(取材・文/タナカシノブ)
ジャスティンの映画愛が詰まったアニメーション作品
ーー 世界のトップクリエイターを集めての作品作りはいかがでしたか?
「改めて振り返ると、自分でも何をどうやったのか思い出せないくらい、目まぐるしい行程でした(笑)。この素晴らしい機会に素敵な作品を作り、チャンスを掴まなければいけないという気持ちは強くあって、爆走しながらなんとか作り上げた気がしています。仲間の力を借りて、自分が思い描いていた作品を作ることができ、さらに、すでに新しいチャンスにもつながっているので、感謝の気持ちでいっぱいです!」
ーー 語りたかったストーリーが描けたとのことですが、ジャスティンさんがこの作品で描きたかったこととは?
「主に2つの軸があります。1つは環境問題です。人類が滅亡したときに、どんな世界が待ち受けているのか。その世界で生き残るための解決策は何なのか、ということです。もう1つは、子育てです。子どもを持つと、ものの見方が変わることは、自分が実際に体験してわかったことです。それを本作ではロボットを通じて表現しています。いろいろな価値観に目覚めていく様子を描いたつもりです」
ーー ジャスティンさん自身が、父となり一番変わった価値観を教えていただけますか?
「僕自身、子どもを持つまでに少し時間がかかったせいもあり、その分、インパクトが大きかったのかもしれません。ひとつ挙げるとすれば、人をここまで深く愛せるという感覚です。いまだかつてない感覚で、大きな気づきでもありました」
ーー 入江監督とのお仕事はいかがでしたか?
「とてもプロフェッショナルで、卓越した技術を持っている方で、心から尊敬しています。監督として参加してもらえたことは、本当に幸運だと思っています。真面目だけど、オープンマインドでもあるので、いろいろ模索する中、忍耐強く付き合ってくださったことに心から感謝しています」
ーー 入江監督が「忍耐強い」と感じたエピソードはありますか?
「作品作りにはつきものなのですが、やりとりがヒートアップして沸点に達する場面ってあるんです。でも、入江監督の場合はギリギリ達しない。そういうところに忍耐強さを感じました。フィードバックがスピーディーなのもありがたかったです。僕もクリエイターなので気持ちは理解できるし、何より入江監督のDNAを作品に組み込めるようにという思いがあったので、できる限りのサポートを心がけ、彼のアイデアにおまかせすることも多かったです。結果、コメディ的な要素も入ったバランスのよい作品になったと思います」
ーー 出来上がった作品のお気に入りポイントをあげるとしたら?
「『カウボーイビバップ』の川元さんが描いたキャラクターから、山寺宏一さんの声が聞こえてくる。思わず“That’s so cool!(すごくかっこいい!)”って叫びたくなる瞬間は、正直何度かありました(笑)。本当に大ファンなので。後半のエピソードでのロボットとの別れのシーン。ケビン・ペンキン(『メイドインアビス』)が手がける情景に伴奏する音楽がとても印象に残っています」
ーー 音楽もとても素敵でしたし、子守唄も心地良かったです。
「あの子守唄は、僕自身が子どもを寝かしつけるときに歌っていた子守唄なんです。それをケビンに聴いてもらったら、“いいね!”と言ってくれて。そのまま作品に使ってくれたんです。とても個人的な理由ではありますが、子守唄も気に入っています!」
ーー そんな裏話があったとは! では、ここからは映画のお話を聞かせてください。ジャスティンさんは普段、どんな映画を観ますか?
「映画の話なら何時間でもしゃべれるくらい、映画は大好きです。実家はビデオストアのオーナーだったし、父は映写技師だったから、小さい頃から日本、中国、ヨーロッパ、さまざまな国の映画に触れて育ちました。“映像で語るとはこういうことなのか!”と初めて気づいた作品は、ダスティン・ホフマンの『卒業』(67)です。あの時受けた大きな衝撃は今でも忘れられません。日本の作品でいうと、山田洋次監督の『隠し剣 鬼の爪』(04)や『たそがれ清兵衛』(02)、伊丹十三監督の『タンポポ』(85)などが好きです。もちろん、ジブリ作品などのアニメもすべて観てきました」
ーー 邦画のタイトルがずらりと出てくるのは、ちょっと意外でした!
「片っ端から観ていたので(笑)。幼少期に80年代のものを観てきた世代なので、もちろんスティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、ロバート・ゼメキスもしっかり通って、たくさんの刺激と影響も受けてきました。『インディ・ジョーンズ』、『スター・ウォーズ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は当然シリーズで観ているし、『E.T.』(82)も大好き。こうやって話しているだけでもワクワクしてきます。素晴らしい時代だったな」
ーー アニメーションのタイトルが出てくると思っていました。
「アメリカのアニメは子ども向けが多いけれど、日本のアニメはそういう定義付けがなく、無限大に広がっていくイメージがあります。だからこそ、僕自身が実写で観てきたものをアニメで作りたいという気持ちがあるんです。宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』(86)や『風の谷のナウシカ』(84)のような、大人も子どもも誰もが楽しめる作品を作りたいと思っています」
ーー ファンにメッセージを!
「『エデン』には、僕がいかに映画が好きで、ストーリーテリングが好きか、そのたくさんの想いと愛を込めました。作品をご覧いただいた方にもなにか感じ取ってもらえるといいなと思っています。アニメーションがストーリーを語るエンターテイメントとして素晴らしい芸術であることを、この作品で感じてもらえたらうれしいです」
Netflix オリジナルアニメシリーズ『エデン』全世界独占配信中
ジャスティン・リーチ
アメリカ生まれ。1997年にブルースカイ・スタジオに入社。アニメーターとしてのキャリアをスタートさせる。2001年に攻殻機動隊を手掛けたProduction IGの『イノセンス』にCG クリエイターとして参加するために来日。2005年には、ルーカスフィルムの3Dアニメーションシリーズ「スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ」の立ち上げメンバーとして参加。その後、2007年にブルースカイ・スタジオへ戻り『アイス・エイジ3/ティラノのおとしもの』、『アイス・エイジ4/パイレーツ大冒険』などのアニメーション映画に携わる。2012年には「映像研には手を出すな!」を監督した湯浅政明や「攻殻機動隊」シリーズを手掛けた押井守と共に、Production IG制作のもと『キックハート』に携わり、クラウドファンディングを活用したアニメ制作を日本で初めて成功させる。2018年には東京にアニメーション制作スタジオQubic Picturesを設立し、かねてからの夢である「日本のアニメーションと西洋のアニメーションの融合」を実現させるべく、Netflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』の制作を始動した。
エデン
監督:入江泰浩(「鋼の錬金術師FULLMETAL ALCHEMIST」)
キャラクターデザイン:川元利浩(「カウボーイビバップ」)
脚本:うえのきみこ(「王室教師ハイネ」「クレヨンしんちゃんオラの引越し物語 サボテン大襲撃」)
コンセプトデザイン:クリストフ・フェレラ(「ひるね姫~知らないワタシの物語~」クリーチャーデザイン)
アートディレクター:クローバー・シェ(「上海バットマン」)
音楽:ケビン・ペンキン(「メイドインアビス」「盾の勇者の成り上がり」)
原案・プロデューサー:ジャスティン・リーチ(「イノセンス」)
アニメーション制作:Qubic Pictures, CGCG
キャスト:サラ(高野麻里佳)、E92(伊藤健太郎)、A37(氷上恭子)、S566(新垣樽助)、ゼロ(山寺宏一)、チューリヒ(桑原由気)、ジュネーブ(甲斐田裕子)