プロレスのなかでも、凶器アリ、反則ナシの特殊ルールで行われる究極の試合形式 “デスマッチ”。そのデスマッチ界で「カリスマ」と称されるプロレスラー葛西純。2019年のクリスマス、長年のダメージが蓄積された葛西は、この日の試合を持って長期欠場を余儀なくされる。復帰に向けてトレーニングを続ける葛西の姿と、デスマッチと共に歩んできた過去の軌跡を追ったドキュメンタリーが公開される。5月28日に公開される本ドキュメンタリーに出演をした理由や、デスマッチという過酷な世界に居続ける理由など、本音の部分を改めてインタビューで伺った。

家に帰るまでが デスマッチ

画像: 家に帰るまでが デスマッチ

――今回、ご自身のお話が映画になると聞いた時の感想を教えてください。

ドキュメンタリー映画を作りたいとのお話を頂いた時、実は、やんわりと断ったんですよ。

――1度、断ってるんですね!?

はい。俺、ビッグダディみたいなことはできないよと(笑)。

――そっちですか(笑)。

家の中にカメラがズケズケと入ってきて、「今から夫婦ケンカ始めてください」とか言われても、俺はうまいことできないと。そうしたら、いやそうじゃないと。デスマッチで血を流して、リング上で戦っている葛西純を追いながらも、リングを降りた葛西純も追いたいと言われまして、そういうドキュメンタリーだったら、ぜひぜひとなりました。

――演者としてリングに立っていますが、自分の裏側を見せることに抵抗はなかったんですか?

まるっきりなかったですね。むしろ見てほしかった。

――どういう部分を?

リングの上で血を流して、気の触れた人にしか見えてない自分でも、リングを降りたら、普通の人と何も変わりませんよと。昔のレスラーだったら違ったと思うんですよね。リング上でもリングを降りても超人であれという考えで。でも、自分はそういうのではないので。スーパーマンであるのはリング上だけでいいと思っています。

――映画を観ていても、普通のいいお父さんだとよく分かりました。

いや、わかんないですよ(笑)。妻がここにいたら、「何もわかってませんね!」と注意されるところですよ(笑)。

画像: ――映画を観ていても、普通のいいお父さんだとよく分かりました。

――葛西さんって、エンターテイナーとして映画作品に影響を受けていたりしませんか?

基本的に昔からホラー映画が好きなんで。僕の写真を見てもらっても分かるように、試合中の右目のメイクは『時計仕掛けのオレンジ』のアレックスをオマージュしてます。

――試合中でのパフォーマンスでも何かありますか?

僕はデスマッチという血だらけになる試合形式をやっているんですが、血だらけになって痛がるのは誰でもできることじゃないですか? 実際に痛いですし(笑)。ただ痛がっているだけじゃつまんない。どんなことをしたらインパクトがあるのか考えた時に思い出したんですよ。昔、何の映画か忘れちゃったんですが、ホラー映画で、血だらけの人間がニカって笑ったシーンが浮かんだんです。それで、試合中、すごく痛いのを我慢してニカって笑ってみたら、お客さんがザワついて。その試合の中でインパクトを残せたんです。そういう意味で、昔から好きなホラー映画をヒントに表情とかに取り入れたりしていますね。

――ちなみに、いちばん好きな映画は何でしょう?

もちろん、『時計じかけのオレンジ』は好きですし、ジャック・ニコルソンが出ている『シャイニング』は世界観が好きですね。世界観が。あと、一番最初の『ゾンビ』はずっと好きです。

――プロレスの中でデスマッチを選んだのって、趣味趣向が入っているのですか?

それが、最初はまるっきり入ってないのですよ。子どもの頃からプロレスが好きで、うちの親父とテレビでプロレスを見ていたんです。小学校1年生の時ですかね、親父がテレビを観ながら‟今の技は当たってない“とか”今のは痛くない“とか、いちいち言うタイプの嫌なプロレスファンだったんですよ。自分がプロレスを始めようと思った時、自分の親父にそういうことを言わせないような‟誰が見たって痛いだろう”と分かるプロレスをやりたくてデスマッチを選んだんです。

画像: ――プロレスの中でデスマッチを選んだのって、趣味趣向が入っているのですか?

――葛西選手の息子さんもプロレスファンだそうですね。どんな親子関係ですか?

友達感覚で接してますね。今、17歳なんですけど、大学目指して予備校で勉強ばっかりしています。夜10時頃、予備校から帰ってきたら格闘技専門のCSチャンネルを一緒に観ながら、二人で‟この選手はしょっぱい、あの選手はしょっぱい”だの言ってます(笑)。

――葛西さんも十分、嫌なお父さんじゃないですか(笑)!

プロレス自体を否定しているわけではないので、悪口はいいんです(笑)! また、自分も家で酒を飲んでいい気分になってきた頃に、今度は息子がYouTubeで探した「技を失敗したプロレス名場面集」みたいな動画を見せてくれるんで、それでまた盛り上がってますね(笑)。

――楽しそうですね。息子さんはデスマッチの試合も見られます?

息子が生まれた時から、血みどろになってデスマッチしているので、息子の中ではお父さんというのは血だらけになってリング上で戦って、家に帰って酒飲みながらプロレス見て笑っているのが父親。彼の中ではスーツを着て電車にのって会社に行くお父さんが異質なんだと思います。

画像: ――楽しそうですね。息子さんはデスマッチの試合も見られます?

――なんでそこまで命をかけてまで、体を痛めてまでデスマッチを続けるのですか?

いちばん最初にデスマッチを始めたのが、親父に文句を言わせないための手段でしかなかったんです。それがデスマッチを続けていくうちに、人に褒められたことのなかった自分が、初めてお客さんに褒められて、必要とされているという気持ちが芽生えたんですよ。そうして、デスマッチが好きになって。だからデスマッチ愛しかないですね、やる続ける意味は

――葛西さんが映画のなかで言う、生きてる実感って何なんでしょう?

デスマッチをやると、試合の何週間も前から緊張するし怖いんですよ。次の試合で大けがしたらどうしようとか、まかり間違えて変な落ち方をして死んじゃったらどうしようとか。色々考えますよ。そういう恐怖に打ち勝ってリングに上がり、死んでしまうかもしれない状況の中で戦う。勝つにしても負けるにしても、試合が終われば自分の足でリングを降りて控室に戻り、自分の運転する車で家へ帰ると。そこで『生きて帰ってきた』って思えるんです。だからリングにいる時、痛くて辛くても、生きてるという実感を得られるんですよ。

――もし息子さんがデスマッチレスラーになりたいと言ったらどうします?

応援します。ただ、俺を超えてみろよと。超えさせないけどな(笑)!

PROFILE

画像: デスマッチのカリスマに密着したドキュメンタリー映画『狂猿』/葛西純の本音をインタビュー

葛西純
1974年9 月9日生まれ、北海道出身。プロレスリングFREEDOMS所属。1998年8月23日デビュー。プロレスラーのなかでも、ごく一部の選手しか足を踏み入れないデスマッチの世界で 2000年代からシーンを席巻。現在に至るまでトップの座に君臨、国内のみならず海外での圧倒的な知名度を誇り「デスマッチのカリスマ」と呼ばれている。2009 年には東京スポーツ新聞社が毎年 12 月に発表する日本プロレス大賞で、インディーズであり、またデスマッチ形式の試合にも関わらず、永遠のライバル伊東竜二との激闘がベストバウトに選出されるなど数々の伝説を打ち立てている。

『狂猿』
5月28日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか 公開

主演:葛西 純(FREEDOMS)
監督:川口 潤
出演 : 佐々木貴(FREEDOMS)、藤田ミノル、本間朋晃 ( 新日本プロレス)、伊東竜二 ( 大日本プロレス )、ダニー・ハボック、竹田誠志、杉浦透 (FREEDOMS)、佐久田俊行、登坂栄児、松永光弘 ほか

Ⓒ2021 Jun Kasai Movie Project.

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