──シーズン1の第1話で、国際的な最重要指名手配犯・レディントンがFBIに自首(投降)するという、衝撃的なシーンに視聴者たちが一気に引き込まれました。 この物語はどのように誕生したのでしょうか?
決して、見覚えのないストーリーではなかったと思います。若者と仕事を強いられるベテラン犯罪者の物語といえば、似たようなものが他にもありました。例えば『羊たちの沈黙』のFBIエージェントなんかがそうですね。このドラマが始まった頃は、ジェームズ・"ホワイティ"・バルジャー(※元マフィアの首領で2011年逮捕、2018年獄中死。映画『ブラック・スキャンダル』ではジョニー・デップが演じた。)が捕まったころでした。彼も犯罪組織のボスであり、結果としてFBIへの情報提供者となっています。「ブラックリスト」のアイデアが生まれた時も、こういったタイプの物語は確かによくあるものでした。しかし、物語とは、得てして他の物語からアイデアを拝借して生まれるものです。本作も、バルジャーの実話や『羊たちの沈黙』のような先行するストーリーを参考にしているかもしれませんが、それは新しい物語を作り出す上での背景や起点にすぎません。
「ブラックリスト」は、こういった“お馴染みの設定なのに斬新”というストーリーがなければ、ここまで成功しなかったと思います。自首をして、若手FBIエージェントのエリザベス・キーンとの仕事を選んだ犯罪王という分かりやすい物語が受け入れられて、それが視聴者獲得につながったのだと思います。
それから、ジェームズ・スペイダーの演じ方や、彼の役の描かれ方が、このドラマを唯一無二なものにしています。彼ならではのアプローチでキャラクターを作っている。例を2つ挙げますと、まずは彼の活気あるユーモアですね。そのおかげでキャラクターに親しみやすさが生まれ、観客も彼を受け入れやすくなり、物語が楽しまれるようになっていると思います。
一方で、序盤で彼はエリザベス・キーンに彼女の傷跡や家族、母親について色々尋ねていましたが、そういった妙な、ちょっと面倒くさい興味を彼女に持つところもある。つまり、ストーリーの取っつきやすさと、彼のキャラクターへの取っつきにくさ。これが初期の頃の魅力になっていたと思います。
──シーズン1でレディントンがエリザベスに「犯罪者のように考えろ」と教えていました。シーズン8では、エリザベスがブラックリスターとなります。つまり、あのレディントンのセリフは、伏線だったのでしょうか?
そうです。最初の段階から、どういう展開にするかは決めていました。これはテレビシリーズでは珍しいことで、第1話では、たくさんの謎を提示するのが良しとされているんです。脚本家たちもその謎の答えについてはあまり知らない。だからこそ執筆が楽しいんですけどね。テレビシリーズって、視聴者と一緒に物語を明らかにしていくようなところがあるんですよ。でも「ブラックリスト」の場合、一緒にやっているジョン・ボーケンキャンプ(製作総指揮)も私も、レディントンとエリザベスの関係がどうなるか、初めから決めていました。
一方で、レディントンがエリザベスに「犯罪者のように考えろ」と言う。彼は彼女にとってどういう存在なのか?どういう関係なのか?と気になりますよね。やがてふたりがリンクして、何年もかけて、ふたりの物語を解明していく。その中で、エリザベスはずっと、もしも自分が本当に犯罪者になってしまったら、と考えています。彼女の母親もスパイで、ロシアの悪名高いシークレット・エージェントであることも判明しますよね。エリザベスは、レイモンド・レディントンが自分にとってどういう存在なのかに気づいておらず、ずっと気になっています。自分は何者なのか?自分の運命とは?母親のような人間になってしまう宿命なのだろうか?そういう考えが、ずっと彼女の中に、そしておそらくすべての人の中にあるのでしょう。そこに自由意志はあるのか?それとも両親によって運命は決定づけられているのか?とね。とても共感できるところだと思います。
彼女が、次第に犯罪者のような行動を取るようになっていく現実と戦う物語は、はじめから決まっていました。そういえば、最初のエピソードでも、彼女がペンを取ってレイモンドの首に突き刺すという、過激な行動を取っていましたよね。若くて繊細な、新米FBIエージェントという面を見せながらも、そういった傾向が年々大きくなっていくんです。
──「ブラックリスト」のストーリーの結末は最初から決めた通りに進んでいるのですか?それとも進めながら変更しているのですか?
とても良い質問です。レイモンド・レディントンとエリザベス・キーンの関係の真相は、初めからずっと決めています。これは一度も変更されていません。「ブラックリスト」が完結したら、過去のエピソードを見返してみてください。なぜこういう描かれ方をしたのか、もっと理解できるようになると思います。中には、理解が追いつかなかったり、困惑されたものもあるでしょう。でも、それも初めから決めていた通りなんです。
もちろん、新シーズン更新が決まって、エピソード数が増えたことから、物語の伝え方を調整することはあります。でも、ストーリーの根幹はずっと変えていません。
──メーガン・ブーンはこのドラマ以前には「LAW & ORDER:LA」に出ていて、「ブラックリスト」が始まった頃は新進気鋭の俳優でした。彼女をキャスティングした理由はなんですか?
まさにその通りで、パイロット版に向けてキャスティングをしていた頃、一番最初にキャスティングが決まったのが彼女でした。ジェームズ・スペイダーの起用よりずっと前のことでした。彼女がセリフ読みに現れたときのことは、昨日のことのように覚えています。エリザベス・キーンは当時、若くて理想主義者で、注目の若手女優だったメーガンと重なるところもありました。一方で、「犯罪者のように考えろ」というセリフもあったように、彼女はこのキャラクターと共にダークな道を進むことになるということは、オーディションの時から我々は分かっていたわけです。彼女なら、若さやフレッシュさ、無垢なところもありながら、ダークな部分を引き出す能力も持っていると、私は最初から強いフィーリングがありました。ダークな演技は今後求められると思っていましたし、パイロット版でも必要なものでしたから。ペンをジェームズの首に刺すシーンのようにね。オーディションに参加した他の候補者たちの中でも、彼女は群を抜いていました。若さやフレッシュさを出せる方はたくさんいましたが、ダークさも持ち合わせていたのは彼女くらいだったんです。