(Photo/久保田司 Interview/佐久間裕子)
‟ありとあらゆるシーンでニコラスをママチャリに乗せたかった”
ーーハリウッド映画を撮ることになった経緯を教えて下さい。
「準備が始まったのは3年くらい前です。10年以上前からアメリカで映画を撮りたいなという気持ちがあり、『愛のむきだし』を撮る前にアメリカに渡り、最初のプロモーション活動をしました。でも全然うまくいかなくて、帰国してなにクソ精神で撮ったのが『愛のむきだし』でした。一旦デビューして、その後も、ずっとハリウッド映画を撮り続けたくて、なんとか足がかりを作ろうと頑張ったんだけど、なかなかうまくいかなかったんです。4年ほど前に今回の作品の脚本が僕の手元に届いて、何としてもハリウッドデビューしたかったので、この映画をやることに決めました。撮影の1年くらい前に、ニコラス・ケイジがやってもいいと言ってくれて、そこからは展開が早かったですね」
ーー最初に脚本を読んだときは、どんなことを感じましたか?
「いわゆるアクションのオーソドックスなストーリー展開だったので、これはイジれるなと思いました。脚本そのものは典型的なハリウッド・スクリプトだったので、そこに僕なりに斬新なことをいろいろ取り入れればいい、と」
ーー監督ならではの要素として、どんなものを取り入れていったのでしょうか。
「実は脚本家が書いたオリジナル・スクリプトから60%くらい僕がリライトして今の形になりました。設定を日本に移し替えた時点でオリジナルにはなかったTAK∴(坂口拓)の役を作り、彼がニコラスの一番のライバルであるけれども、ある種の友情みたいな感情も芽生えていく……そうやってシンプルな脚本のディテールを僕が考えたアイデアで埋めていきました」
ーーということは、最初はサムライタウンなど、日本的な設定はなかったんですね。
「最初はメキシコを舞台に60年代、70年代のマカロニウエスタン風の作品にしようと思いました。でも2年前に僕が心筋梗塞になり、ニコラス・ケイジが『子温の体調が心配だ。日本で撮影したほうがいいんじゃないか』って言ってくれたんです。僕は単身でハリウッドに行き、スタッフもキャストも全員向こうの人でという気持ちでいたので、日本で撮影した作品でハリウッドデビューなんて絶対にありえないと思っていました。でもふと思ったのは、日本を舞台にしたニコラス・ケイジのアクション映画って、アメリカの人からしたらフレッシュなんじゃないかと。日本的に考えず、角度を変えたらおもしろいものができるんじゃないかと気が付いて、じゃあ日本で撮影しようってことになりました。元の脚本では本当はクライマックスに『マッドマックス』調のカーアクションがいっぱい入っている予定だったけど、チャンバラ=サムライアクションをクライマックスに持ってきました」
ーーニコラス・ケイジが着ているボディスーツの股間に爆弾が仕込んでありましたが、あれも監督のアイデアですか?
「爆弾はオリジナルスクリプトです(笑)。僕は真面目にハリウッドに憧れていたので、最初の映画にはああいうシーンを描こうとは思いませんでした。あれじゃ日本でやっていることの延長、『TOKYO TRIBE』か! ってなっちゃうので(笑)。ただ実はこの映画の世界観を僕は『TOKYO TRIBE』で一度経験しているんですよ。あの映画はオールセットで現実の風景が一つも出てこないんです。今回の映画は、『TOKYO TRIBE』でやったことをもう一歩前進させた感じになりました」
ーー日本らしいといえば、ママチャリに乗っているニコラス・ケイジは笑えました。
「実際はありとあらゆるシーンでニコラスをママチャリに乗せたかったんだけど、プロデューサーから反対をくらいまして(笑)。ニコラスはおもしろいと言ってくれたんだけど、ママチャリアクションは叶わなかった。でもちょっとでも爪痕を残しておこうと思って、あのシーンを入れました」
ーーママチャリに乗ったニコラス・ケイジを見て、現場のみなさんの反応はいかがでしたか?
「みんな感動してましたよ。ニコラスがママチャリに乗るなんて信じられない光景だから」
ーーいっしょに仕事をして感じたニコラス・ケイジの印象を教えてください。
「本当に普通の人だなって思いました。撮影の半年くらい前に東京に遊びに来て、一緒に新宿のゴールデン街で飲んだんです。そこで意気投合しました。飾らないし、いわゆるボディーガードもつけない。まだそのときは、メキシコを舞台にしたマカロニウエスタン調にするつもりだったから、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』のチャールズ・ブロンソンみたいにしたいと思っていたら、彼も同じことを考えていたんです。この人とはウマが合うなって思いました」
ーー園監督の映画のヒロインは強いイメージがあるので、ソフィア・ブテラ演じるバーニスが守られる存在なのが印象的でした。
「今回アクションシーンは少なかったけど、ソフィアはダンサーでもあるので、アクションもすごくキレがあってうまい。素晴らしかったです。プロデューサーが彼女にシナリオを送ったときに、ちょうど『CLIMAX クライマックス』という映画に出ていて、監督のギャスパー・ノエが『園子温の映画は絶対に出ろ』と強く推薦してくれたそうで、『彼がそういうなら本当だろう』ってことで引き受けてくれました。ギャスパーさんに感謝です(笑)」
ーー園監督の作品は凄惨な場面でやりすぎて笑えたりすると思うのですが、今回は毒気のある笑いみたいなものを意識した部分はありますか?
「今、自分の毒や狂気は小出しにしているんです。ハリウッドの2作目、3作目くらいからいよいよ狂気を露呈していこうと思っているけど、今はまだ早いかなと思って。アメリカのインタビューでも『日本で撮る作品より毒は薄めになっていない?』って聞かれました。僕の映画を観ている人たちにはそう言われるけど、いきなり『こういう作風の人』って思われたくないから。僕ら日本人監督がハリウッドに行くと、ホラーだったりジャンルを特定されることが多いんだけど、僕はドラマで勝負してみたい。2作目からはヒューマンドラマをやろうと思っています」
園子温
1961年生まれ、愛知県出身。86年、ぴあフィルムフェスティバルで入選の『俺は園子温だ!』で監督デビュー。翌年、『男の花道』で同フェスティバルグランプリを受賞。『自殺サークル』(02)、『冷たい熱帯魚』(10)、『ヒミズ』(11)、『地獄でなぜ悪い』(13)など多くの作品で国内外問わず様々な映画賞を受賞している。最新作『エッシャー通りの赤いポスト』が待機。
プリズナーズ・オブ・ゴーストランド
10/8(金)公開
出演:ニコラス・ケイジ ソフィア・ブテラ ビル・モーズリー ニック・カサヴェテス
監督:園子温 配給:ビターズ・エンド
<STORY>
銀行強盗だった男・ヒーローは裏社会を牛耳るガバナーに、バーニスという女を連れ戻すように命じられる。爆弾が装着されたボディスーツを着せられた彼は「ゴーストランド」にたどり着くが……。
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