‟当時は緊張していたと思っていたんですが……思ってたより自然体でした(笑)”
――短編映画の『春』は、古川さんがデビューしたばかりの頃の作品ですよね。お仕事をはじめてすぐの主演ってどんな気持ちでしたか?
「確か、オーディションで決まった作品だったんですよ。受かったと聞いた時は、すごくうれしい感情があったと記憶しています。今、改めて考えると仕事をはじめたばかりで主演というのは大変だったと思います。経験がほとんどなかったので、プレッシャーすら感じたくても感じられないほど必死でした。とにかく周りの方に助けてもらいつつ、周りについて行くので一生懸命だったと思います」
――もともと女優を目指していたんですか?
「中学、高校、大学と演劇を続けていたので、目指していたというよりも、自然と選択肢の中に入っていたという感じです。大学生の頃、就職活動をする時に、『チャレンジ』のつもりで事務所に応募したのがきっかけです」
――『春』の主演が決まった頃って、主人公と同じ大学生ぐらいの頃ですか?
「大学4年生の卒業前だったと思います」
――状況が自分と似ていると感じたところはありますか?
「自分の好きなものや好きな世界観の考えを認めて、それを基に自分の人生を決めて押し進めていくのはすごく勇気がいることだなと思いました。主人公のアミは絵が好きなのですが、将来、絵で何かをしていこうという決心がまだついていない女の子です。彼女は、理想の進路と現実の間で揺れている状態だと感じました。私も仕事を通じて、ようやく責任感が芽生えたり、作品に関わる人の想いを知ることができ、今は、自分が最大限にできることは何かを考えられるようになりましたが、好きなものを仕事にする難しさと葛藤が似ていると思います」
――作中では、アミはおじいちゃんと二人暮らしです。古川さんのように若い人が、1人で認知症になったおじいちゃんの介護ってなかなか経験もないでしょうし、周りで参考になる方も少なかったのでは?
「おじいちゃんのお世話をするシーンはたくさんありましたが、正直、介護ということをあまり考えていませんでした。作品では、おじいちゃんとの関係性にフォーカスをあてていたので、当時、演じている間は介護という認識がなくて、『おじいちゃんと暮らすためには必要で当たり前のこと』という感覚でアミを演じていました」
――確かに。おじいちゃんとの生活という感じですね。
「撮影期間が3日間とはいえ、おじいちゃんとの生活を積み重ねていくことが大事だなと感じました。今までおじいちゃんができていたことができなくなり、それに対してのショックや苛立ちがあったり。自分が急に家の主導権を握る不安だったりをアミは感じたんだと思いました」
――3日間とは考えられない、何年も一緒に暮らしているリアルさがありました。
「撮影に使ったお家は、住民の方に許可を得て、実際に住んでいた古民家を貸してもらったんですよ。それも相まってあの生活感が出ていたのかなと思います」
――短いながら、印象に残っている撮影シーンってありますか?
「撮影に使ったお家は、住民の方に許可を得て、実際に住んでいた古民家を貸してもらったんですよ。それも相まってあの生活感が出ていたのかなと思います」
――短いながら、印象に残っている撮影シーンってありますか?
「ちょうどおじいちゃんとアミの精神年齢が同じになる、いちばん楽しい時期を、橋の上で撮ったんですね。田舎で街灯もなく真っ暗だったので、お化けの話をしたのを覚えてます。川の音もあり、田舎で一緒に住むって、こんな感じの日常だなと実感しました」
――3年ぶりに出演作を観て、どう思いました?
「私の記憶だと、当時はもっと緊張していたんじゃないかと思ったんですけど……。意外と思っていたより自然体だなと(笑)。当時って、カメラの前に立つことが怖かったり、たくさんのスタッフさんの前でお芝居する状況にまだ慣れてなくて不安だったと思うんです。演じる前に監督がご自身の認知症になったおじいちゃんとの話をしてくれたおかげで、その家に馴染めていけたように思えました」
――監督とは具体的にはどんな話を?
「お芝居自体は自由にやらせてもらっていたんです。私が演じるアミは、監督の分身の役ではあるんですけど、監督のキャラクターに寄せる必要はなく、お芝居は私に任せてもらっていました。監督のおじいさんに対する思いとか、思い出をひとつひとつ丁寧に教えてくださいました」