6月25日(金)公開のSF映画『Arcアーク』。SCREEN ONLINEでは、同作の原作者である世界的SF作家ケン・リュウにインタビュー。日本の製作陣への信頼や、愛する映画について、自身の作品が映像化される際のポリシーなど、貴重な話の数々を聞くことができました。(取材・文/平沢薫)

「映画には、原作とは別のヴィジョンがあるべきだと思っています」

そう遠くない未来を舞台に、ストップエイジング技術によって30歳の姿のまま永遠の命を得た女性、リナの歩む道を描く映画『Arc アーク』。ヒロインを『ファーストラヴ』の芳根京子が演じ、『愚行録』『蜜蜂と遠雷』の石川慶監督が手掛けたこの映画の原作は、中国系アメリカ人SF作家ケン・リュウの同名短篇小説だ。

ケン・リュウは、2012年に「紙の動物園」でネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞の三冠を史上初めて達成したSF作家。日本でも「紙の動物園」「母の記憶に」「生まれ変わり」「宇宙の春」と多数の短篇集に「蒲公英(ダンデライオン)王朝記」シリーズと、翻訳が続々刊行されている人気作家だ。そんなリュウ氏にとってもこの企画は魅力的だった。

画像1: 自身の小説を映像化する際のポリシーとは?映画『Arcアーク』原作者ケン・リュウ スペシャルインタビュー

「企画書を読んだら、舞台が日本になっていて、原点は私が書いたストーリーですが、それを監督独自の視点から描く映画になることが分かりました。監督が描こうとしているヴィジョンが伝わってきましたし、それに心を動かされました。だから、この映画のクリエイターと良いパートナーシップを描けるんじゃないかと思ったんです」

 そこで本作の制作にも参加し、台本の段階から監督とやりとりをして深く関わった。出来上がった映画を見て、もっとも感動したのは、人間の遺体にポーズをつける"プラスティネーション"のシーン。

「生者と死者がストリングスで繋がれて舞い踊る姿に圧倒されました。ストリングスが、まさにアーク(円弧)の形になって、生と死の間を繋いでいる。それとバレエとマーシャルアーツを混ぜ合わせたような踊りがシンクロする。私は日本の舞踏や伝統的な踊りについてはまったく知識がありませんが、日本文化のアウトサイダーとして見ても、あの踊りの動きには時間を超越したものを感じました。そして、フィルムメーカーが意識的に、未来的なストーリーと伝統的な動きを繋げて表現していることを感じて、とても興味深いと思いました」

 と、映画について熱く語るリュウ氏は、もともと映画が大好き。『スター・ウォーズ』のスピンオフ小説『STARWARS ジャーニー・トゥ・最後のジェダイ ルーク・スカイウォーカーの都市伝説』も書いている。これまでも映画化作はあり、「母の記憶に」は是枝裕和監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『真実』の劇中劇の原作になり、「良い狩りを」はデヴィッド・フィンチャー製作のアニメアンソロジー『ラブ、デス&ロボット』中の1作『グッド・ハンディング』として映像化されている。

「映画は大好きです。100年くらいしか歴史がないのに、メディアの中でもとても力を持つ存在になったところもユニークだと思います。SF映画だけじゃなくて、ヒッチコックのような心理的サスペンスも好きです。言葉に頼らずに、視覚的な要素で表現するような映画が好みです。好きな映画はとてもたくさんあって選ぶのが難しい。スタンリー・キューブリックはいいですね、特に『フルメタル・ジャケット』。クリストファー・ノーランの映画は全部いい。中でも『ダークナイト』シリーズ。彼はもっと評価されていいと思います」

 また、リュウ氏は、この5月に日本でも翻訳刊行が完結した、エイリアンの侵略計画への対抗策を練る人類を、長大な時間の中に描く中国SF小説三部作『三体』を英語訳して欧米に紹介した人物。その結果、この小説はオバマ元大統領やマーク・ザッカーバーグの愛読書となって話題を集めた。この小説は、人気TVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズの』クリエイターコンビ、デイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスが手がけることも決定、リュウ氏は制作にも参加している。続報が待ちきれない。

 そのように映画を愛し、映画と密接な関わりを持つリュウ氏だからこそ、小説の映像化については一つのポリシーがある。

「フィルムメーカーに私の小説を映画化したいと言われたときには、その人のヴィジョンに僕の作品とは違う新しいものがあるか、それを自分が信じることができるか、と考えます。というのも、私は映画というものは、例え原作があっても、その映画自体の美学やヴィジョンを持っているべきだと考えているからです。そうすれば、映画化がとてもうまくいった場合は、原作も映画も、どちらか片方だったらできなかったことを達成できる、と考えているんです。『Arc アーク』については、石川監督をはじめとするチームが、それを見事に成し遂げたと信じています」

KenLiu_Profile © Lisa Tang Liu

Profile
ケン・リュウ

1976年中国生まれ、8歳で渡米した中国系アメリカ人SF作家。2012年「紙の動物園」がネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞を受賞。日本でも人気で早川書房「SFが読みたい!」ベスト10の常連。短篇「母の記憶に」は是枝裕和監督『真実』(19)の作中映画の原作。「良い狩りを」の短篇アニメ化作『グッド・ハンティング』(19)がある。

発売中のSCREEN8月号では、上記と別内容のケン・リュウのインタビューを掲載。こちらも是非チェックを!

『Arc アーク』は本日6月25日(金)ロードショー

『Arc アーク』
6月25日(金)全国ロードショー

画像2: 自身の小説を映像化する際のポリシーとは?映画『Arcアーク』原作者ケン・リュウ スペシャルインタビュー

STORY
そう遠くない未来。放浪生活を送っていたリナ(芳根京子)は、故人の遺体を生きていた姿のまま保存する「ボディワークス」を作るエマ(寺島しのぶ)と出会い、彼女の下で働くことになる。それから数年後。エマの弟・天音(岡田将生)は「不老不死」の技術を完成させ、リナは処置を受け、人類史上初の永遠の命を得る。

配給:ワーナー・ブラザース映画  
監督:石川慶
出演:芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生/倍賞千恵子/風吹ジュン、小林薫
原作:ケン・リュウ「円弧(アーク)」
(c)2021映画『Arc』製作委員会 

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