――本作の映画の構想はいつ頃考えましたか?
2016年~2017年にかけてです。その時にはこの構想がありました。最初は「地元から離れたお姉さんが帰郷したら⾃分の弟が誰かを殺した事に気づく」という構想でした。この映画は私の監督としての初めての作品です。最初の作品としては少し怖すぎるという事で、スポンサーにとっても出資しづらいので、ラブコメという受けやすいものに変えました。
――何故、潔癖症の2⼈が出てくるストーリーに変わったのですか?
初めの構想の際、弟は⾃閉症の設定だったんです。結局、潔癖症になったのは、どちらにしても最初の起源はリン・ボーホン(主役)の為に作った作品。あと iPhone で全編撮るという2つの要素が最初の発想。なので脚本をどう変えても、リン・ボーホンの為に書く脚本という事です。その後、もし絶対に家から出ない 2 ⼈が出会ってしまい恋に落ちたら、どんな話になるのだろうという発想から潔癖症になりました。
――撮影期間はいつ頃でしたか?
2019年5⽉1⽇にクランクインし、32⽇間撮影しました。なので 2019年6⽉の初めには終わりました。台湾では 2020年8⽉7⽇に公開したのですが、公開直前までやっていました。約 1 年くらいですね。
――そんなに時間がかかったのは何故ですか?
まず初めてiPhoneを使って全編撮影したという事が1つ。そしてハトとかヤモリ等が出ているのは全てCGです。ニッキー・シエ演じる⼥性主⼈公が劇中でベッドから落ちて夢の世界に⼊るようなシーンや⾳楽を作り込んでいたら気づくと1年経っていたような感じです。元々そんなに時間がかかる予定ではなく、当初は6ヶ⽉〜8ヶ⽉を予定していました。ただ今回で慣れたので、もしまた iPhone で映画を製作しようと思った時は多分時間短縮ができると思います。データのスペックなども、形式が変わったりするので初めてで分からない部分でした
――初めての長編映画でしたが、出来上がった作品を観ていかがでしたか?
監督としての第一作目なので、出来上がった作品を観て感動しました。この作品は2年くらいかかったので、早く皆さんに見せて、この作品の賛否を聞きたい、評価してもらいたいと思いました。
――潔癖症の男女が主人公のカップルです。身の回りで参考にしたことはありますか?
身の回りよりは、他の強迫性障害を描くアメリカ映画だったり、ヨーロッパのドキュメンタリーだったり、人よりも『作品』から参考にしました。ただ、手をこまめに洗うという癖は僕の奥さんがヒントです。手を洗うという動作=潔癖症というイメージが強いので、視聴者が見ればわかりやすい所作を取り入れました。色んなリサーチをしながら、ルール違反をしないようにしました。
――台湾アカデミー賞や海外での受賞も多数。特に海外でも受け入れられた理由はなんだと思います?
まず一つ目は、恐らく台湾の特色があるからじゃないかと考えています。例えばお寺とか占いストリートとか、男性主人公が住むアパートとか、小さな道とか。今までの映画で描かれている台湾は、都市部分のおしゃれでにぎやかなところを映画化していたと思うのですが、自分はあえて、日常の台湾を見せたいと思いました。もう一つはiPhoneで撮影しているところ。スクリーンがスクエアから広がったり。どんでん返しがあったり。対称性がある構図や鮮明な色を全部、ひとつの映画に含んだことが珍しかったんじゃないかと思います。
――個人的にも色彩がポップで印象的でした。
色の使い方なのですが、iPhoneに関係しています。まず、普通のカメラと違って、被写界深度やボケがないんですよ。他の方法で画面をきれいにしないと、iPhoneの欠点が出てしまうので、ポップな色合いで使うことがiPhoneの特性を生かすことだと考えました。
――⽇本映画の好きな作品や好きな監督、俳優はいますか?
北野武さんの作品を全て DVD で持っています。⼀番好きな作品は『HANA-BI』です。ほかには岩井俊⼆さんの『リリイ・シュシュのすべて』、塚本晋也さんの『六⽉の蛇』、ジャパニーズホラー『リング』などです。俳優で言うと、木村拓哉さんが大好きです! 彼の日本のドラマは、台湾人はみんな観ています。
――日本以外で、影響を受けた監督は?
アメリカのデヴィッド・フィンチャーさん、香港のウォン・カーウァイさんです。特にどの作品というのはないですが、これまでの作品を繰り返し観ています。強いて言うなら、『ゴーン・ガール』(フィンチャー)とか、『グランド・マスター』(カーウァイ)とかです。
――日本にいらっしゃる機会があれば何をしたい?
まずは、おもちゃ屋さんとスニーカー屋さんでショッピングします。コレクションしているんです(笑)。日本の道でたくさん写真を撮りたいです。日本の道の設計に興味があります。まだ日本に行ったことがないので、ぜひ行きたいです。
――日本のカルチャーにも興味があるのですか?
日本の雑誌『POPEYE』が好きでチェックしていました。ネットが普及する前の時代は、台湾に日本の情報があまり入ってこなかったんですが、日本のファッション雑誌を何とかして手に入れていました。ネットが普及してからは情報量が増えたんですが、それでも日本の文化はアジアのトップ文化の標準だと台湾では知られているんです。だから、オシャレなイメージの日本文化は参考にしています。
――日本で作品を撮ってみたいですか?
実は、今回の『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』に出てきた病院の名前が、次の次の作品名なんです(笑)。その作品もiPhoneで撮る予定のファンタジーラブロマンス。人の夢の中で、夢をかなえてくれるお年寄りのキャラクターがいるのですが、その役をぜひ日本人の方に演じて欲しいんです。理想は、北野武さん! 名前をあえて出したのは、ぜひ記事にして頂いて、この熱烈なオファーを受け取って欲しいです(笑)!
――日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』の特徴的なところはiPhoneで撮影されたところとスクリーンの画角が変動するところです。そして、潔癖症の男女が恋に落ちるんですが、いちばんラブラブな時期に男性の潔癖症が治ってしまう。そうなったら女性はどうしたらいいのか? 新しい感覚の台湾映画なので、これまでのイメージが変わってくれたら嬉しいです。
リャオ・ミンイー
1980年⽣まれ。国⽴台湾芸術⼤学応⽤メディア芸術研究所を卒業。2005 年から映像製作に従事し、ミュージックビデオ、コマーシャル、短編作品などに関わる。過去に映画『六弄咖啡館』『おばあちゃんの夢中恋⼈』『あの頃、君を追いかけた』などにスタッフとして参加。短編映画 『8624』、『合同殺⼈』の製作にも関わり、この2作は台湾の映画⼈材の育成や映画芸術の⽔準向上を⽬的として作られた「⾦穂奨」での受賞実績がある。
『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜』
8月20日公開
監督/脚本:リャオ・ミンイー
出演:リン・ボーホン、ニッキー・シエ
配給:エスピーオー、フィルモット
<STORY>
重度の潔癖症の⻘年ボーチン。家では隅々まで徹底的に掃除し、⾃⾝も何度も⼿を洗いシャワーを浴びる毎⽇。外出する時はもっと⼤変! 防塵服を着て⼿袋とマスクをするほどの完全武装! そのために彼は⼀般的な社会⽣活が送れず、他⼈から⾒るとまさに“偏⼈”であった。ある⽇、いつもの完全武装で電⾞に乗っていると、同じ⾞両に同じような完全武装をした⼥性ジンを発⾒!ふたりは運命的な出会いを果たす。