する。因縁ある男たちの激突は、絶頂時のジョン・ウー作品のよう。二丁拳銃乱れ撃ちまで飛び出すし。
面白いものを全部詰めこんでやろう! というバイタリティーはボリウッド映画ならではだ。監督のシッダールト・アーナンドはタイガー・シュロフと組んで「ランボー」のインド版リメイクを進めている。以前からあった企画だけれど、スタローンの承諾も得ているので、今度こそ実現しそう。「WAR ウォー!!」の大アクションに拍手をしながら、その完成を待とう。