本作で重要な役柄を演じた佐藤浩市×石田ゆり子×西島秀俊の豪華インタビューをお届けする。
原作は『アンフェア』シリーズなどを生み出した秦建日子が、世界的なXmasの名曲「Happy Xmas(WarIs Over)」にインスパイアされて書いた小説「サイレント・トーキョー And so this isXmas」(河出文庫刊)。実写映画化するにあたり、栃木県足利市に3億円ほどかけて渋谷のスクランブル交差点のオープンセットを完全再現し、そこにエキストラ総勢1万人が集められ撮影が行われた。
本作で重要な役柄を演じた佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊が撮影秘話やそれぞれの役に対する思い、更にオススメの映画やドラマなどを語ってくれた。
本質的なことを提示するのを避けながら
“匂い”だけで伝えることの難しさ
ーー皆さんそれぞれ重要な役を演じてらっしゃいますが、どんな思いで挑まれたのかお聞かせ頂けますか。
佐藤浩市(以下、佐藤)「僕が演じた朝比奈という役は、設定が原作とかなり違うのですが、石田さん演じる山口アイコという女性と朝比奈との関係性がとても大きなポイントになってくるなと、台本を読んでいてそんな風に感じました。この2人を観客がどう観るか、どう感じ取って頂けるかというところを凄く大事にしながら撮影に挑んでいたように思います」
石田ゆり子(以下、石田)「アイコという女性は物語のあるときまで表に出す表情や感情が曖昧なことが多いので、凄く難しい役に感じました。だからこそ観てくださる方がそれぞれ様々な捉え方をしてくださったらいいなと思いながら演じていましたし、本作は群像劇でもあるので、自分が関わるパートをしっかりやらなければという思いで挑みました」
西島秀俊(以下、西島)「僕が演じた世田という刑事は、過去にその後の人生がめちゃくちゃになるほどの恐怖体験をしていて、おそらくですが、爆破テロの事件が起こるまでは刑事という仕事にそこまで情熱を持てずにいたのではないかと。劇中ではそこは描かれていませんが、テロ事件が人々を恐怖に陥れたことで、犯人を捕まえるというよりは、自分と同じような恐ろしい体験を誰にもして欲しくないという動機で動いているんだと、そんな風に台本を読んで感じました。なので、そこをしっかり表現できるようにという思いで役に挑んでいました」
ーー渋谷の爆破シーンはとてもリアルで恐ろしかったのですが、足利市にオープンセットを作って撮影されたそうですね。
西島「実際に足利のセットでの撮影を経験したのですが、完成作を観ていたらあまりにもリアルな映像だったので“あれ? 本当は渋谷で撮影したんだっけ?”と少し頭が混乱したのを覚えています。CGチームの技術力が高いのはもちろんですが、それと同時に渋谷のスクランブル交差点の景色が自分の脳裏にしっかり焼き付いていることも実感したというか。もちろんオープンセットの現場でも“ここに渋谷のあの看板があるんだな”と容易に想像することができましたし、あの場にいた全員が渋谷の風景を頭の中で共有できていたと思います。それでもやはり完成した本作を観たら、よりリアルな渋谷が映っていたので驚きました」
ーーお三方、そして中村倫也さんが揃うレストランのシーンはとても緊迫感がありましたが、この時の撮影で印象に残っていることをそれぞれお聞かせ頂けますか。
石田「4人が揃うのはあのシーンしかないので、皆さんにお会いするのを楽しみに現場に行ったのですが、着いてまず目に飛び込んできたのが監督とミーティングをされている浩市さんの姿でした。お2人が真剣にお話されているのを見て気が引き締まったといいますか、改めて“今日はあのシーンを撮るんだ”と我に返ったのを覚えています。ただ、撮影があっという間に終わってしまったので、もっと皆さんと一緒にお芝居がしたかったなと正直思いました」
佐藤「あのシーンはいわばクライマックス的な場面と言えますが、本質的なことを提示するのを避けながら、いかに“匂い”だけで伝えるかということを考えなければいけないシーンでもありました。何故かというと“犯人はこの人で、何々が起きて”といった全貌が明確に明かされるわけではないので、なんとなく“ちょっとおかしいぞ”と観客に感じてもらわなければいけないからです。その伝え方の難しさはありましたね。そのために“言葉の微妙なニュアンス”について監督と相談して、なるべくその“匂い”が出せるように考えながらシーンを作っていくようにしました」
西島「浩市さんが監督と台詞の微妙なニュアンスについて打ち合わせされていたのは強く印象に残っています。綿密な打ち合わせが終わると撮影がスタートして、そのあとはもの凄いスピードで次々と進んでいきました。波多野組はとても優秀なチームなので何事もスムーズで。ただ、あのシーンは登場人物全員が感情の内側を表したりするので、次のカットの撮影に移るたびに“もう次にいくのか”と焦りを感じることも正直ありました。でも、もしも朝まで撮影が続いていたらお芝居での新鮮なリアクションが減り、全く別のシーンになっていたかもしれません。そう思うとあの撮影のスピード感に俳優は助けられたことが沢山あったのではないかと。そんな風に感じました」
佐藤「最初はあのシーンの撮影はお天道様との競争になるかなと言っていたのが、24時前には終わってたもんね」
西島「そうですね」
佐藤「あのスピード感は僕ら俳優にとって凄くありがたかったです」
ーー完成をご覧になった感想もお聞かせ頂けますか。
佐藤「原作を読むと99分の映画にまとめたことに驚きますが、スピード感のある展開であっても登場人物たちが誰一人埋没することなくしっかりと描かれているので凄く見応えがありました。渋谷の爆破シーンも含めて“ここまでやったか!”という驚きを映画から強烈に感じたのは久々だったように思います」
石田「想像力に頼るところが大きい作品で、尚かつアイコのパート以外のシーンは台本でしか知らなかったので、完成を観て初めて“こういう映画だったんだな”と思いました。やはり想像と実際に完成を観るのとでは全く違って、初めてわかることも多かったというか。例えばCGなど最先端の技術を駆使して撮ったシーンを観た瞬間に“凄いことになっているな”と感じたので、原作を読まれた方もきっと私と同じように驚いてくださるのではないかなと思いますし、大きな事件が起こる裏で心理的なサスペンスも展開されていくので、そこも楽しんでくださったらいいなと思います」
西島「観客の皆さんは、おそらく世田と同じ目線で事件を追いかけ、その裏にあるものもまた世田と一緒に探っていくと思うのですが、そんな世田を演じた僕でさえも完成を観て改めて“こういうことだったのか”と驚くことが沢山ありました。きっと劇場で鑑賞される方は想像以上の衝撃を受けるのではないかなと思います」
ーー今年はCOVID-19で世界中が大変な状況になりましたが、本作が今年公開されることに関して皆さんはどのようなことを感じてらっしゃいますか?
佐藤「昨年の暮れに本作の撮影をしたのですが、当然このような状況になるとは誰も思ってもいませんでした。ですから撮影時に想定していた“どんな風に受け止められるのか”が全く変わってしまったのが事実で。例えば爆破テロのシーンでは爆破予告があっても平気で渋谷を闊歩する若者たちの姿が映りますよね。だけどそれを揶揄しているわけでは決してないんです。それでもこちらの意図とは関係なく、自然とコロナ禍の人たちの姿と重ねて観る人もいるかもしれません。そういった意味でも観客がどんな風に受け止めるのか、この映画がどういう足跡を残すのかということに非常に興味があるので、公開後の感想を多く頂けたらなと思っています」
石田「私は毎朝愛犬と散歩をするのですが、自粛期間中は車が一台も走ってなくてさすがにちょっと怖かったんですね。その時に“これはまさに「サイレント・トーキョー」だなと思ったのと、人間が好き勝手にやってきたことに地球が怒っているのかもしれないと、そんな風に感じたりもしました。大変なことが続いている中で本作が公開されるというのは、想像できなかった何かが乗っかっているような気もしていて。きっと観客の皆さんはそれぞれ違う見方をされるのではないかなと思います」
西島「コロナ禍になる前は、当たり前の日常がずっと続いていくと誰もが信じて生きていたと思います。だけどその当たり前が突然失われてしまうんだということが本作では描かれていて、更に恐ろしい体験をした人達のその後も描かれています。だからこそ、僕も浩市さんと同じように観てくださった方の色んな感想をお聞きしてみたいですし、どう感じてくださったか、公開後は観た人それぞれの受け止め方を知ることができたらいいなと思っています」