『47歳 人生のステータス』
申し分ないキャリアと幸せな家庭を手に入れている47歳の中年男性ブラッドは、大学進学を目指す息子と2人でボストンへ向かう。その旅で経済的にも社会的にも成功した旧友たちと再会したブラッドは、次第に自分が築いた家族や仕事が果たして最高のものなのかと疑問を抱き始め、自分の人生を見つめ直していく。
監督・脚本:マイク・ホワイト 製作:プランBエンターテインメント 製作総指揮:ブラッド・ピットほか
出演:ベン・スティラー、オースティン・エイブラムス、ジェナ・フィッシャー、マイケル・シーン、ジェマイン・クレメント、ルーク・ウィルソンほか
配給:STAR CHANNEL MOVIES
価格:通常価格1,200円(税込)/MIRAILのみ47歳限定特別割引価格470円(税込)
ステータスに囚われる主人公・ブラッドの物語
――本作は中年の危機(ミッドライフ・クライシス)を繊細に描かれていました。監督自身の体験が反映されているのでしょうか?
「間違いなく、自分の経験したことが反映された物語になりました。自分は、元々は色んなことに充足しているタイプの人間だとは思っていたのですが、やっぱり、ちょっとネガティブになってしまうこともなくもなく……。そういう時は、気分が暗いところに向いてしまって、人と比較したり、他人をうらやんでしまっていました。そして、自分にはまだ何か足りてないんじゃないかと思ってしまう。そういう気持ちって、野心家の方ならば突き動かされる原動力にもなるんですが、僕はちょっと恥ずかしく思ってしまいました。それで、脚本を書いている時は、その恥ずかしさと直面しようと思ったんです」
――監督は過去に数々のテレビシリーズを手掛けていましたね。今回は、なぜ、映画に?
「本作は、主人公の主観を描いた物語です。だから、先ほど話したようなコンセプトを掘り下げていくことが一つだけ。言い換えると、ステータスに関して不安を抱えている男の話。その主人公が一つのことで頭がいっぱいになっているわけです。ブラッドが一つのことに囚われている。そんな人物なので、映画向きかと思いました」
――自分を負け犬だと思っているブラッドもまた、いい妻やいい息子がいて贅沢な悩みだと感じます。‟隣の芝生は青い“という言葉があるけど、悪くないことに気づく物語と思いました。
「おっしゃる通り。でもそれが問題。ブラッドの人生は、他の人から見ると羨ましいのかもしれません。ブラッドは自分の外側にある物差しで成功を測ることにより、心理的な痛みを招くのだと思います。所詮、隣の芝がどんなものか分からないじゃないですか? もしかしたら、自分と同じように、その人の素晴らしい人生に彼らも不満を持っているかもしれない。自分と他人の幸せや成功を比較することの不条理さを描きました」
――ブラッドと同級生たちが色んな人生を歩んでいますが、監督自身がこの作品の中で羨ましいと思う人生は?
「アハハ(笑)。全部が羨ましいよ(笑)! 今、ハワイに半分住んで仕事しているんですが、ハワイで二人の恋人たちと過ごしているビリーが羨ましいかな(笑)。でも、実は、すべての登場人物の生活が自分の羨ましいと思うことを形にしたんだよ。政治の世界で認められたり、自分のプールでパーティをしたり……そんな人生も羨ましくもないかな」
――ブラッドとトロイの父と子のロードムービーにも感じます。こういうユニークな手法のヒントは?
「ブラッドの不安を抱える思考というのは、常にその状態のわけであなく、アップダウンを繰り返すところが面白いなと思いました。彼をなんてことのない旅に物理的に出してみたら面白いんじゃないかと。息子と大学を探しに行く、その間にやる行為といえば、ホテルにチェックインしたりフライトのチケットを取ったり、何気ないことなんだけど。ブラッドにとっては、それが引き金となり、色んな気持ちが喚起されてしまうんです。僕にも共感できる部分ですね。例えば、今、ハワイに住んでいるんですが、嵐がくると家から出られずにいるのです。そういう時に、自分自身はアップダウンしてしまう。何もしてなくても心の中では荒れてたりするんです。それと同じような考え方だと。それを表現するためのボイスオーバーなんです。外側から観ればなんてことない、内側からみればものすごい強烈なドラマが起きている。ボイスオーバーを使うことによって表現している。ものすごいエゴが彼の中で湧き上がっていると」
――白いカーテンを使った演出も印象深いです。
「彼のもやもやっていう感覚に近いです。風が押し合っていて、彼の思考が行ったり来たりしていることを表現していました。彼の気持ちもアップダウンしている。そういう状態になったとしても、違う感情が背中を押してきたり……。その感情の現れがカーテンなんです」
ステータスorライフ? 本当に大事なことは……
――長年の友人のベン・スティラーとはミッドライフ・クライシスについて話したことはありますか?
「僕の脚本をベンが読んでくれたとき、すごいリアクションでした。ベンが『これ、僕だ!僕はブラッドだ!』と(笑)。いやいや、ベンはものすごく成功しているし、業界の中でも大スターで大金を稼ぎ出すことができる人物なのに、成功のバロメーターはどこの立ち位置にいようとも、こういう気持ちに対しての免疫ってないんだなと改めて思いました」
――人生の後半戦を逆転するには、どういう生き方をしたらいいのでしょうか?
「まず、成功というのは草の根キャンペーンだと考えています。スタートは自分で始まり、草の根活動は、自分の近い人たちに広がっていきます。そこからさらに大きなものになる人もいるかもしれないけど。大事なのは、自分をいちばん知っている人たちが、自分をどう見ているかということ。彼らの目に映る時に自分が成功しているかどうかであることが大事なんですよ。知らない人にとっては、実は現実の成功とその人との成功とかけ離れている幻影みたいなものだと思います。追いかけてもはかないものです。それを映画を通して表現できてればいいなと思っています。映画のなかでは、特に息子が父親に対して周りを感心させようとしていますが、周りの人は自分のことで手一杯なんです。自分の考え方の相違が本作で伝わればと思っています」
――本作ではアメリカの大学の事情が分かかるのも興味深かったです。
「まず大学進学の学生さんたちは、結構、大学を見学しに行く旅行をします。それは、アメリカでは珍しいことではないんです。面白いと思うのは、タフツとハーバードが出てきてもブランドが違うとは言うんですが、実際にキャンパスを見ると似てたりするんです(笑)。それは究極的なことであって、比較することの意味のなさを伝えたかった。だから、『違う』と思うこと自体が、自分が何かを比較していることに気づいて欲しいです」
――アメリカ人男性におけるステータスの上位を占めるものは何でしょうか?
「お金じゃない(苦笑)? アメリカ人の男性はものすごく資本主義的な考え方だし、特にハリウッドではそういうのが物差しになっている。他にも色々あるけれど、ステータスの一部にお金があるのかなと考えます。だからナンバーワンは残念ながらお金だと思うよ(笑)。僕は、個人的には、歳をとるごとに変わってはきているんですが、若い時は自分の仕事を認められたいという欲求が強かった。ただ、仕事を通して得られるステータスの喜びというのは限界があるのを歳を重ねて感じた。今、ハワイで暮らして半年くらいですが、ハワイのサーファーカルチャーの中で、最高の喜びはサーフィンを楽しんでることなんです。つまり仕事じゃないと。それを知って、仕事が自分のオールではないと気づいたんです。人生をより豊かなものにするには、仕事は方法の一つにすぎないんです。重要なのはライフ! そこにたどり着くためのゲートウェイが僕にとっての仕事かな」
マイク・ホワイト
多数の受賞歴のある脚本家、監督、俳優、プロデューサー。インディペンデント映画のブラックコメディである『チャック&バック』(2000)から、メジャーのコメディ映画『スクール・オブ・ロック』(2003)、『ナチョ・リブレ 覆⾯の神様』(2006)までと幅広い。また、ゴールデングローブ賞を受賞した HBO のテレビシリーズ「エンライテンド」(2011)で、ローラ・ダーンと共同企画&共演を果たし、全てのエピソードの脚本を担当した。