生涯現役、変幻自在の音楽活動のはじまり
1970年代からグラム・ロックのスターとして、英国のみならず世界的に活躍し、多くの映画にも出演、音楽界のアイコンとして、多彩な活動を続けたデヴィッド・ボウイ。
2000年に入った頃、活動が滞るも、2013年、66歳の誕生日に『ザ・ネクスト・デイ』を発表。その後、遺作となる28枚目のアルバム『ブラックスター』を残す。いわば、「生涯現役」で音楽に捧げた魂と生き方が尊い。
ボウイとしてのメジャーデビューを果たす以前、『ジギー・スターダスト』(1972)を発表し、同名の名義で「別人格」のミュージシャンとして活動。その後、様々な試みを経て、世界に知られるデヴィッド・ボウイが誕生した。
その「ジギー・スターダスト」となるまでの、若かりしデヴィッドを描いたのが、本作『スターダスト』。
冒頭では、スタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』(1968)のオマージュ的シーンが登場。この映画から着想して作られたといわれる、『スペイス・オディティ』(1969)が、ミュージシャンとしてのデビュー2作目となり、全英で注目され出していたデヴィッド。
さらなる野望を抱いて、全米ツアーに、命運を賭けることになる。そのツアーは、彼の才能を信じるマーキュリー・レコードのパブリシスト、ロン・オバーマンの手腕に運命を託すかのような旅であった。
しかし、オバーマンの提案とは、ことごとく真逆な行動をとるばかりのデヴィッド。そこには彼なりのこだわりや、一辺倒な宣伝には屈せない精神が息づいていた。同時に、彼に大きな影響を及ぼしていた、精神を病んでいる兄との絆。彼がどうしてもミュージシャンとして生きなくてはならなかった答えも、そこにあった。
有力な放送局や雑誌の予定調和的なインタビューに迎合しない、その個性とアナーキーな魂による音楽活動の末に、彼が手にしたものとは……。
グラミー賞ノミネイトと受賞を重ね、世界的な音楽界の栄光を手にした、デヴィッド・ボウイ。彼の「青の時代」を描いた本作は、音楽や映画の世界のみならず、夢と野望を抱き、成功をめざす世代に、勇気を与えてくれる映画でもある。
ボウイを演じた、ミュージシャンでもあるジョニー・フリンの、一挙手一頭側に惹きつけられ、オバーマンを演じたマーク・マロンとの、火花散る競演の場面にも引き込まれる。
ボウイの若かりし頃に、強く惹かれる
── ボウイが亡くなった2016年1月10日の翌日、ドイツ外務省が、「デヴィッド・ボウイよさようなら。あなたは私たちのヒーローです。壁の崩壊に力を貸してくれて、ありがとう」という意の、謝意と弔辞を表したツイッターを世界に発信しました。ベルリンの壁崩壊の2年前に、西側の壁の前にステージを作り、4分の1のマイクは東側に向けて、『ヒーローズ』や『レッツ・ダンス』を演奏し続けたことは、音楽界への貢献だけでなく、社会的な貢献をも果たしました。そこから彼は、歴史に残る「偉人」となって輝いています。
レンジ監督は、そんなボウイの、あえて若い頃、無名に近い頃に光を当てて、『スターダスト』という映画を作りました。「誰もが知っている事実ではない事実」を知り得て、実在の著名人を描くことには、どのくらいの準備や、資料を揃えたのでしょうか。
個人的に、青年の頃からデヴィッド・ボウイが大好きで、多くの楽曲を聴いていました。成人してからも、彼の伝記をいくつも読み、神のような存在になっているデヴィッド・ボウイにも、ミュージシャンになることを夢見て懸命にあがいていた時期があったことを知りました。
それで、それまで以上に、彼に心を奪われていきました。これを自分の手で、映画にしてみたいと思いました。
多くの伝記や資料で調査していくうち、ラッキーだったのは、精神病を病んでいたデヴィッドの兄のテリーが入院していた頃、同じ病院の元患者と知り合う機会を得たことでした。テリーとデヴィッドの兄弟の絆について詳しく知ることが出来ただけではなく、兄の病いを案ずると同時に、兄の(多重人格的)精神病が、デヴィッドの人生と音楽に大きく影響していることがわかってきたのです。