ヴィジュアリストとして活躍を続ける映像のクリエイター、手塚眞監督。こだわりの本格的劇場用映画の新作の登場です。父である手塚治虫の伝説的禁断の作品と言われる『ばるぼら』を映画化。これはもう、注目しないわけにはいきません。多くの作品の中でも、異色の問題作として1973年から連載をスタートさせ、手塚治虫史上、エロチックでタブーな世界の新境地を見せつけた『ばるぼら』。生誕90周年とあいまって、手塚眞監督の手により、観る者を幻惑へと誘う。『ばるぼら』再評価の時を呼び覚ます、その映画作品制作への想いを、監督にリモート・インタビューで伺いました。(カバー写真撮影 田口まき/MAKI TAGUCHI)

手塚治虫の多面的才能が溢れた名作

──それにしても今さらながら思うのは、手塚治虫氏という方は、『鉄腕アトム』や『リボンの騎士』のような少年少女向けの漫画家でありながら、『ばるぼら』や『奇子』のような大人向けの作品、戦争を描いた作品もありますし、実に多様なジャンルを漫画で描き、多重多面的な才能の持ち主であり、そういう意味からも唯一無二の漫画作家ですね。

「『ばるぼら』の主人公の美倉という小説家は、売れる作家になるのか、芸術性を極めて行くのかのはざまに悩んでいます。

私の父の場合は、常に理性的な作品を描き続けていく中、そこから少し離れてみたい、誰にも理解されなくたって良いから、そんな世界を描いてみたいという気持ちもあったと思います。それで生まれたのが今回の『ばるぼら』のような作品です。それでも、魔術的、オカルト的な要素を扱っているものの、どこかでやはり理性的なものを描いてもいる。そういう、父の多面性がこの作品に見てとれます」

──そういうことなんですね。

「そして、子供向け、大人向けとか考えないで描いていたようなところもある。最初に注文が来たのが子供向けの雑誌であったので、そのまま描いていると、そのジャンルの漫画家だと思われていく。だから、子供向け漫画しか描けないと思われるのが悔しかったと思いますね」

美と品格を損なわないためのC・ドイルの起用

──理性的でありながら、激しいものを持っていらした方なんですね。

そして、今回の映画の撮影監督には、クリストファー・ドイルさんを起用していらっしゃいます。手塚監督とドイルさんが組むことで、どのような効果が生まれましたか?ばるぼらが徘徊する、雨の新宿の街並みのシーンの美しさは胸に迫りました。

画像: 美と品格を損なわないためのC・ドイルの起用

「手塚治虫作品の品位を落とさないように、美しく撮ってくれる撮影監督が必要で、ドイルさんしかいないと思いました。私も美意識を大切にして映画を作って来ましたので、この二人で撮ったので、美し過ぎるほど美しく出来上がってしまった(笑)。

あの新宿の街なども大満足です。どんなに薄汚れていたとしても、何でも絵になってしまうんですよ、ドイルさんが撮ると。

私の想いに忠実に応えてくれようとしますが、そこにもアドリブがあって良いと思い自由に考えて撮ってもらいました。そして、思う以上のものが生まれて行ったのです」

──そんなドイルさんの作品では、どれがお好きですか?

「『恋する惑星』(1994)や『天使の涙』(1995)も好きですが、やはり一番は『花様年華』(2000)でしょうか。彼の作品をたくさん観ていることで、イメージも広がりました。新宿のシーンは、その日はもう、二階堂さんをお貸しするから、好きなところに行って自由に撮って構わないという感じで撮ってもらった結果、ああなったんです。彼は、好きなようにと言われると、結構、遠慮されるところもあり、私も少しは演出もしましたが」

アーティスティックな映画へのリスペクト

──雨の日を狙って?

「あれもアドリブです。雨が降り出して来たので撮影はやめて解散しようとしたところ、その雨を効果的に活かして撮ってしまったりする。あのシーンがあんなに良く撮れていたので、当初の考えより長く使いました」

──さすがのセンスですね。お二人の美的感覚も一致していて。そんな手塚監督がリスペクトする映画監督というとどなたでしょうか?

「たくさんい過ぎて……。学生時代にはヨーロッパの監督たちの作品に注目していました。フェデリコ・フェリーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、ジャン=リュック・ゴダールの作品を観ては、そのアーティスティックさを皆がリスペクトしていましたよね。良い時代だったと思います。

近年はアーティスティックな映画は、変わった映画だとか理解できないとか言われ冷ややかな反応が少なくなく、リスペクトされないようになってきています。だからこそ、もっともっと、アーティスティックな作品を作っていかなくてはとさえ思っています」

画像: アーティスティックな映画へのリスペクト

そのとおり、手塚眞監督にこそ、そういう作品を手がけていただきたいと強く、そう思います。この『ばるぼら』を、ご自身ではなく誰か他の監督に作ってもらうとしたら誰が良いでしょう?と尋ねてみたら、少し考えてから、「デビッド・リンチ監督かな」、と。

やはり、リスペクトすべき良い監督の、良い作品をたくさん観てこられたからこそ、そんなイメージを描けるのでしょう。

手塚治虫への愛が生み出した映画が『ばるぼら』

しかし、どうしても筆者には、父上が、誰よりもご子息の手によって、この作品が映画化されたことを、どんなにか喜んでいるに違いないと思えてなりません。

今後、生誕100周年を迎える時には、きっとまた多くの手塚治虫作品から厳選して、監督ご自身の手で映画化を果たされるに違いないと期待も膨らみます。

「その時は、大人も子供も多くの人が満足する様な作品でなくてはならないでしょう」と、改めて監督は言います。

とまれ、「『ばるぼら』はデカダ二ズムと狂気にはさまれた男の物語である。」

という言葉を残した手塚治虫。

その男を映像で描くことが、手塚眞監督の父上への厚いリスペクトと愛であることは間違いないでしょう。

画像: 2020年11月20日(金)「ばるぼら」本予告 youtu.be

2020年11月20日(金)「ばるぼら」本予告

youtu.be

『ばるぼら』
2020年11月20日(金)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開

監督・編集/手塚眞 
出演/稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河、美波、大谷亮介、片山萌美、ISSAY、渡辺えりほか
撮影監督/クリストファー・ドイル / 蔡高比
原作/手塚治虫
脚本/黒沢久子
プロデュース/古賀俊輔
プロデューサー/アダム・トレル、姫田伸也
共同プロデューサー/湊谷恭史、ステファン・ホール、アントワネット・コエステル
配給/イオンエンターテイメント
宣伝/フリーストーン
2019年/日本・ドイツ・イギリス/100分/カラー/アメリカン・ビスタ/5.1ch/R15+
公式HP: https://barbara-themovie.com

© 2019『ばるぼら』製作委員会

前回の連載はこちら

This article is a sponsored article by
''.