亡き同性パートナーの母親とその孫の家に間借りをするジエンイー(モー・ズーイー)。ある日、母親が急死し、殺人を疑われ罪を認めるが……。家族を守るため罪を背負う青年の姿を通して、血のつながりを越えた家族の絆を描いたヒューマンドラマをチェン・ヨウジエ監督が描く。日本語が堪能なチェン監督が、作品誕生の背景などについてインタビューに応えてくれました。

偏見の根源は、知らないものに対する恐怖心

――本作の物語の着想について教えてください。

「2018年に台湾では同性婚に関する国民投票があったんです。その時、同性婚だけではなく、パートナー同士が家庭を作ることに関しての法律も含んだ投票でした。その際には、“家庭”というのは、どういう形であるべきかという論争がたくさんされました。同性婚やパートナー制が‟家庭”として認められたら、今までの伝統的な考え方だった社会というものが崩壊しちゃうのではないかという恐怖心などもあったようです。そこで、‟家庭”とは何かを改めて考えさせてもらいました。この映画も同性愛を描いていますが、‟家庭”をテーマにした映画なんですよね」

画像: ――本作の物語の着想について教えてください。

――主人公が取り調べを受けているシーンや職場での反応など、居心地が悪い感じがしました。同性愛に対する偏見はまだまだ強いのでしょうか?

「前よりはマシになりましたけど、まだまだ偏見は強いです。でもそれは、偏見と、意識していない無意識から来る偏見。それがまだ社会の色んな人の心に根付いているんですよね。台湾では、法律的には同性婚は認められましたけど、法律だけでは変えられない部分がたくさんあります。それは、理解をしていないからなんです。偏見の根源は、知らないものに対する恐怖心だと私は思います。法律は通ったけど、理解するスタンスは法律だけでは変えられません。色んなところからちょっとずつ理解を進めていくと偏見は少なくなると思います」

――劇中でも「話せばわかる」というセリフもありましたね。

「話すチャンスがあるかどうかなんです。本当は、こういう場面で話すものではない、違う場面で常々話す方がいちばんいいんですけど。本作では、話すことがもっと難しくなった状況が多いですね」

――取り調べのやりとりも緊張感がありました。リアルに感じましたが、リサーチなどはしていたんでしょうか?

「もちろん、作品のためにリサーチはしたんですけど、私は警察という職業に対して差別したくないので、できるだけ警察を悪く描かないように心掛けて撮りました。ただ、あのシーンの迫力は、俳優自身が発する演技の迫力ですね。ウー・ポンフォン(刑事役の俳優)なんですけど、実は本作を撮影して半年後に亡くなったんです。すごく実力派で、僕にとっても兄貴分的な存在でした。たくさん賞をとってる方でしたが、こういう役でも彼はあっさりと出演してくれたんですよね」

画像: ジエンイーを演じたモー・ズーイー

ジエンイーを演じたモー・ズーイー

――主演のモー・ズーイーを今作でキャスティングしたのは?

「彼はこの役に必要なものをすべて備えてると思うんです。ミステリアスだし使命感もありますし。ときどき、裏があるようなところも……。いい人にも捉えられるし、悪い人にも捉えられる。そんな俳優ですし、実力もある役者。僕は迷わずに彼にお願いしました」

――彼を起用して良かった点は?

「法廷でのシーンで、子役の子が裁判官に『お父さん マーク2(二号)』って呼びたいと言う場面がありました。そこで、モーの反応が意外でした。ありのまま脚本通りですけど、子どもの返事が意外で嬉しかったという気持ちが出ていて、ものすごく素晴らしいなと思ったんです。わざとらしくもなく、最初は何だからわからないようにきょとんとしているんですが、すごく嬉しい表情。この法廷の中でのモーの演技は予想外で嬉しかったですね」

――シウユーを演じたチェン・シューファンさんの演技も素晴らしかったです。

「おばあちゃん役の彼女は、台湾では‟国民的おばあちゃん”なんです。あえて日本で例えて言うなら、樹木希林さんかな。みんなから親しまれている俳優さんです。彼女は、こういうディープというか葛藤のある役はあまり演じてはいなかったんです。普段は、テレビにスターとして出ている方なんですが、素晴らしい俳優さんなんです。82歳なんですけど、60年間俳優をしてきた方なんですよ。その彼女が、去年はじめてこの映画で映画賞をとったんです! だから僕は彼女とお仕事ができてとても幸運でした」

画像: シウユーを演じたチェン・シューファン

シウユーを演じたチェン・シューファン

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