監督として円熟期を迎えた阪本順治が、「これを撮らなければ自分は先に進めない」という覚悟で取り組んだ本作。前作『一度も撃ってません』のドライなユーモアから一転し、自身の人生観や思索の後が色濃く反映した禁断の問題作となっている。
主人公の桐生薫は、孤独なロボット工学者。子どもの頃からずっと、自分が存在している実感を抱けないまま生きてきた。そんな不安を打ち消すため、今は誰も訪れない古い洋館で、「もう一人の“僕”」として、自分そっくりのアンドロイド開発に没頭していた。そんなある日、ずっと会っていなかった腹違いの弟が桐生のもとに訪れる。寝たきりの父親。駅で出会った謎の少女。様々な人々が交錯する中、桐生ともう一人の“僕”の間には“ある計画”があった──。
主人公の桐生薫を演じたのは、日本映画を代表する俳優・豊川悦司。初期の頃から多くの阪本監督とタッグを組んできた。阪本監督は、脚本執筆前から主演に豊川をイメージ。ルックスや空気感も含め、役者としての持ち味を生かしつつ特異なキャラクターを創造した。その想いを受けた豊川もまた、自身の解釈を巧みに織りまぜながら、阪本監督の分身とも言うべき、この世に身の置きどころのない男の悲哀を全身で体現している。豊川さんご本人からは「作り手の確固たる意思を伴った冒険作」と力強いコメントが到着した。※コメント全文は下記掲載
義理の弟役には、エッジの利いた芝居に磨きがかかる安藤政信。いつも何かに苛立っている厄介者の危うさを、色気たっぷりに表現してみせた。父親役にはベテラン・吉澤健。ほかにも風祭ゆき、本田博太郎など個性的な演技派ががっちりと脇を固めている。
今回解禁となったポスタービジュアルは、主人公の桐生が抱える絶望的な孤独感を、漆黒の抽象空間に一人佇んでいる事で表現されている。「僕は、ずっと、フィクションだった。」というキャッチコピーが示しているように、自分が存在している実感を抱けていない心の内の葛藤が伝わってくるビジュアルに仕上がっている。未曽有のウイルス災害によって、社会の断裂が色濃く見え隠れする現代において、誰もが「個人としての自分」と向き合いながら、強烈な「孤独」を感じる人々の一助になるかも知れない衝撃の異色作が誕生した。
▼豊川悦司さんコメント全文
撮影は2年前になりますが、この時代にこの物語が受け入れてもらえるかどうか、正直不安がありました。映画である以上、それなりの時代性を伴ってこそ、観客の共感を得ることができると思っていたからです。来年公開されるこの阪本監督の新作は、ある意味、かつてはあり得なかった世界の中でこそ、体験する価値のある作品のような気がしています。もちろん撮影当時は誰もが、今起こっている、このコロナ禍の現実を想像できてはいませんでしたが、あまりに突飛なこのストーリーは、懐古趣味な部分もありますが、作り手の確固たる意思を伴った冒険作だと思います。 偶然と言えばそれまでですが、映画だからこそできる世界観を、ウィズコロナという、不安定な世界観の中で、観ていただいた方の中に、たくさんの想いを残せるのではないかと考えています。
弟とアンドロイドと僕
2022年1月7日(金)より kino cinéma横浜みなとみらい・立川髙島屋S.C.館・天神 ほか全国順次公開
配給:キノシネマ
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