‟ストーリーを作って絵コンテが完成したら出来たもの”
――『JUNK HEAD』を作ったきっかけは何ですか?
「この作品は、自分の仕事環境などが利用できるストーリーができないかと思い設定しました。物語の舞台になる地下世界も、本職で使用するような材料を使いまわせるという点に注目しました。また、人形たちの目で表現するのがコマ撮りだと難しいので、合理的に目がなくても映えるフィキュアを考えました。世界観的には若い頃に観た『不思議惑星キン・ザ・ザ』影響されてます。シュールコメディという感じの作風が好きなんですよ(笑)」
――制作にあたって、まず何から作られるんですか?
「まず、ストーリーですね。自分の中にイメージが何らかあるのですが、僕はあまり文章力があまりないので、最初にあらすじを決めたらすぐに絵コンテを描きはじめます。なので、脚本がないっていう(笑)」
――1人ならではの作り方ですね!
「1人で制作するので、できるだけどんどん無駄を省いて作っています」
――それでも制作に7年!
「2009年に30分版の短編を最初に作ったのですが、それの評判が良かったので、クラウドファンディングで出資が集まり、おかげで、70分くらいの追加ストーリーを作ることができました。長編は合わせて7年ぐらいかかりましたね」
――その間、本業もありましたよね?
「内装の仕事を自営でやっていて、その仕事を月に1週間から10日間程度に抑えて、仕事以外のすべての時間は制作に当てていました」
――内装のお仕事は、セット作りなどにも役立っているのでは?
「そうですね。そういうお仕事でもありましたし。もともとは絵を描くのが好きで、芸術家を目指していました。その影響で、内装やアートワーク専門の仕事をしていて独立したんですよね。かつては、テーマパーク等の壁画を描いたりしていたので、古めかしい変わった塗装は得意でした! 実務で制作した時と同じような作業を撮影でもしています。現実で培った仕事を1/6の世界に移すことはスムーズでした」
――お仕事をやりながら両立って大変だったんじゃないですか?
「効率を考えて、手間が減る作業を心掛けていました。イメージが固まると単純作業になるので、似たような工程はまとめて一気に取り掛かるとか。(一つの短編に)トータルで4年って、長い作業だと思いますが、その中でもスケジュールは常に気を付けていましたね」
――壁にぶち当たったことはありますか?
「基本的にはストーリーを作って絵コンテが完成したら出来たものだと思っているので、それほど苦に感じることはありませんでした。あとは自分の頭の中の映像を具現化するだけなので。ただ、一方で、創作って自分にとっては妥協でしかなく、どこまでそぎ落としていけるかという単純作業になっていました」
――やりくり上手でないとできないことだと思います。
「自営業もやっていたので、利益を出すことを考えていました。芸術家のような感覚だと、いつまで経ってもキリがなくなってしまうと思ったのです。なので、経営的な感覚が大事だったのかなと思います」
クラウドファンディングでデル・トロ監督からまさかの出資!
――おひとりで作業することが多かったと思いますが、声の出演までも(笑)!
「そうですね(笑)。さすがに全キャラクターとまではいかず、友人にも参加してもらいましたが。僕は音楽の経験もしたことがなかったのですが、頭の中に音のイメージだけはあったので、可能な限りは自分がスタッフになり制作しました」
――気になっていたんですが、キャラクターたちは何語がベースで喋っているのですか?
「何語にも聞こえないようなスタンスで作ってはいたのですが。実は、誰もが知っている某人気キャラの名前を連呼しているだけのセリフとかもあるんですよ(笑)。内容に即した意味に聞こえるように調整には務めました」
――『JUNK HEAD』のようなディストピアになったら? 監督はどのキャラクターにいちばん近いですか?
「やっぱり主人公かな……? というのも、基本的には彼は一般人なんですよ。普通の人でも、頑張れば何かできるという部分を物語を通して打ち出したいなと思っていました。絵とかデザインから入っていくタイプなのですが、制作していく中で、そういう感情移入は作り手にもありますね」
――ようやくできた30分版を完成した時の感想は?
「最初はアップリンクさんで、1日場所をレンタルして上映しました。その前に動画サイトに完成した作品をアップしていたのですが、それを観てくださった方々が話題にしてくださって。公開当日、アップリンクの前の人だかりを見て「何だ、これ!? 自分か!?」と(笑)。立ち見の方も多くいらっしゃって、本当に嬉しかったです!」
――海外からは、ギレルモ・デル・トロ監督からも評価されましたね。
「一度、『JUNK HEAD』にも登場する‟3バカ兄弟”という人気キャラクターを主役にした作品を作るにあたり、クラウドファンディングを募ったことがありまして。その際に、デル・トロ監督からまさかの出資があり、本当に光栄でしたね。その後、『シェイプ・オブ・ウォーター』で監督が来日している時に、たまたま映画を僕が観に行ったんです。そしたら監督から「堀さんいますか?」って(笑)! 嬉しさと緊張で、その時、映画の内容はまったく覚えてないです(笑)!」
――ちなみに、次回作の予定は……?
「がっつり計画してます! もともと『JUNK HEAD』は3部作にしたかったので、絵コンテまではできています。あとは資金次第ですぐにでも制作に入れます。他にも、あらすじが出来ている実写映画だったり、ものすごく面白い原作本も見つけたので、そちらもやってみたいです。ただ、次回からはもっと、人手を使いたいですねー(笑)。何年もかけてられないので、早く作らないと! 同時進行で2~3年のうちには何かを発表できたらいいなと思っています」
堀貴秀
1971年生まれ、大分県出身。2000年、アートワーク専門の仕事で独立。2009年12月に短編『JUNK HEAD1』を自主製作として制作開始し、2013年、完成した『JUNK HEAD』をアップリンクにて1日だけ自主上映会を行う。2014年クレルモンフェラン国際映画祭にてアニメーション賞受賞。ゆうばりファンタスティック映画祭にて短編部門グランプリ受賞。2015年、株式会社やみけん設立。長編『JUNK HEAD』制作開始。2017年、完成した本作は海外の国際映画祭で入賞入選多数。
STORY
環境破壊が止まらず、もはや地上は住めないほど汚染された。人類は地下開発を目指し、その労働力として人工生命体‟マリガン”を創造する。ところが、自我に目覚めたマリガンが人類に反乱、地下を乗っ取ってしまう。それから1600年、遺伝子操作により永遠といえる命を得た人類は、その代償として生殖能力を失った。そんな人類に新種のウイルスが襲い掛かり、人口の30%が減少する。絶滅の危機に瀕した人類は、独自に進化していたマリガンの調査を開始。政府が募集した地価調査員に、生徒が激減したダンス講師の‟主人公”が名乗りを上げる。
『JUNK HEAD』
アップリンク渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺にて3月26日(金)より公開
監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽/堀貴秀
音楽/近藤芳樹
配給/ギャガ
(C)2021 MAGNET/YAMIKEN