非現実的な世界のリアルで、現実の世界の理不尽さを描く
── 本作は、今、コロナと闘っている我々に、勇気を与えてくれる映画だなぁとも思います。銀行強盗から、行きがかり上、戦士となったニコラス・ケイジが、不条理な世界を変える「ヒーロー」として活躍する。これって、今コロナウイルスと闘っている最中の我々にとっての象徴的存在として設定された、というわけではないのですか?また、コロナ禍で撮られたのでしょうか?
まず、コロナ禍になっていたら撮影は中止になっていたでしょう。コロナ禍のギリギリ前に撮れて、セーフという感じです。だって、これだけエキストラが多い映画ですから、コロナ禍では撮れなかったでしょうね。よって、コロナ禍前ですから、コロナとの闘いを意識したというわけではないですね。
── それでは監督が、今回の作品作りにおいてのスローガン的に掲げられた、「非現実的な世界のリアルを描くことによって、現実の世界の理不尽さを描き出す作品にしたい」ということって、どのあたりに描かれていますか?
アメリカからのオリジナル脚本には、ゴーストランドの原子力発電所が爆破されるというのがあったので、それを日本で撮るなら、福島の原子力発電所のことや、原爆投下された広島のことを描かないとダメだなと思いました。このあたりを『ゴーストランド』に重ねながらやってました。
(映画の中で重要な存在となっている『ゴーストランド』を支配している)大きな時計台がありますよね。あの時計の針は広島の爆弾投下の直前一分前の時間を指しています。それが進まないように住民たちが綱で引っ張って抑えているんです。
── そうだったんですね、なるほど。深いですね。
そういう日本での重大な歴史的出来事を、声高にスローガンとして掲げるのではなく、ディテールとして描きました。
初のハリウッド映画づくりを、思い出づくりにはしない
── SF的でもあり、ゴシック・ファンタジーやお伽噺風味を感じさせるエンタテインメントの中にも、社会的メッセージが読み取れる作品なんですね。
監督は、この作品で、一度はハリウッド映画を作りたいという想いを達成され、今回は大成功だったというお気持ちですか?
あ、まず、一度じゃないですよ、これからもハリウッド映画を作ることは続けていくんです。この作品を思い出づくりの一作にはしたくないですから。
── え、これを機に、ハリウッドに行ってしまう?
行きます。もちろん、今までのような国内での作品も続けますが。次は日本を離れた場所で撮りたいから、次はあっちに行きます。
── 例えばですが、『ロスト・チルドレン』(1995)で成功したフランスのジャン=ピエール・ジュネ監督のように、ハリウッドで『エイリアン4』(1997)を作っても、その後はハリウッド作品は作っていなくて、次の大ヒット作品となった『アメリ』(2001)からまた、フランス映画に戻っています。
ハリウッドでは、どこか思うものにならないということがあるのかなと。そういう意味では、監督は、今回上手くいったとお感じになったと思うからこそ、次も、というお気持ちがある?
フランスの監督だけではなく、日本人やヨーロッパの作り手でも、確かにハリウッドに長居するってこと少ないかもしれませんね。僕の場合、今回はまだ大成功かはわかりませんが、十数年まえからのハリウッド映画を作りたいという想いを現実のものに出来た。同時に次なる作品作りへの意欲もあります。
今回は気心の知れた日本人の俳優たち、仲間たちに囲まれた中で出来上がった作品で、国内で撮影しましたから、次には、新たな試練があっていいとも思っているところです。
── で、まずは、本作は想ったとおりの作品になったということですね。
思いどおりになりました。上手くいきました。
完成した作品からは想像できない苦労とは
── そこに安住しないで、「次がある」ということが意欲的で素晴らしいですね。次回作もニコラス・ケイジを起用して、というようなお考えもありますか?一緒にお仕事されると、また一緒に絶対やろうとか、もう二度としないという、どちらかになるようですが?
今のところ、ニコラスと次回作を、ということは考えていませんが、とにかく彼や、ソフィア・ブッテラ、ビル・モーズリーなど出演してくれた面々とは酒などを酌み交わして気さくに、またやろう、と言っていますけれどね。
── 撮影中に大変なことなんか、あったんですか?と言うのも、この作品はアメリカの沢山のメディアのレビューで、こぞって、「愛すべき映画だ」「大好きだ」「楽しめた」と絶賛されています。でも、一番楽しんだのはやっぱり、監督ご自身だろうなと。
大変なこととか、苦労したかと言われれば、作品からは、そうは感じさせないかもしれないですが、予算が少ない中、切りつめなくてはならないのが撮影時間でしたね。早朝から夜を徹して次の朝までなんて感じで撮って行きました。毎日が崖っぷちのようでした。
── そうでしたか。ニコラス・ケイジもそれで問題もなく演じたのですか?
日本に来たんだから、日本のやり方でいいよって言ってくれましたね。
映画の現場で映画を撮っていれさえすれば楽しいから、次がある
── それも監督へのご信頼あってでしょうね。作品から予算的なご苦労なんて感じさせないのも、園監督の才能ですね。また、そんなご苦労も、完成したら一挙に吹き飛ぶのではないでしょうか。
手前味噌な例で恐縮なんですが、この連載や拙著(『職業としてのシネマ』)でも、いつも述べ続けておりますが、「映画監督は王様である」という私の考えを、今回の園監督作品で確信を得た想いがあります。
なぜなら、ニコラス・ケイジは裸にしてしまうわ、カッコイイ、ニック・カサヴェテスの顔を(彼とわからないように)あんなにしてしまったりと、やりたい放題(笑)なんですから……。監督は、まさに王様で、思いどおりに人を動かし、映画づくりを誰よりも楽しめる羨ましい職業だと思い続けております。
いや、王様は映画プロデューサーでしょう。僕は突き上げをくらいながらも働く平社員かな(笑)。でも、とにかく現場で映画を撮っていることが楽しくて仕方ないですよ。撮っていたら楽しいんです。例え完成しなくたって映画を現場で撮っていられさえしたら。
(インタビューを終えて)
インタビューの最後に、園監督の持続可能な仕事ぶりの秘密に辿りつけた想いに心が躍った。
沢山の問いかけに対して、返ってくるフランクなコメントの数々は興味深いばかりであったが、この最後のコメントに、ご自身の病魔や、限られた条件の中で仕事をやり遂げ、乗り越えるることが出来る力の原動力があることを気づかせてくださった園子温監督。
映画プロデューサーがお金を用意しても、映画監督がいなかったら映画は生まれない。ぜひ、これからも映画を作るエネルギーを絶やさないでご活躍をと願うばかりです。
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』は、私にとっても愛すべき映画になった。
『プリゾナーズ・オブ・ゴーストランド』
2021年10月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
監督/園子温
製作/マイケル・メンデルスゾーン レザ・シクソ・サファイ ローラ・リスター コウ・モリ ネイト・ボロティン
脚本/アロン・ヘンドリー レザ・シクソ・サファイ
キャスティング/チェルシー・エリス・ブロック
撮影/谷川創平
美術/磯見俊裕
編集/テイラー・レヴィ
音楽/ジョセフ・トラパニーズ
衣装/松本智恵子
出演/ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサヴェテス、TAK∴(坂口拓)、中屋柚香、古藤ロレナ、縄田カノン、栗原類、渡辺哲、潤浩ほか
配給・宣伝/ビターズ・エンド
アメリカ/2021年/105分/カラー
公式HP https://www.bitters.co.jp/POTG/
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