デヴィッド・ボウイといえば、2016年に69歳で惜しまれてこの世を去ったが、ドイツ外務省から、ベルリンの壁崩壊のきっかけにもなったといわれる、西側の「壁」を前にしたコンサートを行った、「勇気」への謝意と弔辞がツイッターで贈られたことは記憶に新しい。改めて、彼の存在と音楽の力、活動した時代のことが想い起された瞬間だった。そのボウイへのリスペクトを原動力に、映画『スターダスト』に取り組んだのがガブリエル・レンジ監督。完成させた作品は、まだ世界中がデヴィット・ボウイを知らない時代のこと。夢と野心を抱いてあがいていた、ボウイの事実にもとづいた物語である。その想いを、レンジ監督にインタビューで聞いてみることが出来た。

ボウイ以前の、「ジギー・スターダスト」という別人格

── 本作にも、兄の多重人格性が、弟の自分にもDNA的にあり、いつか発病するのではないかという、強迫観念にさいなまれるデヴィッドの姿が描かれていましたね。例えば、女優のマリリン・モンローも、母親の精神病が自分にも発病するのではないかという不安に、生涯さいなまれていたと伝えられています。

画像: ボウイ以前の、「ジギー・スターダスト」という別人格

そういう意味からも、(1970年にリリースされた3枚目のアルバム)『世界を売った男』(原題『The Man Who Sold the World』)には、精神病をテーマにした曲が多いですよね。

『ジギー・スターダスト』というアルバムを発表して、自分の「別人格」としての架空のスター、「ジギー・スターダスト」を名乗り活躍したのも、(多重人格的精神病だった)兄の存在からの影響だということがわかります。

── そういう時期のボウイを、あえて映画にしたいと監督に思わせた、「デビッド像」とはどのようなものでしょう?

デヴィッドがまだこれからという、その頃の彼の、とにかくどんなことをしてでも、音楽界で成功したいという野心の強さ。それは人と比べようがないほど大きいものだと知りました。その姿や感情、熱情を映画にしてみたかったですね。

── 監督は当初、イギー・ポップと共にベルリンに住まい、音楽活動をしていた頃の彼を脚本にした映画を企画されていたとのこと。今も取り組んでいらっしゃるそうですので、次は、それが映画になるのでしょうか?

彼の楽曲の権利関係に時間がかかると思いますし、まだ、次回作にするかどうかは、はっきりとはしません。

また、彼のヒット曲を沢山使った映画は、それなりに素晴らしいでしょうけれど、反面、良くも悪くも「グレイテスト・ヒッツ」的な映画になりがちです。

そういう作品とは一線を画した、人間性を掘り下げた作品を作りたいという想いがあります。今回の「知られざる」若きデヴィッド・ボウイなら、彼の心情に近づける。そう思って、まずは本作に取り組んだわけです。思ったとおり、夢を追う若者の一人としてのデヴィッド像を掘り下げ、楽しみながら作れましたし、仕上がりにも満足しています。

ミュージシャンでいることの必然性

── 監督とお話ししていて、気づかされましたが、もしかしてデヴィッド・ボウイは、彼の兄のような多重人格という病にかかる前に,自らミュージシャンという方法をとって、「多重人格者」になってしまおうと考えたのではありませんか?

だから、生涯ミュージシャンでいたかった。生きるための必然的な職業だったんでしょうか、彼にとって、ミュージシャンは。だから、人一倍、その仕事で認められたいと野心を燃やしたんですかね?

画像: ミュージシャンでいることの必然性

そのとおりだと思いますよ。『ジギー・スターダスト』を作ったのも、彼にとっての安全な場所を作るためだったんです。このアルバムが出た頃、そういう話はされていないですが、言い換えると、多重人格者にならないために、自ら多重人格を作ったと言えると思っています。

本作を作ってみて、そういった多くの発見をすることが出来たし、あまり知られていない、スターがスターになる前の生きざまを探ることは、とても楽しい仕事だったんです。

〜インタビューを終えて〜
若い頃を知ることで、ボウイの持続可能な音楽人生も見えてくる

ボヘミアン・ラプソディ』(2018)では、「クイーン」のフレディ・マーキュリー、『ロケット・マン』(2019)のエルトン・ジョンと、音楽界のカリスマを伝記的に描いた映画作品が続く中、本作はデヴィッド・ボウイの音楽関係者が関わっていることもないし、ヒット曲も登場しない。だからこそ、その分、デヴィッドの人間的な内面に、思いっきり迫ることが出来たのだと、前向きに語るガブリエル・レンジ監督。

大島渚監督『戦場のメリークリスマス』(1983)に出演したボウイについての感想をうかがってみたかったのだが、残念なことに観ていないと言う。

大スターになってからのボウイを、日本軍の敵国捕虜として、地中に首だけ出して埋めてしまうという、ショッキングで大胆な、大島監督の演出を知っていたら、きっと興味深い発言も飛び出したことだろう。出来るだけ早く観て欲しいと、お薦めした。

ともあれ、レンジ監督が今回描いた,「ボウイとなる前のデヴィッド」の若かりし頃の「無軌道」にも思える、独創的でチャレンジングな精神は、デヴィッド・ボウイが生涯絶やすことがなかったことをも、物語るものだと感じさせる。

無名の頃も、有名になってからも、いつも時代の新しい風を巻き起こし、変幻自在な音楽活動を続けたデヴィッド・ボウイであったが、その源流が、家族からの影響が大きかったったということを伝えてくれる本作、『スターダスト』。貴重な映画の誕生である。

『スターダスト』
2021年10月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ ほか全国公開

画像: 映画『スターダスト』予告編(60秒) youtu.be

映画『スターダスト』予告編(60秒)

youtu.be

監督/ガブリエル・レンジ
プロデューサー/ポール・ヴァン・カーター, ニック・タウシグ, マット・コード
脚本/クリストファー・ベル, ガブリエル・レンジ
出演/ジョニー・フリン、ジェナ・マローン、デレク・モラン、アーロン・プール、マーク・マロン
2020年/イギリス・カナダ/109分
原題/STARDUST
©COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC

提供/カルチュア・パブリッシャーズ/リージェンツ
配給/リージェンツ 
公式HP/DAVIDBEFOREBOWIE.COM

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