本作にインスピレーションを受けたクェンティン・タランティーノ監督
19 世紀半ばのルイジアナ州を舞台に、“奴隷牧場”を経営する父子の栄光と没落を描いた壮大な歴史スペクタクル『マンディンゴ』。
原作はベストセラーになったカイル・オンストットの同名小説。監督は『ミクロの決死圏』『銃殺魔』の鬼才リチャード・フライシャー。製作は『道』『キングコング』で知られるイタリア人の大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティス、音楽は『アラビアのロレンス』のモーリス・ジャールという盤石の布陣で映画化され、公開されるや否や世界中でヒットを記録した。
しかしあからさまな人種差別的な設定、偏見を助長する屈辱的な内容、吐き気を催すようなおぞましい描写などから「最悪の映画」と酷評されてしまう。
その後クェンティン・タランティーノ監督が本作にインスピレーションを受けた『ジャンゴ 繋がれざる者』を手掛けるなどして一部で話題になるものの、長らくアメリカ映画史からほぼ抹消された形になっていた。
映画評論家・山田宏一氏のコメントは以下の通り。
リチャード・フライシャー。
どんな映画も柔軟に見事に面白く撮ってみせる、ハリウッドではプロフェッショナルとよばれた職人監督の一人だ。
SFスペクタクル映画(『海底二万哩』『ミクロの決死圏』『ソイレント・グリーン』、ウォルト・ディズニー製作の『海底二万哩』と同じように子供向け、家族向けのファンタジー『ドリトル先生不思議な旅』などもふくめて)を撮ってよし、西部劇(『叛逆者の群れ』)を撮ってよし、犯罪映画(『恐怖の土曜日』『絞殺魔』)を撮ってよし、古代史劇(『バラバ』)を撮ってよし、海賊映画(『ヴァイキング』)を撮ってよし。
そして、アメリカ南部の黒人奴隷農場を描いた『マンディンゴ』——『風と共に去りぬ』の闇の裏面史を描いてアメリカ中を震撼させ、大ヒットしたものの、アメリカの恥さらしとみなされてマスコミに黙殺され、映画史から消されつつあったところを、「アメリカを知る」映画評論家・町山智浩氏によれば、「これはすげえ...映画だ!」とクエンティン・タランティーノ監督の一声が刺激になって、じわじわと再評価の気運が高まったという呪われた「黒歴史」の名作。
こんなことがあっていいのか。
愛と憎しみが交錯するサスペンスにみちた力強くすさまじい、怒りのヒューマニズム映画だ。
―――山田宏一(映画評論家)
マンディンゴ
2021年3月12日(金)公開
配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム